10月22日より、レッドブルが東京を約1ヵ月にわたりジャックする音楽フェスティバル『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017』が先日開幕。
14あるイベントのうちのひとつ、『言霊 – KOTODAMA 言霊歌詞展覧会』が10月24日に開催され、シンガーソングライターの大貫妙子、元ピチカート・ファイヴの小西康陽、METAFIVEや向井秀徳とのユニットKimonosでも活躍する歌手のLEO今井、日本語ロックバンドGEZANのボーカル:マヒトゥ・ザ・ピーポーら世代も音楽性も異なる4組が出演。
東京をテーマにした“都会”と“東京は夜の七時”、“東京電燈 -Tokyo Lights-”そして未発表曲“優陽”を題材に、それぞれのアーティストが歌詞のこだわり、東京への思いを語るとともに、観客は楽曲を鑑賞し、ボーカルではなく朗読で歌詞の世界観を味わった。
内閣府の推計では、2100年に日本の人口は5000万人を下回るという。
なんとも絶望的な未来予測だが、マヒトゥ・ザ・ピーポーの“優陽”ではそんな未来について考えさせられる楽曲だ。
「一番街を長く見ているのは何か考えたときに、毎日同じ時間に昇ってくる夕陽だと思ったんです」(マヒトゥ・ザ・ピーポー)
2100年、死の灰が覆いビルが建ち並ぶ東京。人気がなく、植物も枯れるなか血のような赤い夕陽が沈む、そんなイメージを喚起させる。
東京は空っぽな容れ物のイメージで、渋谷の雑踏を歩くと多くの人とすれ違うのに孤独を感じることがあるというマヒトゥ・ザ・ピーポー。
同じようなことを語っていたのが、1977年に“都会”を発表した大貫妙子だ。
「人が多ければ多いほど孤独感を感じるんです。例えばクリスマスにはどこの店もカップルだらけで、独り身では行き場がなくて泣けてくる。それで一度家に帰ろうかっていう歌詞なんです」(大貫妙子)
歌詞を書くときは、男が聴いても女が聴いても問題ないよう性差を挟まず、さらには時代性にとらわれないことを心がけており、本作では都市のディティールを書き込まなかったという大貫。
ちなみに簡潔で短い歌詞は音楽的な要請もあったそうで、洋楽に影響を受けたサウンドに日本語の歌詞を乗せるために生まれたものなんだとか。
1993年にリリースされたピチカート・ファイヴ“東京は夜の七時”でもまた、都市の賑やかさと淋しさが対比されている(とはいえこちらは恋の楽しさが前面に出ている)。
何度もカバーされ今も歌い継がれている本作、その成立過程にも恋があり、当時の小西の恋愛を歌詞にも反映。
「早く曲ができたら帰って恋人に逢おうと思ってたんだけどうまくできなくて。帰ってビールを飲みながら一気に書き上げたから、ほとんど殴り書きです。僕にとっては恥ずかしいくらいプライベートな歌なんです」(小西康陽)
当時逢いたいと思っていた女性が今の奥さんだそうで、これには観客も腑に落ちた様子で深く頷いていた。
ちなみに本作はテレビ番組『ウゴウゴルーガ2号』のオープニングテーマ。印象的なタイトルは番組の打ち合わせがきっかけで生まれたそうで、番組が大阪では放送されないこと(東京では放送がある)、番組の放送時間が19時〜19時半だったことが由来なんだとか。
東京で生まれ、幼いころからイギリスと東京を行き来してきたLEO今井にとって、東京は訪れるたびに姿を変える、ずっと観光気分でいられる場所。
“東京電燈 -Tokyo Lights-”(2006年)は日本語と英語、さらにはフランス語で書かれているが、なかでも英詞部分は久しぶりに訪れた日本で、大きく変貌していた二子玉川駅前の様子に感銘を受けたことで生まれたという。
「こんなに綺麗な場所じゃなかったのに、化けたと思ったんです」(LEO今井)
個人的な経験が歌詞のライティングに影響を与えることもあるが、あくまで楽曲が肝心。歌詞はそれを装飾するものというスタンスを語っていた。
イベントでは、彼らの歌詞を俳優の池内万作と白勢未生が解釈し朗読。
同じ楽曲をオリジナルとは違うアーティストが再解釈するという意味で、楽曲のリミックスやカバーにも通じる部分があって興味深い。
欲を言えば、作詞した本人による朗読も聞いてみたかったところ。
とはいえ今井も「(楽曲がないぶん)自分で書いた歌詞を読んでいるときより、歌詞と向き合わざるをえない状況になりました」とコメントしているとおり、オーディエンスのみならず作詞者本人にとっても刺激的なひとときとなったはず。
『言霊 – KOTODAMA 言霊歌詞展覧会』は日本語の歌詞に焦点を当てたイベントである。
楽曲として聴き、朗読として聴き、アーティスト本人から思いを聴くことで、歌詞を深読みする楽しさを教えてくれた。
また、本イベントは東京がテーマになっている。
少子高齢化が進む日本にありながら、地方からの人口流入もあり東京の人口は2025年までは増加を続けると考えられている。
多くの人々をひきつけ、それはアーティストも同じ。数々の東京を舞台にした楽曲がこれまで発表されており、今後もそれは続くだろう。
最後に4組の出演者が東京をひと言で表現し、イベントは締めくくられた。
「虚構ですかね。わからないことの象徴みたいな街」(マヒトゥ・ザ・ピーポー)
「いつまでも観光感覚でいられそうな生き地獄」(LEO今井)
「僕にとって恋の街」(小西康陽)
「わたしの故郷です。無くなると困るとても大好きな場所」(大貫妙子)
今のあなたに東京はどんな街に映る?
photo:(c)Yasuharu Sasaki / Red Bull Music Festival
EVENT INFORMATION
言霊 - KOTODAMA 言霊歌詞展覧会(RED BULL MUSIC FESTIVAL)
2017.10.24(火)
Red Bull Studios Tokyo Hall(Shibuya)
¥2,000
大貫妙子 / 小西康陽 / LEO今井 / マヒトゥ・ザ・ピーポー 朗読:池内万作 / 白勢未生