ベルリンの実験的な精神を80年代から継承し続けているフェスティバル『Berlin Atonal(以下、Atonal)』。ベルリンの壁の崩壊に伴い1989年に一度は休止したが、2013年に23年の歳月を経て復活。以降、アヴァンギャルドな音楽と光や映像を駆使した最新形態のアートファームを追求する、いま最も尖った表現の場として認知されつつある。

前稿では、出演者であったENAの言葉と共に本祭を紐解いてきたが、本稿ではフッションフィールドで独自のクリエイティヴを貫くブランド『JULIUS』のデザイナー堀川達郎氏に語ってもらった。双方に共通する絶対的美意識に迫る。

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——『Atonal』の初体験っていつですか?

2014年に初めて行って、でもその時はすごいコンパクトだった。メインステージのビジュアルも今の半分くらい。良い意味でローファイでカッコよかった。だけど、2015年は規模が大きくなってて少し商業的に感じて、それもあって去年はいけなかった。

——最初はどんな印象でしたか?

初めは“ビートを禁止”にしているんだと思った。そのくらい完全にエクスペリメンタルノイズ。あの頃は攻めてる印象が強くて、遊びに来てる奴らも含めて刺激的だった。
実際、『Atonal』のチームの奴らと会ってみると、クリエイティヴに関する考え方とか遊び方がいい意味で狂ってる。物の捉え方がアブストラクトというか。

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——会場となってるKraftwerkは、発電所の跡地なんですよね。どんな場所ですか?

アンダーグラウンドだよ。コンクリート打ちっ放しで、6階建くらいの吹き抜けた空間にゴシック建築みたいな大きな柱が教会みたいに連なってる。その中心にあの特大ヴィジュアルが宗教画みたいにあるのが象徴的。イメージとしてはテクノ教会、いやテクノ・ノートルダムかな。

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——そんな場所でフェスが開催できるなんて日本では考えられませんね。

本当に不思議な場所だよ。メインステージがある2階とインスタレーションがたくさんある1階、さらに地下1階にはSM小屋みたいなところもあって、同じ敷地内にクラブのTresorもある。国の私有地らしいけど、ベルリンはクラブとかテクノを文化的財産と捉えていて、国がサポートする土壌がある。

——ステージ以外にもインスタレーションアートが点在しているんですか?

普通にギャラリーみたいだよ。例えば1階では、宙に浮く複数のスクリーンに手描きのアブストラクトな映像を投射したスヴェレカのインスタレーションがやってて、メインステージがある2階では、コンクリのブロックを積み上げるアンジェロ・キーファのインスタレーションがやってた。

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——ファションの観点から見てどうですか?

来てる人の95%がオールブラック。たまに真っ白の人もいるけど。ただナイン・インチ・ネイルズのアレッサンドロ・コルティーニのライヴの時はN.I.Nって書いたTシャツを着てる人が多くて、最初はNILøSかと思ったけど違った(笑)。
でもアレッサンドロ・コルティーニのインスタレーションは攻めてたよ。この前東京で開催された『Atonal』のサテライト・イベントでもプレイしてたよね。

——実験的なショーケースばかりが行われる『Atonal』ですが、堀川さんがこれまで見た中でのベストアクトは?

ベースミュージックの低音の振動に合わせて、照明を微かに揺らすだけのミニマルなインスタレーションをやったイタリアのドチィも素晴らしかったけど、やっぱりポール・ジャバナサムだね。彼は『Atonal』のスクリーンの特性を完全に活かしてた。ここでは普通のスクリーンと違って縦長の特大スクリーンが使われるんだけど、それを1枚の絵で埋め尽くすより、あえて黒い空間を魅せたほうがダイナミックな表現ができる。彼は光をモチーフにしていて、暗闇の中で音楽とシンクした蒼い光線が電気のように力強く走るインスタレーションは、本当に感動した。あのENA君も泣いてたよ。それを見てNILøSでコラボしようという話になった。

——2016 AWコレクション { PILLARS } ですよね。

そう。彼の光の動きからインスパイアされてコレクションテーマが幽幻性となり、{ PILLARS }のあのグラフィックが産まれた。それと連動してNILøSサウンド・レーベルの第2作として発表したUSBネックレスの中には { PILLARS } をテーマにした彼らのオリジナルのオーディオ・ビジュアル作品が入ってる。あのコレクションは、『Atonal』での彼らと出会ったことで生まれたんだ。

——『Atonal』でのENA氏のライヴに感銘を受けてNILøSサウンドレーベルの第一作目でコラボレーションしたんですよね?

そう。あれは2015年の『Atonal』でのENA君のショーケースが素晴らしくて、そこからコラボレーションに発展した。コレクションテーマである { Søil } のイメージを共有して、彼の解釈の40分1曲のコンセプトトラックが完成した。

——JULIUSやNILøSのクリエイティヴに『Atonal』は大きく関わっているんですね。

君たちが毎年メキシコのカンファレンスに行くのと同じだよ。俺たちには俺たちのシーンがあって、『Atonal』に行って誰が攻めてるか、誰が尖ってるか、自分たちの目で見て、そこでコラボレーションしたい相手を見つける。

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——今回、一番訊きたかったんですがJULIUSと『Atonal』に通じる美学ってなんだと思いますか?

テクノ。テクノっていうかエクスペリメンタル。一般でいうところのテクノだと語弊があるから。高度な技術と実験性を持って時代を切り開く新しいクリエイティヴを俺たちはテクノって呼んでいる。そういうところがJULIUSと『Atonal』は共通するんじゃないかな。ノスタルジーがない。彼らの創造的想像性は、俺たちの服作りの意識と同じところに向いてる。

——以前、クリエイターは決して同じことはやるべきではないって仰ってましたね。

それは当然なんだけど、『Atonal』でも俺たちモードのフィールドでも同じで、実験的である必要がある。なぜなら、あそこにはみんな知的好奇心を求めて来てるから。
どのアーティストも1つのテーマを持ってショーケースをやるところがファッション・ショーと通じるんだけど、それを高い次元のクリエイティヴで表現できるアーティストだけがあそこでは評価される。どんなに音楽が良くても、明確なビジョンをショーで伝えきれなければ評価されないのが『Atonal』だ。

堀川達郎
Tatsuro Horikawa
1996年、サードストーン設立。グラフィックデザイナーとしての活動を経て、2001年にJULIUS(ユリウス)を開始。服、映像、グラフィック、音楽の4つを軸にした独自のクリエイティヴで世界中に熱狂的なファンを抱える。2015年よりストリートラインのNILøSを発足。同ラインでは、サウンドレーベルとしても機能し、前衛的アーティストたちとコラボレーションした音楽作品を発表。