Text:編集部 Photo:Perou

昨年から大きな話題となっていたアンダーワールドの最新作「Barbara Barbara, we face a shining future」がいよいよリリースとなる。

そこに収められているのは、これまでの彼らアイデンティティをさらに増幅させた新たな物語であり、輝かしき未来への序章。
前作から約6年、その長きモラトリアムの中で彼らは何を見て、何を感じ、いかに音楽を醸成してきたのか。

今作の全貌、そして現行シーンとの接点さらには彼らが進むべき未来についてカール・ハイドに話を聞いた。

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終わりではなく始まり……
それは、とある旅路のモーメント

——待望の新作「Barbara Barbara, we face a shining future」は、オリジナル・アルバムとしては約6年ぶり。この6年間はどんな時間でしたか?

とても忙しい時間だったよ。
というのも、リックと僕は絶えずツアーを行っていたし、同時に様々な作品を手掛けていたからね。

まずはダニー・ボイル監督の舞台『Frankenstein』の音楽。あれはファンタスティックだったよ。僕らは何週間も(会場の)ナショナル・シアターで過ごし、素晴らしいサウンド・スケーブを作り出した。そして、そこからはアルバムも生まれたしね。

その後、僕らはロンドンオリンピックのオーブニング・セレモニーの音楽監修の仕事を依頼されたわけだけど……

——あれは本当に衝撃的でした。

僕も関わったものの大半は……というか、ほとんどリックが手掛けたブロジェクトで、彼は実に素晴らしい仕事をしたよね。
しかも、そこからもアルバム(オリンピック開幕式の公式サントラ「Isle of Wonder」)が生まれた。

一方で、その時期僕は初めてのソロ・アルバム「Edgeland」に取り組んでいたし、映像作家であるキエラン•エヴァンス監督と一緒に映画『The Outer Edges』を作っていたんだ。

それから、自分のバンドを編成してソロでツアーに出て、世界中をまわった。“僕のバンド”を結成してツアーに出たのは、それこそ1977年以来のことじゃないかな。
あれは妙な経験だったね。これだけ長らく活動しながら新しいバンドを結成するというのは(笑)。

——なかなか聞かない話ですよね。

だよね(笑)。その後も僕はブライアン・イーノとアルバムを2枚発表して、かたやリックはダニー・ボイルの映画『Trance』のサントラを制作していた。

この6年、僕らはそれぞれかなりの数のマテリアルを世に出していたわけさ。
それ以外にも、僕はBBC 6 Musicでブロードキャスターも務めたり……とにかく多忙な6年だったよ。

——そんな忙しい中で生まれた今作、その手応えは?

この作品に対する率直な気持ちはというと……リックとスタジオに入って作業することにエキサイトしたし、今はスタジオに戻ってさらにもう1枚作品を作りたい気分さ。

このアルバムは“旅路の終わり”を記した作品だという気がしないんだ。あくまで、ある旅のひとつの瞬間のように感じている。

1つの結果でありながら、既に次なるステイトメントを出したいと思っているし、この作品は僕らの間に洪水のように生まれる自発的なクリエイティビティ、その始まりのように思えるね。

新たに育まれた2人の絆
それが彼らのサウンドをさらなるものに

——制作をスタートするにあたって、何か特別なビジョンはありました?

テーマとしてひとつあったのは“アンダーワールドを一旦忘れてみよう”ということだね。
僕らに付きまとう制約や人々が抱いているイメージ、概念、そういったことを全て忘れよう、あらゆるものをシャットアウトしたんだ。

ある意味世界を自分たちの中から閉め出し、アンダーワールドという存在さえも閉め出したのさ。
アンダーワールドとして作らなければならない音楽、例えばライヴでプレイできるものとか、そういったことを一切考えず、僕らはただ2人で一緒に音楽を作りたかったんだ。

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——それは初期衝動的なものにも近い?

“かつてあった何かを蘇らせよう”というものではなかったね。
というのも、僕らの活動初期はエキサイティングでもなんでもなかったからさ。当時はかなりダークな状況にいたんだ。

その頃の僕はアル中で、夜になると1人で街中を徘徊しているようなヤツだったし、リックはとにかくレコードを作り上げようと常に必死だったからね。

だから、今作は当時とは全く違うんだ。スタジオでのあらゆる作業を全て一緒にやった初めての1枚で、それは本当にグレイトなことなのさ。

——リックとはとてもいい関係を築いているんですね。

でもね、実は僕らはこれまで本当の意味で“いい友人”だったことはなかったんじゃないか、僕はそう思ってる。

友人として付き合ってきたけど、どこかぎこちなさもあってね。
ただ、お互い離れて様々な活動を行い、アンダーワールド以外の作品を手掛けたりした経験がポジティヴな影響を与えたんだと思うな。

僕は誰とどんな作品に取り組んでいようが、しばらくたつと“何かが欠けている”と気付き始めたのさ。そして、その欠けていたものはリックだったんだよ。

——いい話ですね。ただ、アンダーワールドのオリジナル・アルバムとしての制作は久々ですよね。そこに迷いなどはなかったのでしょうか?

今回最初に手掛けたのは“Ova Nova”という曲だったんだけど、これがすんなりと形になってくれてね。それには僕ら自身本当に驚かされたよ。

制作前には“自分たちのリズム、スタイルを見つけ出すまでには時間がかかるかもしれない”と少なからず思っていたからね。
ところが、それはものの数分で氷解したのさ。

——そこから完成まで14カ月かかったとか。

実際のところは……1年もかからなかったんじゃないかな。

——かなりスムーズに進んだんですね。

それは、僕らが本当にいい友人同士だったからだと思うよ。
さっきも話した通り、僕とリックにまつわる様々なネガティヴな事象はすべて剥がれ落ちていたし、僕に残されたものはポジティヴな部分だけだったからね。

それに、アンダーワールドとして自分たちの仕事を遂行することに自信がついたっていうのもあったんじゃないかな。
それだけに、アンダーワールドとしての独自性や2人が一緒にやることのユニークさを僕らは見極めることができたんだ。

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——今作には前作「Barking」に引き続き、ハイ・コントラストのリンカーン・バレットが共同プロデュースに参加していますよね。
これまでの話を聞いていると、リックとの親密な関係の中に第三者が参加するのはなかなか大変そうな気がしますが。

それは問題なかったよ。なぜなら彼はウェールズ人だからね。

——それはどういう意味ですか?

ウェールズ人というのは、とても変わった精神構造をしているんだ。彼らは奇妙な物事の見方をする。
僕自身ウェールズで長らく過ごした経験があるからわかる。

ウェールズを代表する近代詩人であり作家のディラン・トマスを筆頭に、彼らはどこか美しく、ポエティックなんだ。
しかも、ストレンジで情熱的で忠誠心があり、直感を大事にする。
そして、相手がいい人間かどうかをすぐに感じ取り、騙されやすいわけでもない。

僕にとってはそういったことがすごく重要なことなんだよ。あとは、何より僕らは彼の音楽のファンでもある。

——彼はドラムンベースのアーティストであり、音楽的な部分では違いますよね。

それは、様々なロックンロール・アクトのマネージャーとして名を馳せた彼の父親の存在が大きいね。
リンカーンの父・ポールは、僕らが慣れ親しんだ音楽を熟知していて、なおかつ素晴らしいレコード・コレクターでもあったんだ。

リンカーンはそんな父親のコレクションを自身の作品に昇華していて、僕らが子供のころに聴いていた音楽の要素を多分に含んでいるんだよね。

彼のサウンドはすごくポジティヴで、僕ら好みのメロディ感覚があり、アップリフティングなサウンド・スケープが強く存在している。
だからこそ、僕らはリンカーンの音楽に感情移入させられるんだ。

それに、自分たちよりも若い世代がまわりにいるのはいいことだよね。彼らは自分たちが飽きてしまったことに対しても情熱を抱いていることがままある。
そういう存在が身近にいることで、情熱やどこかに置き去りにしてしまっていた思いなんかを再び蘇らせてくれるんだ。

月日が流れるとともに放り出してしまったものの中には、価値あるものがすごく多い。
ただし、人はそれが何だったか忘れてしまうものなんだ。

タイトル、そしてアートワークに込められた思い、そして意図

——タイトル「Barbara Barbara, we face a shining future」にはどんな意味が込められているのでしょうか?

それはリックが聞かせてくれた話からきているんだ。
昨年彼は父親を亡くしてね。その直前に父が母親“バーバラ”に語ったのがこの言葉だったのさ。

彼の父は希望を残そうとしていたんだ、“僕たちは輝かしい未来に向かっている”とね。その話を聞いたときに、僕はこれをタイトルに使わなければと思った。

これもまた今作にまつわる全てと同じく“直感”だ。今回、全ては理性ではなく、直感から生まれているんだ。

——タイトルの中でも“Face A Shining Future”というポジティヴなメッセージは、不安や混沌が増す今、すごく深い意味があるのかなと思いました。

確かに世界は今悪い状況にある。僕らは悪いニュースに取り憑かれているよね。
メディアは絶え間なく嫌なニュースを垂れ流しているし。

僕はそこでたまに考えさせられることがあるんだ。“これは何かの陰謀なんじゃないか”ってね。

——それは僕も思います(笑)。

メディアは人々を怖がらせておくためにネガティヴなニュースを報じているんじゃないか。
僕らが進化、あるいは変化するのを避けようとするマスタープランが存在するんじゃないかって不思議に思ったりするよ……とはいえ、僕にも真実はよくわからないんだけどね(笑)。

でも、僕らが過ごしている現代は人類史上最も平和で穏やかな時代らしいよ。
その一方で、現代人はこれまでにないレベルのコミュニケーション力が備わっている。
そして、その力のせいで僕らは“今は昔よりも悪い時代だ”と信じ込まされているという不思議な話さ(笑)。

事実は、さっきも話した通り今は人類史上最も平和な時代なんだけどね。
とはいえ、今も恐怖は存在し、不安定な要素もある。だからこそポジティヴに向かわなければならないし、前向きな考え方を鼓舞していかなくちゃいけないと思うんだ。

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——アートワークに関してはどうでしょう。アンダーワールドのアートワークはいつの時代もすごく興味深いものですが。

僕らはTomatoのメンバーであり、彼らとは長年の付き合いがある。
なかでもTomatoのサイモン(テイラー)とはずっと密に仕事をしてきているんだ。

そこで、今回は彼に“好きなようにやって”と声をかけたわけ。
そのオーダーは、いつもと変わらないものなんだけどね(笑)

——お互いイメージを共有したりはしないんですね。

初期のころ、それこそ「Dubnobasswithmyheadman」や「Second Toughest In The Infants」のアートワークをやってもらったときは一種のジャム・セッションをやり、そこからクリエイトしていたね。

ところが、今回彼は自分1人で取り組みたいって言ったから任せてみた。
その後、彼は僕らのことを長いこと観察していたね。

すると、彼ともまた再び近くなれたし、いい友達として、クリエイティヴなパートナーとして近づけたんだ。


インタビューでは、この他にもカール・ハイドが抱く現在のEDMシーン&フェスへの思い、制作におけるインスピレーションの源についても語ってもらった。

その模様はインタビュー後編(3月16日公開)にて!

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『Parco Presents Underworld Live: Shibuya Shibuya, we face a shining future』
2016.3.12.SAT @渋谷某所

【INFO】www.parco-art.com

『SUMMER SONIC 2016』
2016.8.20.SAT~21.SUN @QVC マリンフィールド&幕張メッセ(Tokyo)&舞洲サマーソニック大阪特設会場(Osaka)

ACT : Radiohead, Underworld, サカナクション, Fergie, Weezer, Two Door Cinema Club, THE1975 and more
【INFO】http://www.summersonic.com/2016/

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Underworld
『Barbara Barbara, we face a shining future』

Smith Hyde Productions / Beat Records
3月16日発売