日本ドラムンベース界の至宝DJ AKiと次代を作る開拓者YELLOCKのインタビュー。前編では7月にリリースしたアルバム「THE EDGES BETWEEN THE LINE」のことをたっぷりと聞いたが、後編ではドラムンベースの魅力、そして未来について。果たして、今後の日本ドラムンベースシーンが進むべき道とは……さらにはDJ AKiが引き際を語る。
――そもそもドラムンベースの魅力とは?
DJ AKi「まずはドラムンベースにしかない高速のBPM感。おおよそ174(BPM)という、他のダンスミュージックにはないスピード感が最大の特徴ですよね。そして、ベースミュージックという言葉ができる以前から、どれだけベースが太くできるか、太い音を鳴らせるか競い合ってきたのがドラムンベースであり、そこは他のどの音楽にも負けないと思います」
――BPMが早いことでどんなメリットがあるんでしょう?
DJ AKi「ひとつは半分でリズムが取れること。174の半分は87で、それは早めのヒップホップと同等。それが取り込めるというのが面白味ですよね。あとは、ロックとの親和性。この前のライヴでもYELLOCKがギターを弾いてましたけど、ペンデュラムなどをはじめ4つ打ちではできないロックとの融合がドラムンベースはできる。そうしたいろいろな音楽要素を取り込めることがメリットかなと思います」
――一部では早すぎて踊れないといった意見もありますが。
DJ AKi「そこは拍を追いすぎないこと。ハイハットではなく、スネアの拍で踊りなさいと。基本的には好きに踊ればいいんですよ、みんなと同じじゃなくて良い。本来はそういうところも教えていくべきなのかもしれないですけど、そういうものでもないかなとも思っていて」
YELLOCK「僕の音楽歴はロックバンドに始まり、根本にはロックの持つダイナミズム、エネルギッシュな部分があるんですけど、新しさやテックという部分で掘り下げて面白いのはダンスミュージック。しかも、それは世界共通言語であり、言葉が通じなくても世界中の人が楽しめるメディア性に大きな魅力を感じていて。その中でも僕が元来持っていたロックの要素がハマったのがドラムンベースなんです。ドラムンベースに出会い、DJ AKiらがやってきた歴史が僕の中で合流し、自然と曲を作るようになった。いわゆる4つ打ちでは僕がやりたいことはできなかったし、エネルギーが出し切れなかったんですよね。絶対にドラムンベースにしかできないことだったんですよ。自分の中のドロドロとした部分も含め、全てを出し切れるのがドラムンベースだったし、何よりDJブースで聴いていて一番気持ちのいいのがドラムンベースなんです」
――多くの人にドラムンベースを聴いて欲しいという思いはある?
DJ AKi「そこは20年前に『06S』を始めた時から変わらないですね。1人でも多くの人にこの音楽の魅力を伝えたいし、だからこそ配信も12年やってます。そこから多くの人がパーティに遊びに来てくれたりしましたけど、まだまだ。入口はいろいろ作ってきたつもりですけど、なかなか難しいですね」
YELLOCK「僕は良くも悪くも、DJ AKiほどドラムンベースを背負っているつもりはなく、あくまでひとつの音楽スタイルであり、楽しみ方だと思ってます。ただ、例えばEDMは多くの個性が介在する中でアイコン的なアーティストや楽曲が生まれ、メインストリームへと上り詰めていきましたけど、それが全てじゃないというか。『06S』に関わっていて思ったのは、他のパーティで満足できなかった人が『06S』はヤバいと思って集まっていたんです。いわば遊びに来てもらえれば一定の満足感を得てもらう自信はある。それだけに間口を広げることが課題である一方で、全ての人を相手にすべきなのかと思うこともあって。個人的には音楽好きの集団として作り上げた今のコミュニティを濁すことはしたくない。たくさんの人に来て欲しいけど純度は保ちたいんです」
DJ AKi「そうだね。ただ人が集まればいいというものではないね」
YELLOCK「純粋に音楽を求めてきてくれている人たちに対し、裏切るようなことをしたくはないんですよ。それは単純にマス、ポピュラーになるというわけではなく、絶妙に難しいことなんですけど」
――今の日本のドラムンベースシーンはいかがでしょう?
YELLOCK「DJ AKiと共通認識だと思うんですけど、今はコロナ前にクラブに遊びに来ていた人たち以上に、配信で作り上げてきたコミュニティの勢いが圧倒的に強い。配信経由でクラブに来た人たちが新しい流れを作っている感じがしますし、それは面白い、自然な流れだと思います。そして、DJ AKi、YELLOCKといった個から生まれるコミュニティベースを地道に広げていくことが今後のためになるのかなとも。そういう人たちの方が単純に純度が高いですし、好きの度合いが違うので」
DJ AKi「配信をやっていなかったら、彼らがいなかったらって考えると、今となっては恐怖だよね。今、フロアにいる人はみんな本名も知らない人ばかりだけど、みんなネットで繋がっている。そうした環境も以前とは変わりましたが、より強い集合体になれる気もする」
YELLOCK「もしかしたらシーンの始まりに近いというか、小さなコミュニティが大きな集合体になっていく過程。その中で『06S』がハブになったら面白いし、個人対集団というその構図、全体間は興味深いですけど、やはりネットという存在、繋がりに可能性を感じますね」
――今後の日本のドラムンベースシーンに期待することは?
DJ AKi「もっと若い人が出てきて欲しいですし、一番は良いMCが出てきて欲しい。ドラムンベースの良いMCが全然いないんですよ。ヒップホップのMCは続々と出てきているのに。DJとしてはMCがいるかいないかで全然違う、フロントのことは任せて、自分の仕事に集中できるので。プロデューサーはYELLOCKが出てきて、彼は曲を作るだけじゃなくギターを弾いて、ライヴ演出を考えて、照明や映像にも指示を出す、20年前には考えもしなかったような存在が出てきて、これは大きいですよ。しかもYELLOCK以外にも新たな才能は生まれてきていて、すごく嬉しいことですね」
YELLOCK「これは僕がJポップをやっている頃からの考えなんですけど、やはり日本人は同調圧力に囚われていて、みんなが聴いているから良いという、独自の音楽の楽しみ方が強すぎる。なので、好きなものは好き、良いものは良いと言える人たちがもっともっと音楽を楽しんで欲しい。『06S』に遊びに来る人たちも能動的に音楽を探し、求めてきてくれているので、そういう楽しみ方の人が増えると、より豊かになると思う。それに、そういった音楽人口が増えれば増えるほどクリエイターにとっても良いフィードバックになると思うし。シーンに関してはそうあって欲しいです。そして、その中で僕らがやっていることに憧れる若者が増え、彼らが次のシーンを作ってくれたら。それは面白いシーンになると思うし、その時には絶対的に世界と戦える、日本独自の発展を遂げていると思う。だから、それまでは頑張り続けてやろうと思ってます。今はようやく自分たちの力で何かができるという感覚、可能性を感じていますし、これからがとても楽しみですね」
DJ AKi「僕は本音を言えばいつまでも現場に立っていたい、生涯現役でいたいですけど、最低でもあと10年は活動を続けたい。もしも引退しても委ねられる存在が出てきましたが、これからもドラムンベースの歴史をしっかりと紡いでいきたいですね」
DJ AKi&YELLOCK
「THE EDGES BETWEEN THE LINE」