コロナ禍により今年は世界中で数多くのフェスが延期・中止となる中、オンラインへと形を変え、9月7日(月)〜13日(日)にかけて開催された「TOKYO DANCE MUSIC WEEK(TDMW)」。
これは9月9日の「ダンスミュージックの日」に合わせ、日本・東京のダンスミュージックシーンの歴史を振り返り、今を見つめ、未来へと繋ぐ……そんな意図のもと企画され、今年は記念すべき第1回となるはずだった、がこのご時世……それでも「第0回」として行われたのだが、そこにはどんな意図があったのか。そして、そこから何が生まれたのか……「TDMW」の主催であるWatusi&Naz Chrisにインタビュー。
しかも今回は前後編……前編では「TDMW」について。そして後編では「TDMW」を経ての思い、さらにはシーンへの提言も。かつてない難局を迎えた2020年、WatusiとNaz Chrisが語る今、そして未来への熱い思いをぜひ。
Watusi&Naz Chrisインタビュー(後編)TDMW〜Japan DJ.net…今自分がやるべきこと
◆今だから、今こそ伝えたい思いをTDMWに込めて…
――「TOKYO DANCE MUSIC WEEK(TDMW)」無事完遂。お疲れさまでした。
Watusi「こんな状況だからさ、当初どうしようか悩んだけど、なんとか形にすることだけはできた。本当にみんなに感謝してる。1日限定の開催も考えたけど、やっぱり内容、規模感の上で譲れないものがあって最終的には今できる限りのこと、それこそ『TDMW』の命題である“ダンスミュージックが持つ音楽だけではない多様性”を改めて伝えるために、オンラインでもできることがあると思ってさ」
――延期や中止は考えなかったんですか?
Watusi「今だからこそやりたいというか、シンプルに今だからできることもあると思ったんだよね。その1つの手段がオンラインで、それなら日本の配信の元祖である宇川(直宏)君は外せない。彼には早くから相談して。あとはDJやライヴはもちろん、他にも今、意味を持つことをやりたかった。音楽的なことだけでなく権利関係や法整備なのかのコンテンツもね。それに、コロナとの共生も話し合いたい……いろいろと広がっていった感じだよね」
――形式はオンラインに変わりましたが、当初考えていたことはできました?
Watusi「全部ではないけど、新しいテーマも見つかり、それも組み込めたし、カンファレンスは多様性もありつつコレカラまでを話しあえた。DOMMUNEだけでなくJ-Waveでも1週間に渡ってスペシャルな企画ができたし、最終日は東京タワーから配信して」
――J-Waveは「TOKYO M.A.A.D SPIN」ですね。
Watusi「『TDMW』を後押しする形で4月から始まって、会期中はクリス・ペプラーさんや細野晴臣さん、様々なゲストを迎えてコレカラを話し合ったんだけど、みんなが東京のダンスミュージックシーンについて語ってくれて、本当に有意義な時間だったと思う」
――DOMMUNEのカンファレンスもテーマが多岐に渡り、他では聞けない話ばかりでした。
Watusi「DOMMUNEは9月9日“ダンスミュージックの日”の由来でもあるRolandのTR-909の歴史を振り返ったり、KEN ISHIIや渋谷慶一郎に日本と世界の現場の違いや構造の違いを聞いたり、人やモノ、コト、様々な角度からシーンを俯瞰できたと思う。特に日本のカルチャーが生まれない、育たない理由や世界との接点、さらには僕らの時代と今の差異を語りあえたことは良かったね。あとは、今だからこそのコンテンツ……コロナ禍で声を上げたエンタメ界の団体の声を届けたり、海外からのリアルなレポート、議員とのトークセッション、ナイトエコノミー議連との連携、そして最終日は共生する新たな時代のエンターテインメントと題した白熱の議論……ホントいろいろやったね(笑)」
――Twitterのトレンドに入った日もありました。
Watusi「何よりアーティストをはじめ様々な団体、現場の人間、みんなのリアルな思いを知り、それを共有できたことは今後の1つの契機になると思ってる」
――最終日の東京タワーからの配信も感動的でした。
Watusi「最後はある意味お祭りみたいなもの。本当はもっといろいろやりたかったんだけどね。でも、かつてない厳しい状況の中、東京タワーで再生エネルギーを訴え、『みんな電力』と一緒に音楽・エンターテインメントも“心の再生エネルギー”だと言えたことはポストコロナにも繋がると思うし、それを野宮(真貴)さん、キョンキョン(小泉今日子)などダンスミュージック界と親和性のある方と、さらには須永辰緒、大沢伸一というある種両極のラインナップで締められたことは個人的にも嬉しかった」
◆この国は今後250年はダメ…でも、行動しないと何も変わらない
――反響はいかがですか?
Watusi「どうだろうね……いろいろな声を聞いたけど、正直どこまで広がりが持てたのかはわからない。ただ、俺は今、アンダーグラウンドに生き、自分たちで全てやっていこうとしている人たちとは繋がる必要はないのかなと思ってる。そうではない人たち、ダンスミュージックを続けていく先が見え辛く、でも何かを求めている人たちといかに繋がるかが重要。マスに出ることが目的じゃなく、今回は多様性というキーワードのもと、そういった人たちと繋がるきっかけもできたんじゃないかな」
――多様性という意味では、今回はコロナという困難があるからこそ広がり、深くなり、新たに考えなければいけないことも見つかりました。
Watusi「こういう時しか見えないものが見えたし、それは実は根深いことだったりもするんだよね。ただ、今回総勢200人以上の人たちが参加する中、企画から進行までNaz Chrisと僕、ほぼ2人がメインで動いていて、JDDAの監事の永田どんべい、理事の高木完と言う極めて少数でブレずにここまでできたことが大事。それはぜひみんなに知って欲しい。やろうと思えばできるんだよ。もちろん批判もある、だけど俺たちはそれを恐れないというか、批判があるなら自分で信じることをやれって感じ。何よりアクションを起こすことが大事で、みんなが少しずつでも動けば、最終的に大きなものも少しずつ動く、というか何かが熱くなると思う」
――大きな仕事を終え、達成感も格別なのでは?
Watusi「こんなことを個人でやるヤツがいないことがよくわかった(笑)。それに、本来こういうことをやるならカッコいいことをやるべきというか、その方が楽しいんだろうけど、俺たちがやっているのはそうじゃないというか……どちらかと言えばカッコ悪いことで」
――でも、それがやりたかったことでもあるわけですよね。
Watusi「これはもう、もはや趣味(笑)。不快に思う人がいたら申し訳ないけど、他に誰もやらないだろうし、やれる人もいないだろうし、勝手に必要だと思っちゃってるんだよね(笑)」
――でも、それがみんなができていないことでもある?
Watusi「そうかもしれないけど、まずはここから何かが波紋して行って、次の何かに広がっていくと嬉しいよね。でも、そんな簡単にバトンタッチできるものではないってことは重々承知しているし、10年やれば誰かがその波紋を拾ってくれるかな、ぐらいの気持ち。正直、今後250年はこの国はダメかもしれないとか悲観的なことばかり思っているけど、どこかでそれに争いたい。散々この国、この街で楽しませてもらった身としてはさ。そして、同じ思いをこれからの世代にも味合わせてあげたいんだ」
――その手応え、未来への布石は感じられました?
Watusi「あるようでない。ただ、思ったよりディスられなかったかな(笑)」
Naz Chris「人によっては大義を振りかざすことや、全体を考えた事前活動が余計なことと思うかもしれないけど、私たちはやるべきだと思ってやっているし、今の時代、コロナ禍にこういうことをやる本気さは感じて欲しい。私たちは誰もが自分の持ち場でそれぞれのやるべきこと、やりたいことをやればいいと思うんです。特に今は。例えば誰かがゴミ拾いをしなくてはいけない、そして、その役割を担ったからこそ全体がしっかりと見渡せて発信することができる、伝わるものがあると思う。そういう意味ではDIYでやってみて少しは何かを伝えることができた手応えはあります」
Watusi「Twitterで政治を批判しているだけじゃ何も起きないからね。現場を本当に大切に思うなら、そのために具体的な何かをしないと変えることはできない」
――今回の「TDMW」を見て実際に動く人がいたら大成功ということですね。
Naz Chris「すでに一緒にやりたいという声もあって、次に繋がったことは大きな収穫だと思っています。あと、今回大きな発見だったのが“意義”の重要性。それこそ文化に寄り添ってくれる企業などはお金よりも意義を求めているのかなと。動くためには意義・意味が必要で、私たちは全て意義というか、意味を持ってやっているので、そこに共感してくれる人が多かったことに未来を感じました」
Watusi「やっぱり協力者やスポンサーは必要で、彼らがいないとできないことはたくさんある。でも、単純に嬉しいよね。そういう人がいることは」
◆お金ではなく全ては心意気…TDMWの出演者たちに共通した思い
――その他に今回新しい発見はありました?
Watusi「あったね。例えば配信ではコアなファンの重要性を痛感した。当たり前だけど彼らがシーンやアーティストを支えているんだよね。でも、DJやクラブは他のジャンルに比べてその数は少ない。歴史や文化の成熟度なども関係していると思うけどね。多くの店舗がクラウドファウンディングをやっていたけど、そこで重要だったのは知名度や規模感じゃなく、コアなファンの差だったんじゃないかと思う。リアルとの相関関係で言えばまた違うと思うけど、こういう状況においてはそこが重要で、今のダンスミュージックシーンにはまだまだコアなファンは多くは無いという事も露呈したと思う」
――それは今後の問題点でもあるわけですね。
Watusi「例えばライヴハウスの危機には多くの人が動いた。でも、クラブは槍玉に上がらなかったという側面もあったけれどアクションはファジーだったよね。それこそポップスやロックの世界では人気アーティストがお世話になった箱に恩返しという名の支援を惜しまなかった。名前を出すことなく私財を投げ打った人までもがたくさんいたからね。大スターDJ不在の日本で一概に比較することは酷かもしれないけど、本音を言えば男気みたいな部分だけでも見せて欲しかった。それはDJ、アーティスト、それに企業なんかもね。僕も足りない部分はあったけど、静観している人が多かったことはカルチャーの成熟度を疑ったよ。旗振り役がいないことが大きいのかもしれないけど」
Naz Chris「だから『TDMW』は意義に賛同してくれる人たちだけでやろうと思って。それが今回のラインナップなんですけど」
Watusi「出演者に関して言えば、みんな思いは同じだったと思うよ。オファーしたら多くは語るなっていう人ばかりで。キョンキョンだって、80年代に僕らが大好きな音楽に最初に飛び込んできてくれた関係性はあるけど、今は状況が全然違う。でも、世界がこんなことになって相談したら2つ返事で快諾してくれた。その心意気は本当に嬉しかった」
――愛を感じますね。
Watusi「今回は金銭的な問題で揉めることもなかったし、そうなりそうな時には正直こちらからお断りした。みんなが心意気で、気持ちの部分で繋がっている中で、そうじゃない人とはやりたくなかったから」
Naz Chris「予算がない状態で東京タワーを貸して欲しいってお願いしに行ったり、ちょっと無謀なところもありましたけど……そんな状態でもみなさんが心意気を見せてくれて。それは本当に嬉しかったです」
Watusi「最終的になんとかなった、って感じだけど、実感としてはお金の有無じゃなく動いたら何かが変わり出す。みんなやれることはあるし、何かできる。でも、今はお金がないのも事実。だけど、やり方はまだまだ様々あるんだよね。もちろんそれは茨の道でもあるんだけど、今はそこを進むしかないと思ってる」
――「TDMW」の経験を今後どう活かしていきましょう?
Watusi「やっぱりクラブの現場に還元したいよね。店舗だけでなく、それこそDJやオーガナイザー、あとは個人でレーベルをやっている連中とか。頑張っている、必要としている人たちの何かしらのためになるといいな」
――今後に関しては、具体的に何かプランはありますか?
Watusi「1つは……(後編に続く)」
https://www.instagram.com/watusi_coldfeet/?hl=ja