約1ヵ月に渡り開催されてきた『レッドブル・ミュージック・フェスティバル東京2017』。会期中は実に様々なイベントが行なわれ、多くの音楽ファンを魅了してきたが、それもいよいよラスト。優秀の美を飾ったのはゲームミュージックの祭典『DIGGIN’ IN THE CARTS』。
“DIGGIN’ IN THE CARTS”、それすなわち“CARTS”(ゲームカセット)を“DIGGIN’”(ディグる)こと。1970年代にゲーム機が誕生して以来、ハード&ソフト同様絶えず日進月歩し、今やあらゆる音楽的要素を飲み込み、ひとつのジャンルとして確立するどころか、よそのジャンルにも大きな影響を与えているゲームミュージック。
しかも、国内のみならず、海を超え世界へと渡り、数多くのアーティスト……それこそ、かのフライング・ロータスも胸熱したというのは有名な話。
この日は、そんなゲームミュージックの歴史をディグる……というよりも、そこからさらにパワーアップさせたダンスミュージックとしての機能性も備え、その本質を体に直接訴えるまたとない一日となった。
それは、ゲームミュージックなのか……
当日、会場の恵比寿LIQUIDROOMにはオープンから多くの人が。
みんなゲームミュージックのファンなのか、それともテクノ〜ダンスミュージックファンなのか……おそらくどちらもいたと思うが、前者にはテクノ〜ダンスミュージックの魅力をたっぷりと、後者にはゲームミュージックのポテンシャルを存分に味わってもらえたはず。
メインフロアにまず登場したのは、チップチューンのイベントを開催しているQUARTA 330。まさにこのイベントにうってつけのアーティスト。そんな彼からCHIP TANAKA(チップチューンの巨匠)にスイッチするあたり、『DIGGIN’ IN THE CARTS』の気合が感じられるが、その巨匠がまた……。
ゲームミュージックなんだけど、もはやテクノ、テクノ・テクノ・テクノ。随所に往年のゲームアンセムをサンプリングしながら(いきなり「Mother」とか反則級! その他ゲームミュージックがかかるとフロアは大熱狂!)、持ち前のチップ感もふんだんに織り交ぜ、古いんだけど新しい、新鮮なんだけどレトロな、“鶏が先か、卵が先か”的な魅力が満載。
その後はマルチメディアアーティスト・OSAMU SATOがステージへ。プレステの『L.S.D』仕様のライヴは、テクノやアンビエントをはじめ様々なジャンルに広がる音楽も素晴らしかったが、それに同期する映像がとにかくトリッピーでヤバし。
ゲームミュージックにはビジュアルが付き物だけど、それをまた違った形でライヴで魅せる、その破壊力の高さにオーディエンスは終始圧倒されていた。
そして海外からのゲスト、自身もゲームミュージックに影響されたと公言し、レーベルHYPERDUBからは本イベントと同タイトルの珠玉のゲームミュージックコンピもリリースしたコード9が登場。しかも、そのバックの映像を手掛けたのは日本アニメ界のビッグネーム・森本晃司。
強烈なダブステップの応酬のなか刻まれるゲームミュージックの断片。『アクトレイザー』や『源平討魔伝』も、彼の手にかかるといつもとは違った感覚に。一方で、そんなサウンドをさらに加速させる森本晃司のビジュアルも『ノイズマン』まで飛び出し、往年のファンは首ったけ。
さらには、ゲームミュージックの大家・古代祐三と川島基弘コンビは不朽の名作『ベア・ナックル』祭りのライヴは、モダンなハウスあり、濃厚テクノありの何でもありで、これまた強烈。
いずれも、もはやゲームミュージックなのか……と思えるほどのサウンド感。ゲームミュージックがいかに幅広く、個性豊かで、他のサウンドとの互換性に相互作用が可能な広汎なサウンドなのか十二分に堪能した後、ステージに立ったのはKEN ISHII。
あえて言おう……“テクノ”であると!
日本のテクノゴッドも、かつては『Rez』や『ルミネス』など、ゲームミュージックを手掛けていたが、この日は90年代のテクノオンリーのセットを披露(なんと国内初!)。しかも、レコードを引っ張り出してきたというほどの気合の入りよう。
そんなKEN ISHIIが90年代セットの一発目に何をかけるのか、非常に気になるところだったが、それは元祖ブリープ&アーリーテクノ、スウィート・エクソシストの“Testone”。初期ゲームミュージックにはブリープ系も多く、ゲーム&エイトビットとの親和性も高いこの曲からスタートするあたりからしてさすが過ぎ。
そして、その後もLFOの“LFO”やらジョイ・ベルトラムの“Energy Flash”やら、今やあまり聴くことのない(クラブで)往年の名曲が続々(アラサー&アラフォーは超歓喜!)。とりわけ、かつてはパーティーの鬼マスト曲アウトランダー“Vamp”の盛り上がりたるや……。今でもその爆発力の健在っぷりに舌を巻きつつ(というか、今でもフロアで聴きたいと誰もが思ったハズ!)、極めつけはDJローランド“Jaguar”〜ジェフ・ミルズ“The Bells”。必殺のデトロイトリレーにフロアは歓喜どころか、懐かしさやら嬉しさやらで思わず昇天。
その後も、今年彼が『Tomorrowland』で共演したデイヴ・クラークなんかもありつつ、US〜ヨーロッパまで大胆に駆け巡るセットの中、まさかの極東テクノマイスターCO-FUSIONの“Cycle”からの奇才(というか、当時はド変態)エイフェックス・ツインの“Digeridoo”と超曲者難曲アンセムリレーには誰もが驚いたはず(しかもそれを繋ぎ合わせるKEN ISHIIの凄まじさ)。
しかし、クライマックスはここから。テクノ界往年の超ビッグアンセム“StarDancer”の後、ラストにプレイされたのはKEN ISHIIの名を世界に轟かせた日本テクノの金字塔“EXTRA”。しかも、バッグには貴重なミュージックビデオまで流れまさにネ申。それこそ、リリースされたのは1995年。今から20年前の曲ではあるけれど、今でもこれまで盛り上がれる素晴らしさ。音楽が持つパワーを改めて再確認。ちなみに、“EXTRA”を日本でかけるのも、どうやら久々だったとか(年に一度かけるかかけないかぐらいらしい)。
とにもかくにも往年のアンセム連発、懐かしさもありながらフレッシュさも感じるのはやはりアンセムという優れた楽曲の強度あってこそ。そして、それはゲームミュージックにもちろん言えることで、この日も20年以上も前の曲にオーディエンスは大熱狂。時代を超え、音楽自体は進化したとしても今なお愛される、ゲームミュージックもまさにアンセムだった。
そして、この日はゲームミュージックがテーマだったが、プレイされていた音楽と言えば、それはそれはジャンルの枠組みを超え、そのレンジは無限大。ただ、その中でもやはり血脈として色濃く流れるのは“テクノ”。デジタルを端にしたふたつの萌芽は、お互いベクトルは違えどすくすくと育ち、大きく、そして美しい華となり、今も多くのファンを喜ばせている。そして、きっとこれからも魅了し続けていくのだろう。
Photo:
(c)Keisuke Kato / Red Bull Content Pool
(c)Suguru Saito / Red Bull Content Pool
EVENT INFORMATION
DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭
2017.11.17 Fri
OPEN/START 19:00/19:30
LIQUIDROOM(Ebisu)
ADV ¥3,500 DOOR ¥4,500
Kode9 x Koji Morimoto AV, Chip Tanaka, Ken Ishii Presents Neo-Tokyo Techno (’90's Techno Set) Visuals by MMM, OSAMU SATO Presents LSD REVAMPED(LIVE) & SPECIAL VJ: TEAM LSD, Quarta 330, Yuzo Koshiro x Motohiro Kawashima Visuals by Konx-Om-Pax, Carpainter (Live Set), hally Presents HALLY COLLECTIVES (hally, Saitone, ヨナオケイシ, 細井聡司, 三宅優, 杉山圭一,Rolling Uchizawa), GONNO presents beyond the chip sounds (Special DJ SET)