前編では日本・東京のダンスミュージックシーンの歴史を振り返り、今を見つめ、未来へと繋ぐべく開催された「TOKYO DANCE MUSIC WEEK(TDMW)」について、主催であるWatusi&Naz Chrisにその意図、そして意義を語ってもらったが、この後編では「TDMW」を経て今僕らには何が必要で、何をすべきなのか、シーンに対する率直な思いを聞いてみた。
Watusi&Naz Chrisが今こそ必要だと考えるもの……これからのために立ち上げた「Japan DJ.net」、そしてコロナという未曾有の苦境にある今こそ行うべきこととは?
2021年に向け、輝かしき未来に向けて、ぜひ1人1人が考えて欲しいこと……。
Watusi&Naz Chrisインタビュー(前編)TDMW〜Japan DJ.net…今自分にできること
◆未来のシーンのために、今こそ必要なハブ…Japan DJ.net発足
――「TOKYO DANCE MUSIC WEEK(TDMW)」の経験を今後どう活かしていきましょう?
Watusi「やっぱりクラブの現場に還元したいよね。店舗だけでなく、それこそDJやオーガナイザー、あとは個人でレーベルをやっている人とか。頑張っている、必要としている人たちのためになるといいな」
――具体的に何かプランはありますか?
Watusi「1つはハブ機能を作ること。今はDJ同士のネットワークはおろか、行政やマスコミなどとのハブがないからさ。今後はいかに多様な現場の人たちと繋がりをもてるかが重要だと思う。俺自身、何十年も活動しているけど、他ジャンルのオーガナイザーになると全然知らないし。彼らのことを知りたいと同時に俺が持っている必要な情報を彼らに投げられる機関を作りたい。しかも、それは国内だけでなくゆくゆくは海外、それもアーティストやDJだけでなくイベントやレーベル、様々なものに対応できたら最高だよね」
――あらゆる情報を集約し、周知できるようなものでしょうか?
Watusi「そうだね。特に日本のカルチャーって分断されていることが多く、有事の時こそハブのようなものが必要になる。今のコロナ禍のような時にね。だって、日本中のクラブのコロナ対策が一覧できるものがあったら便利でしょ。例えば消毒液の有無がわかるとか。そうすると地域のクラブで物資を共有することもできるし、それこそ復興の一助になると思う」
――それはDJや店舗だけでなく、お客さんにも有益ですね。
Watusi「例えばレストランやホテルなどでDJができる場所をみんなでシェアできたら、DJは活動の幅が広がるし、お客さんだって遊び場が増えるでしょ。そういったものが今はない。情報を共有する場はもちろん、DJにしてみれば協会やエージェントのような守ってくれる人も少ない。みんな知らないことばかりだから、みんなのために生きる情報をやり取りできるハブになれたらいいなって」
――それが「Japan DJ.net」(https://japandjnet.com)ですね。
Watusi「そう。『TDMW』でローンチし、今はまだベータ・バージョンという感じだけど、年末には正規バージョンにアップデートする予定。2021年早々には正式稼働できると思うよ」
◆プロDJとアマチュアを定義…その意図、メリットとは?
――DJの方は登録できるようになっていますが、登録すると様々な情報が共有できるわけですか?
Watusi「登録するとできることは主に情報共有とネットワークの構築。今後はDJライセンスを提供したり、レーベルとDJの接点だったりオーガナイザー同士を繋げてブッキングのサポートをしたり、コミュニケーションしながら様々なコラムなんかも配信できたらいいね。ただ、あくまで現場のためのサイトにしたい」
――全てを現場に還元できるように?
Watusi「DJはもちろん現場の人、お客さんのためでもあり、複合的かつ包括的にやっていきたい。あとは、DJになりたいという人のためになるといいな。それこそHOW TOとか選曲術、礼儀作法、DJの1日を追いかけて紹介したり、未来のDJのためにね」
――登録条件などはあるのでしょうか?
Watusi「志を持って人前でDJをやっている人。最終的には自主判断になっちゃうけど、今回は自宅だけでDJを楽しんでいる人にはご遠慮いただきたい」
Naz Chris「将来的には一般会員とプロ、というかDJを職業としている人とそうでない人で分けたいと思っています」
――プロとアマチュアを「Japan DJ.net」で定義するということですか?
Watusi「それを求める声は多方面からあって、定義しないと権利など認められることも認められないんだよね。ただ、その線引きは本当に難しくて」
Naz Chris「現状、規約として設けているのは『DJ活動とそれに深く紐づかれたアーティスト・タレント活動での収益が年収の50%を過去3年間に渡り連続して超えていること』、『1年以内に出演したイベントのフライヤーを提示すること』で、あとは公序良俗。過去3年以内に懲役・執行猶予がある方はご遠慮しています。ただ、誤解して欲しくないのはプロとアマチュア、どちらも必要な存在であるということ。どちらかを否定するわけではないんです」
Watusi「やっぱりアマチュアがいなければ成立しない、アマチュアがいてこそのプロだし、アマチュアにしかできないこともたくさんあるからね。決してプロが偉いわけじゃない。様々な語弊があると思うけど、そこはポジティブに考えて欲しい。ただ、条件は本当に難しいけど、プロと称するなら、ある程度ハードルは高く設けておくべきだと思ってる。そして、プロを確立することで地位の向上やよりそうした1人1人の意見を国や世間にぶつけやすくなる側面は否定できないと思っている。」
――ある意味、プロとして生活できることがわかるのは良いことだと思います。中にはDJは普段何をしているのか、どうやって食べているのか知らない人もいると思いますし。
Watusi「そうなんだよね。俺もトラックメイキングの塾をやっている時に生徒に『DJはどうやってお金を稼いでいるんですか?』なんて質問をされたことあるよ(笑)」
◆DJが職業として認められる社会に…さらにはDJとしての矜恃を教育
――「Japan DJ.net」としての最終的な目標は?
Watusi「一番はDJが職種としても最低限の世間からの認知度、人権を獲得すること。職業欄にDJと書いても家ぐらいは買えるようにしたい。職業として認められるということだね。それはアンダーグラウンド等々と言う意識や意味合いとは別の話。」
――例えばベーシストやドラマーは職業として認められているんですか? それこそローンなども組めるんですか?
Watusi「音楽家や実演家はそれぞれの括りはあるけれど、大きく“ミュージシャン”として認められているね。一定基準を満たせば各種団体に登録できるし、加入している協会によっては保険にも入れる。制度として守られている部分は大きいよね。ギャランティなんかも規定されているし、何より選択肢となる団体も様々ある。でもDJにはそれがないんだ」
Naz Chris「そういうのってとても面倒なことだと思うんですけど、誰かがやらないといけない。でないとこうしたコロナ禍で文化への支援を求めていく有事には特に大変なことになってしまうと思うんです」
Watusi「例えば、マニュピレーターは80年代はミュージシャン、実演家じゃないと言われていた。ワープロの文字起こしと一緒で誰がやっても同じだと言われてたけど、全然そんなことないんだよね。だからこそ自分たちの権利を認めてもらおうと日本シンセサイザープログラマー協会(現在は一般社団法人 日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ)を作り、プログラマーは実演家、演奏と同じような音楽スキルが必要だと訴え、結果的に認められた。2年足らずで使用料も演奏家と同じようにもらえるようになり、権利も保証された。しかも金銭的な補償までできていったりね。そういうことって業界にとっては凄く大事なんだよ。しかも、そうなってからマニュピレーターになりたいという人もすごく増えたし」
Naz Chris「あとは組織を作ることでDJ活動がどういうものなのか、社会に対しても、業界に対しても啓蒙活動もできると思うんです」
――それはクラブにおけるDJの役割ということですか?
Naz Chris「それもあるし、流儀や作法とか、他のジャンルの文化に対してもいろいろ伝えるべきことはあると思ってます」
Watusi「DJは人気の曲をかければいいわけじゃないからね。それこそDJをする順番、時間帯で異なる役割、持ち場があることとか、今はそういった発想すら持っていないDJもいる。そもそも俺からしたら“クラブイベント”という言葉も違和感があって、クラブでや行われているのは“一夜のパーティ”。その中で一晩かけて何を作るのかが重要なわけで」
――パーティの形骸化が進んでいると。
Watusi「みんながみんなではないけれど、最近は自分がDJをしている時間だけ遊びに来てくれればいいみたいな感覚がある、集客ノルマの状況はわかるけれどそれは本来違うよね。プレイする側も皆、自分がDJをする1時間だけの勝負って、ただのひとりよがり。あとは細かいことだけど、次のDJに変わる時にはEQをフラットにするとかヘッドフォーン・レベルを下げるって当然の気遣いだと思うんだよね。そうした想像力も無くブースは禁煙だ喫煙だなんて論争はホント情けないと思っているし、前後への気遣いすらできないのはプロ意識の欠如。それは教える人がいないからかもしれないけど、そのままではプロは育たない。だって、これって社会人にしてみれば当たり前のエチケットだから。仕事場で散らかしたまま次の人に渡さないでしょ」
――遊び場だからといって甘えてはいけないと。
Watusi「そこはプロはもちろんアマチュアも同じ。きっとわかっていないんじゃなくて、想像力、意識が足りてないだけだと思うけどね」
――最後に、2020年はコロナで全てが失われました。そんな中、僕らは今後どうするべきなんでしょうか?
Watusi「俺はカッコいいと思ったからクラブに行った。当時はセルアウトばかりのコンサートの現場がカッコ悪いと思えちゃってさ。そんなことをしたくて音楽を始めたわけじゃない、むしろ誰にもわかってもらえないけど何かがある、わかるやつにだけに繋がれたらば十分だと思って。そしたら、当時のクラブがまさにそうだった。同じ感覚の仲間と出会えたし、何かが発信できるとも思った。そして今、こんなことになっても俺はDJってやっぱりいいなって思うんだ。カッコいいなってさ。だから、これからもカッコいい場所であって欲しい。みんなもカッコいいと胸を張って言える行動をしてくれればいいと思う。そして、そういう場所が永遠に存在し続けて欲しい。それは極論クラブじゃなくてもいいんだ。クラブがダサい場所に成り下がるなら、それに変わる新しい場所を新しい人達で作ってくれたらいい」
Naz Chris「クラブは真剣に遊んで、ギリギリを楽しむからこそ、そこにはプロが必要で、プロがみんなを日常から解放させてくれる。DJやスタッフ含め、あくまでプロという土台の上にできていると思うんです。一方で、真剣に遊ぶお客さんも必要なファクターで、彼らがいないと成り立たないと思うんですけど、そこにもある程度の意識は持ってもらえたらと思います。それは堅苦しいものじゃなく、お互い大事なものを守るということで、今後はよりそれを共有できる仲間や環境、新しい場所が重要だと思います。そのためにできることはたくさんあると思うし、それこそDJの啓蒙活動もその1つで、東京って、はっちゃけてるけどスマート、そしてセーフティ、そんな本来の魅力やそれぞれの楽しみ方を継承していければいいなと思います」
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