2012年の発足以来、着実に歩を進め、今や東京を代表するレーベルへと成長したTREKKIE TRAX。さらなる飛躍が期待される彼らにその歴史を振り返ってもらいつつ、未来への展望を訊く。

混沌とした気配が漂う2020年代、TREKKIE TRAXが見据える視線の先にあるものとは……。

TREKKIE TRAXの中心メンバーCarpainter、andrew、Seimei、futatsukiが大いに語るインタビュー前編。

TREKKIE TRAX結成前夜…それぞれのルーツ

※2012年レーベル立ち上げと同時にリリースされたコンピレーション「TREKKIE TRAX 01」より

——まずはみんなのルーツから教えて。

Carpainter(以下C)「僕は実の兄であるSeimeiがクラブミュージック、電子音楽を見つけてきて、その影響で聴くようになり、曲を作り始めるようになりました」

——最初は何を聴いてたの?

C「テクノですね。それこそKEN ISHIIさんやデトロイトテクノ。『WIRE』には毎年行ってました」

Seimei(以下S)「僕らは生まれがオランダのアムステルダムで、14歳ぐらいまでいたんですよ。向こうはラジオとかでトランスが普通に流れていて……当時はティエスト全盛期でしたね。それに父親がジャズ好きで、母親も音楽教師。特に意識してなかったけど、音楽が常に近くにありました。そんななか、14歳ぐらいのときに電子音楽、テクノが好きだと認識して、DJをやりたいという気持ちが漠然と生まれてきて。もともと現代アートやプログレッシヴなものが好きだったし、アムス自体そんな街で」

Seimei

——アムス育ち……カッコいい。『ADE』とか行ってた?

S「行ったことないんです(笑)。子供の頃はサッカーばっかやってて(笑)」

——でも、ティエストやアーミン(ヴァン・ブーレン)とか聴いてたわけだよね?

S「意識はしてなかったですけど」

C「当時はあまり知らなかったしね。帰国してトランスを聴くようになって、『コレ、ボーリング場とかで聴いてたかも!?』って感じで」

Carpainter

——andrew君は?

andrew(以下a)「音楽を真剣に聴き始めたのが小5ぐらいで、当時はMTVとかでヒップホップのMVを観てました。このメンバーの中では僕だけルーツがラップですね。それで、高校のときにMPCを買ってビートを作ってたら、軽音部の友達からYMOのコピーバンドに誘われ、そこでクラブミュージックに出会いました。世代的にはエレクトロとか、それこそダフトパンクの『Discovery』の頃で、プロディジーとかも聴いていて、ハウスやニューウェイヴに行って……って感じです。初めてのクラブはドミューンでデリック・メイのDJプレイを聴きに行きました」

S「初ドミューンがデリック・メイはヤバイね(笑)」

a「クラブ童貞捧げたよね(笑)。メッチャ楽しかった」

andrew

——ヒップホップってエミネムとか?

a「国内外聴いてたんですけど、USの90年代が好きで、当時の音をサンプリングして曲を作ってYouTubeにあげてました。でも全く反応がなくて(笑)。それでヤサグレていたときにクラブミュージックで踊るのが楽しくなって。初めて見に行ったヒップホップのライヴがみんなただただ観てるだけという雰囲気で、それが苦手で。でも、クラブは自由に体を動かしていい、それが楽しかったんです」

futatsuki(以下f)「僕はもともとメタルやエモ・スクリーモ。ただ、プロディジーやケミカル(ブラザーズ)のようなビッグビート系やニューレイヴも聴いてました。それでスクリレックスがデビューした年に初めてクラブに行って、“Scary Monsters And Nice Sprites”で本格的にクラブミュージックに興味を持ち始めました」

futatsuki

——ルーツはみんなバラバラなんだね。

f「話は全くあわなかったですね(笑)」

S「特に僕とfutatsukiが(笑)。僕はダブステップでもコード9やジェイムス・ブレイク、futatsukiは全然違ってて」

f「僕はもっとバキバキしたものが好きだったんですよ。そっちも徐々に好きになっていきましたけど」

C「でも、出会った時の共通項はダブステップだよね」

a「そうだね。ラップ好きの俺も聴けたし、テクノ好きもHyperdubとかを聴いたりしてて」

全てはDJをやる場所を求めて…TREKKIE TRAXの誕生

※2012年レーベル立ち上げと同時にリリースされたコンピレーション「TREKKIE TRAX 01」より

——それでどうやってTREKKIE TRAXに?

a「抜けてしまったもう1人の初期メンバーのbankが今はなき秋葉原のライヴハウス AKI85でイベントをやっていたんですけど、そこが閉店することになってしまったので、どうやったら音楽活動を続けられるか考えたときに僕とCarpainterが曲を作れたので、コンピを作ろうってなって」

——いきなりコンピ?

f「まずはレーベルを作り、コンピを出そうってなったんですけど、当時は日本のインターネットレーベル過渡期が過ぎた頃でその流れはみんな見ていて。ネットレーベルについての知識はそれなりにあったんですよ。だから、ひとまず立ち上げて……それが原点ですね」

——それこそMaltine Recordsとか?

f「まさにそうですね」

a「ただ、当時のネットレーベルはアニソンが主だったので、僕らはクラブミュージックに特化してやろうと」

S「ちょっと背伸びはしてたよね(笑)。ブリアルじゃないけど、ダークなガラージっぽい曲を作ったり」

——そのときの反応は?

S「当然僕らのことなんて知られていないのでネットにアップしても反応が少なく、クラブイベントに行って手刷りのCDを配ったりしてました。それこそMaltine Recordsのイベントとかで。ネットレーベルのイベントに来るお客さんなら聴いてくれるかなと思って」

——それって新宿の風林会館でやってたイベント? あれが2012年ぐらいだった気が。

f「そうですね。みんなで行ってました(笑)」

a「当時、僕らはとにかくDJがやりたかったんですよ。できる場所が全然なくて。DJをするためにはどうしたらいいのか考えたときに、そういう動きしかないかなって。未成年だとクラブにも行けないので」

——未成年でそこまでやるのもスゴイと思うけどね……まわりにダブステップが好きな人とか、DJをやってる人とかいた?

C「ネットレーベルにはいましたよ。同い年でUKのニッチなレイヴミュージックが好きな人とかもいたし。ただ、自分のリアルな友人にはやっぱりいなくて。だから、ネットレーベルの活動が心地よかったです」

——結構地道な活動をしていた?

a「1年半ぐらいは行っていました。転機になったのがblock.fmでKAN TAKAHIKOさんがSeimei & TaimeiのEP『This Is NEOSTEP』をプレイしてくれたこと。その後、☆Taku Takahashiさんもかけてくれて……それが2014年の始めぐらい。あとはblock.fmで番組をやってみないかと誘われ、そこで周知し始めたのかなって」

C「その前にもWOMBとかで開催されていたblock.fmのイベントには出演したことがありました」

f「Carpainterがサザン(オールスターズ)とかプレイしたときだ(笑)」

C「かけてたね〜(笑)。当時スクリューが流行ってて……」

a「一般的には流行ってないけどね(笑)」

C「僕らの中で、ですね(笑)。超ドープなリミックスをかけてヤバイことになってた(笑)」

a「当時は自分たちの好きなことをどこでもやりたいっていう信念があったんですよ」

よりアーティストファーストに…TREKKIE TRAX本格始動

——ディプロやスクリレックスにもサポートされていたよね。それはいつ?

f「ディプロが最初に曲をかけてくれたのはSeimeiがアメリカに行った後なので……2014年以降ですね」

a「ちょうどblock.fmの番組が始まった頃にSeimeiが留学して、現地のプロモーター仲間が増え、日本の楽曲を海外に展開しよう! 的な動きになったんです」

——活動初期にはどんなレーベルを目指していたの?

C「基本的には何かを目指すっていう感覚はなかったですね。ホント自分たちがDJをする機会を増やしたいだけで」

a「売れたいか、売れたくないかと言えば売れたかったですけど(笑)」

C「売れたらDJできるからね(笑)」

S「僕らは14歳ぐらいからDJの機材を触り始め、それから5、6年間は家でしかDJをやったことなかったんですよ。でも、常に触っていたからだいたいのことはできた。ミックステープもメチャクチャ作ってましたし。だから、正直いきなりDJデビューした人よりはDJできたと思うんです。それで突然人前でDJをするようになって……童貞歴が長いヤツが捨てた瞬間もっとモテたい、みたいな感じになって(笑)」

——人前でプレイしたら気持ち良かったと(笑)。

S「そうですね、もっと人前でプレイしたいです。僕らはDJができることが当たり前じゃなく、今もそうですけど1回のステージに大きな意味があるんですよ」

——TREKKIE TRAXとしてのターニングポイントっていつ?

S「最初は……やっぱりblock.fmですかね。番組を持たせてもらったことで認知されてDJができるようになって」

C「その後、Seimeiがアメリカに行って、プロモーションの土台ができた」

a「マーケティングをし始めたよね。例えば、フューチャーベースとトラップがトレンドになっているときは、そのテの音を作っている日本人をSoundCloudで探したり。そこで見つけたのがMasayoshi IimoriとAMUNOAで、その頃からすごくプロモーションを考え始めたんですよ。ただEPを出すのではなく、1人のアーティストをどうデビューさせるかとか。1年ぐらい構想を練ってたり」

S「MasayoshiはジャスティスのブートレグとかをSoundCloudでリリースし、僕が海外のレーベルにひたすらメールを打ちまくるみたいな(笑)。でも、そこで刺されば海外のフェスでプレイされ、日本でMasayoshi Iimoriって誰だ? って話題になるじゃないですか。ディプロまではいかなかったけど、Mad Decentのアーティストはかけてくれたし、それを1年間やってデビューEPを出したんですよ」

——アーティストを育てていこうと?

a「その意識は結構ありましたね」

S「僕はアメリカに行く予定だったので、どうせ行くなら日本人のアーティストをTREKKIE TRAXからリリースして、それを向こうでもプレイできたら……みたいなことを考えていましたね」

——それが……2015年ぐらい?発足3年目。

a「その頃はもうDJをやり尽くした感があったんですよね。2014年は各自年間100本ぐらい出演していたので……クラブだけじゃなくラウンジやキャンプ場とか、もはや武者修行みたいな感じで(笑)。でも、その分リリースが減っていて、レーベルもしっかりやらなきゃみたいな」

——DJが忙しくてリリースできない状態?

a「忙しいというよりは、DJが楽し過ぎてですね(笑)」

C「DJにも慣れてきたし、いろいろな人と関係ができてきたしね。肝心のレーベル活動が疎かになってた」

——Masayoshi君のリリースでレーベル再始動みたいな?

C「そうですね。あとは、曲の質感とかもUSのマーケットにいかに刺せるか、そこを考えてました」

——TREKKIE TRAXのポリシーってなんだろう?

S「東京っぽさですかね。僕はアムス出身で外からも見ていて、内と外、どっちも知っているつもりなんですけど、東京って外から見たらクールだけど、実はそうでもなかったり、その表裏がいいと思うんですよ……要は二面性ですね」

——リリースする作品に関してはどう決めているの? 各自が作ったものを持ち寄る感じ?

a「基本的にはそうですね。あとは外部のアーティストを探したり」

C「その場合も僕らはリリースしたら終わり、みたいな関係はイヤで。いろいろなアーティストと関係性を深めたい」

a「これも2015年ぐらいからだと思うんですけど、リリースする前には今後どうしていきたいのかを本人と話して、目標を決めてディレクションしていくようにしています。それこそ僕らを頼りにしてきてくれたら親身に相談に乗ったり。まぁ、正直、人にもよりますけど(笑)」

——例えば、リリースするにあたって年齢制限とかあるの?

f「基本的にはないです。ただ、若いにこしたことはないですけど(笑)」

C「現状は若い人の方があてはまりやすい部分はありますね……でも、若いからリリースするっていうのはないです」

f「音楽性に関しては時代によって変わってきますから。あとは、どこを切り取るかにもよるかな」

TREKKIE TRAXが考える世代観、シーンとの接点

——上の世代についてはどう思ってる?

a「どの世代かにもよりますね」

S「僕らジャンルを数多くカバーしていることもあって、広く浅くというか……いろいろな先輩がいるんですよ」

C「例えば、ベースミュージックは時代が新しい分、あまり先輩後輩がない気がします。僕ら自身、すぐにいろいろな人と知り合えましたし」

a「あとは、意外と世代ごとに分断している気がする。その中で僕らは同世代で楽しく遊んでいて、正直に言ってしまえば、そこまで先輩方を気にしてないというか……楽曲がよければかけるし、かけてもらえれば嬉しいし」

f「僕らは一応、渋谷のベースミュージック界隈に属していると思うんですけど、上下関係はうっすらとありつつ、仲良くやっていると思います」

S「ベースミュージックシーン自体ちょっと独特だよね。もともと他のジャンルに属していて、そこから流れてきた人が多いし。でも、みなさん良い方ばかりで、協力的な先輩も多い。それこそHABANERO POSSEさん、PART2STYLE SOUNDさん、KAN TAKAHIKOさんとか」

C「でも、みんな音はバラバラ。そして、それがまた面白い」

a「言ってしまえば、ドメスティックなクラブシーン、それこそテクノとかは前は全然接点なく、それがちょっと悩みでもあった。Carpainterとかはここ数年そこにアプローチしたくて、どう刺さるか結構考えてたよね」

C「今もだいぶ考えてるけどね……。ただ、最近は少しずつ関係ができていると思います」

a「ある意味、分断していた先輩方に作品を届けたいというときもあって、そういうときは悩みます。ベースミュージックシーンだとそういうことはないんですけど」

S「昔から音源は聴いていて、知っているけど面識がないってことが結構多い。例えば、僕は最初に買ったミックスCDがShin Nishimuraさんで今でも聴いてます。あとはテクネイジアとかも」

a「影響を受けた人も多いですし、いつかご一緒できればいいな〜と思いつつ、実際そういう方と現場で一緒になる機会って実はあまりないんですよ」

C「個人的には先輩方をフォローしている人、ファンの方にどうしたら刺さるか、どう届けるかっていうのも結構考えてますね。インターネットを使えばOKというわけではないと思うし。そのあたりを加味してCDを出そうと思ったり」

——いろいろ考えているんだね。共演したい、コラボしたい人とかいる?

S「僕はもうKEN ISHIIさん。だから、今は繋がることができて本当にラッキー」

a「僕はヒップホップから入っているので、どうしてもラッパーになっちゃうんですけど、最近だとJun Kamodaさん。かつてはイルリメ名義で活躍してましたけど、今はヨーロッパのレーベルとかからリリースしていて、ラップをしていたときの感じのままハウスをやっているような感じが面白くて。人生観を含めかなり興味があります」

——自分のルーツに近いアーティストにシンパシーとかは?

a「以前Fulltonoさんとご一緒させていただいたんですけど、僕はダブステップと平行してジュークも好きだったので、そういう方と繋がれたのは良かったですね」

S「逆に、僕ら兄弟はずっとテクノオタクだよね(笑)」

C「今は分断されているかもしれないけど、僕は先輩方の音楽性を織り交ぜた曲を作って、自分なりの形で提示し、それを上の世代のファン層はもちろん同世代にも聴いてほしい。理想としては時代をまとめる感じというか……上の世代にコミットするというより、自分がカッコいいと思うものを作って、僕ら世代なりのシーンを作りたい……そう思いながら曲を作ってます」

TREKKIE TRAX
http://www.trekkie-trax.com/

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