Text:編集部 Photo:Perou
3月11日にはミュージックステーションに生出演、
翌12日には渋谷パルコPART3の屋上で200名限定のプレミアムライヴ『Underworld Live: Shibuya, we face a shining future』を開催(その模様は全方位カメラで撮影され、VR映像として生配信!)し、大いに話題を呼んだアンダーワールド。
そして本日3月16日に、約6年ぶりとなる最新アルバム「Barbara Barbara, we face a shining future」をリリース!
最新作への思い、そしてこの6年間の活動について語ってもらったカール・ハイドのインタビュー前編に続き、
本稿では、現在メインストリームともいえるEDMシーン、そしてフェスティバルの功罪や、そのステージ演出に見られるアンダーワールドとの共通点、
そして制作におけるインスピレーションの根源と、その変化について話を訊いた。
流行へのアンチテーゼと期待感
カールが語るEDM、そしてフェス
——今作の制作にあたり、アンダーワールドにまつわる既成概念やイメージ、制約といったもの全てをシャットアウトしたそうですが、それはトレンドなども意識しなかったということ?
僕らはある意味、EDMやヒップホップのアーティストたちが今やっていることと逆のことをやろうとしているんじゃないかな。
2人とも天の邪鬼だから、これまでも常に他とは違うことをやろうとしてきたし(笑)。
今まで“これ”といった時代、“これ”といったジャンルに属するバンドになろうと思ったことは一度もない。
何かにインスパイアされたとしても、すぐにそれを捨てて前進してしまったからさ。
人々がそこに名前を付けようとする前に先に進んでしまおうぜ!ってね(笑)。
去年僕らは『Dubnobasswithmyheadman』の再演ツアーに出て、そこで巨大なLEDスクリーンを設置したんだけど、それは今のスタンダードでもあるよね。
ところが僕らはそのスクリーンにほとんど何も流さなかったんだ。それは、ある意味今のトレンドに対してアンチを唱えるステイトメントみたいなものだね。
スクリーンに絶え間なく流れる圧倒的なイメージの連続、次々に迫ってくる強烈さ、そうしたものに対する僕らの反応がそれさ。
至るところにイメージが溢れ返っているおかげで、今やそれがただの“壁紙”と化しつつある。そこにポジティヴな何かを見いだすのは楽じゃないんだよ。
だったら、それとは逆なことをやろうとリックが考えたアイディアが“ただ曲のタイトルだけを流す”ってことだったんだ(笑)
——確かに過剰な刺激は、受け手の感覚をマヒさせてしまう可能性がありますね。
その通り。最近のショーを見ていて感じるのもそこさ。
ただ、フェスそのものはファンタジックだ。“アメリカも遂にダンスミュージックに目覚めたか!”って感じるし、それは素晴らしいことだと思うよ。
“えらく時間がかかったけど、(アメリカの)連中にもやっとダンスミュージックが伝わったな”って思う(笑)
——なるほど……(苦笑)。
ともあれ、大勢のオーディエンスが集まり、コンテンポラリーなダンスミュージックを楽しんでいる、そういう光景を見るのは本当に素晴らしいね。
ただ、そこで感じるのはアクトは次々に出てくるけど、ビジュアルは似通ったものばかりということ。
しかも、その強烈さがエスカレートするばかりなんだよね。
もしも、それがフェス全体で1人だけなら最高だけど、出演するアーティストが全員そうだと感覚がマヒしてしまうよね。
——EDMという音楽に対してはどんな印象を持っていますか?
グレイトだと思ってる。さっきも話したように、アメリカがついに自前のダンスシーンを獲得したってことだし、それはファンタスティックな話だからね。
おかげでエレクトロニック系ダンスミュージックに対する大きな熱、アメリカにおけるダンスミュージック熱の波がキックオフしたわけだからさ。
そうした状況下では必ずブームの影響が徐々に流れ出し、メインストリーム以外の音楽にも目を向ける人が出てくるものなんだ。
それに、みんなが自分なりのスタイルで音楽を作っている様子が見れるだけでもグレイトだ。
僕自身、EDMの中に好きな曲だってあるよ。僕はどんなジャンルの音楽も好きな人間だからね。
——ただ、アーティストの中にはそうは思っていない方もいますよね。
その人の見方次第だからね。ダンスミュージックはしばしば一部の人から笑いものにされる、そんな側面があるかもしれない。
“何かが欠けた音楽”と捉える一部の人たちが、それをバカにして笑っているんだよね。
でも、そんな音楽を聴くために何万人もの人が集り、しかも非暴力的な手段でポジティビティを祝福しようとしている、そういった事実は真剣に受け取らなくてはいけないと思うな。
——ライヴ、ショーの形式も以前とはだいぶ変わってきました。特にEDMではDJと様々なクリエイターがチームとなって1つのステージを作り上げています。
それこそ僕らが90年代の初めのころからやり続けていることだよね。
当時はVHSのビデオテープをフェスに持参し、プロジェクターを使って映像を流していたもんだよ。
その内容はと言えば、よき仲間たち(Tomato)の作品を集めた映像ポートフォリオだったんだけどね。
ときには、僕らの背後に大きなスクリーンを複数設置して映像を流したこともあったけど、結局のところ僕らがやっていたのは“アートギャラリーをツアーに帯同すること”だったんだ。
そうして人々に“これが僕らの仲間、Tomatoの作品だよ、クールだよね”って見せてまわっていたわけさ。
——すでに今夏『SUMMER SONIC』にヘッドライナーとして出演することも決まっていますよね。そこではどんなライヴを見せてくれるのか、構想はすでにあるのでしょうか?
今の時点ではまだ詳細を知らないし、ライヴのプロダクション・リハーサルにも顔を出していないんだ。
リハーサルはロンドンのブリクストン•アカデミーを借りるつもりなんだけど、そこで2日間ぐらいリハをやって、諸々のセットアップを済ませて……それからショーの全体像がどうなるか見てみようって感じだね。
今言えることは、今回も優れたスタッフと一緒にやるつもりだし、Tomatoもプロダクションに関わっている。
当然、新作からのマテリアルも持っていくつもりさ。さらには、オーディエンスにはおなじみの、ファンに愛されている楽曲もプレイするつもりだし、長い間ライヴではやらなかったマテリアルも披露するつもりだよ。
あとは、僕らは今少しずつ違う内容の3つショーをやっているから、日本ではそれらのいろいろな要素を混ぜ合わせることができると思うし、プレイする場所ならではの個性があるよね。
僕は、そういったことが全て反映したショーにしたいと思ってる。
そして、何よりTomatoがまたライヴのプロダクション仕事に関わってくれることにとても昂奮しているよ。
全てが劇的に変化する現代社会
カール・ハイドのインスピレーションの源は今
——最後に、音楽はもちろんデザイン、映像、アート、様々なものが絶えず進化している中で、あなたが今最も刺激を受けるものを教えてください。
僕が今まで刺激を受けてきたものは変わらない、それはストリートなんだ。
都会のアーバンな環境、そこから常にインスピレーションを受けているよ。
僕は都市が大好きだからね。そこに生きる人々も好きだし、彼らがそこでどんなふうに会話し、どう動き回っているのか。はたまた、都市に移動する際に人々は生まれ故郷に何を残していくのか、といったこととかね。
そういったことが僕のインスピレーションの源になっているんだ。
そもそも人間というのは素晴らしい魅力に満ちた存在だし、実に豊かな多様性を持っているよね。
だから、僕はそれについて歌を書いたり、あるいは写真に収めたりしてる。
本当に都市というのは僕に絶えず様々な驚きを提供してくれるものなんだ。
今僕は都会で暮らしていないけれど、それはあえてそうしてるんだよね。都会から離れることで、様々な都市をよりエンジョイできるからさ。
最近はドイツのベルリンにいることが多いんだけど、そこでも街中を歩きまわり、その経験に基づいて何かを書いてみたりしているよ。
毎回1週間ぐらい滞在して、ベルリンを“生きて”いるんだ。
——ベルリンと、あなたの活動拠点であるロンドンではやっぱり全然違うものですか?
各都市にそれぞれ特徴があるよね。
例えば、前回僕が東京に行ったとき、それは自分のバンドを率いて『FUJI ROCK』に出演したときだから……確か2013年だったと思うけど、そのときは娘も参加していて、僕らは2人で東京を歩きまわったんだ。
かなり夜がふけてからのことだったんだけど、そこで僕らは夜の東京の持つリズムについて話し、お互いそれについて書いてみたんだ。娘もミュージシャン兼ライターだからね。
僕らはそれぞれの都市でいかに異なる特徴があるのか、いろいろと書き残しているのさ。
その中で今ロンドンに関して言えることは……これまでさんざん書いてきたこともあって、今やあまり刺激を感じなくなってしまっているんだよね。
もしかしたら、今の僕にとっては“盲点”みたいなものになっているのかもしれないけど。
——常に新たな刺激を与えてくれる場所を求めているわけですね。それはあなたの音楽にどう反映されるのでしょうか?
僕にはツアーという世界各地を訪れることができる特権があり、今はツアーに出たくて本当にウズウズしているところなんだ。
そして、その経験を活かして曲を書いてみたいとも思ってる。
ただ、ソロ・アルバムでは都市の周辺部、郊外、エッジに存在するエリアについて書いたんだけど、そういう場所では全く新しい視点から物事を見ることができたんだ。それはちょっと興味深い経験だったね。
今の僕は都市の周辺部に興味が移りつつあるんだ。
——そこには都会とはまた違った面白みがあると。
そうなんだ。アウター・エッジな部分に魅力を感じていてね。
それはキーラン・エヴァンス監督と話していたことでもあって、実は今彼と2人で都市部の外れで生きているんだ。
そして、ある意味忘れられたエリア、都会の周辺部で暮らしている人々の姿を追ったドキュメンタリー映画のシリーズを制作する予定にもなっている。
美しいカントリーサイドでは、様々なことが起きているんだよね、ダイナミックな“ハプニングな都市”とはまた違ったことが。
都会から離れた、少し見放されているというとおかしいけど、あまり公的資金が投与されていないようなエリアにこそ、興味深い物語が生まれているのさ。
思うに、かつて栄えた産業が廃れてしまい、それに合わせて変化しなければならなかった街なんだろうけど、そんな状況の中で人々はどんなふうに生き、サヴァイヴしているのか、今の僕はそこにとても興味があるんだ。
<BACK NUMBER>
▷アンダーワールドが語る6年ぶりの新作、それは終わりではなく始まり…
▷震災から5年。あのときアンダーワールドが日本のためにしてくれたこと
▷アンダーワールドも所属する最先端のデザイン集団TOMATOがこの春渋谷をジャック!
▷Interview with Tomato|サイモン・テイラー×ジョン・ワーウィックが語るデザインと音楽
Underworld
『Barbara Barbara, we face a shining future』
Smith Hyde Productions / Beat Records
3月16日発売
EVENT INFORMATION
SUMMER SONIC 2016
2016.8.20(土)〜21(日)
QVC マリンフィールド&幕張メッセ(Tokyo)&舞洲サマーソニック大阪特設会場(Osaka)
¥2,000
ACT : Radiohead, Underworld, サカナクション, Fergie, Weezer, Two Door Cinema Club, THE1975 and more
アンダーワールド
カール・ハイドとリック・スミスが中心となり結成。ダレン・エマーソン加入後リリースしたファーストアルバム「Dubnobasswithmyheadman」でシーンに鮮烈なデビューを飾り、“Rez”、“Born Slippy”といった不朽の名曲を世に送り出すとともに、世界的なダンスアクトに。2000年にダレンが脱退し2人体制へ移行するもその実力は健在で、2012年にはロンドン五輪の開会式で音楽監督を担当。このたび約6年ぶりの最新作「Barbara Barbara, we face a shining future」をリリース。