いくつものハイライトを生み、大盛況に終えた『ULTRA JAPAN 2015』。
その裏側にあった出来事、そして真実とは……?

開催直前に行われた対談に続き、『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクター:小橋賢児と本誌編集長:芹澤直樹が改めて語り合う。

本祭を終え、いま感じること。
ほかでは語られることのない『ULTRA JAPAN 2015』のエピソードがここに。

数ある新たな取り組みの中で成功したものは……

芹澤「『ULTRA JAPAN 2015』の開催、お疲れさまでした。終えてみて、今の率直な感想は?」

小橋「どこから話せばいいのか、たくさんのことがあり過ぎて……。
全体の印象としては、日を重ねるごとにクオリティがあがっていった感じがしましたね。というのも、僕らも含め今回関わった全てのスタッフがいろいろな意味で意識が固まっていったんですよ。

たとえば、音響に関しても1日目は人がいないときの鳴らし方と人がたくさんいる時の鳴らし方をPAさんとリアルタイムで何度も協議しながら、規定内の音量で最良のポイントを探っていたんです。
そのため、最終日には本当に素晴らしい鳴らし方をしてくれていて。それは、映像も運営オペレーションも全てにおいて同じことが言えます。

初日はとにかく会場内の全てのエリアをグルグル回ってましたね(笑)。
ただ、みんながそうやってコミュニケーションを繰り返した結果、最終日は最もクオリティが高かった気がします」

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芹澤「開催直前に、今年の『ULTRA JAPAN』の狙いや意図を伺わせて頂きましたが(参照|『ULTRA JAPAN』の裏側に迫る!仕掛人に聞く『ULTRA』の真なる魅力と意義)、今日は終ってみて実際どうだったかを聞かせてもらいたくて。
今回は様々な新たな試みもありましたが、そのあたりは?」

小橋「新しい取り組みの中で、やってよかったと思うのは、意外かもしれませんがULTRA PARKです。
踊る場所とは別で、芝生の上でゆっくりと休めるエリアを作ったことで、遊びに来てくれたお客さんにとっては過ごしやすい空間になったのではないかと思います」

芹澤「踊り疲れた後に休むことができる“逃げ場”は、絶対に必要ですよね。
特に連日開催するロングランのフェスでは、快適なチルスペースはかなり重要だと思います。
事実、『Tommolowland』や『Corona Sunsets』のような海外の人気フェスでは、チルスペースのソファや造作にもすごくこだわっていますし。
遊びを熟知している人ほど、そういうことをわかってる」

小橋「しっかりと遊ぶためには、しっかりと休むスペースが必要。
今回ULTRA PARKでは快適に過ごしてほしくて、BGMも心地よいチルアウト系を選曲したんです」

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芹澤「新たな試みとして、RESISTANCEが加わったことで、3つのフロアのコンセプトが明確になった。だから、お客さんがそのときの気分にフィットする音楽を自然と選択していたように感じます。
この3つのフロアは、同じダンスミュージックとしても、そこで得る音楽体験がまるで別物だから。そこに新しい発見があったのでは?」

小橋「現にメインフロアにヘッドライナーが出演している時間でも、各フロア最後まで人がたくさんいましたからね」

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小橋賢児、芹澤直樹が選ぶ今回のベストアクト

芹澤「では、小橋さんの中での今回のベストアクトは?」

小橋「スクリレックスですね。あの爆発的な盛り上がり。
展開にストーリー性があり、かけているものもマスっぽいEDMではなく、彼の音楽スタイルであれだけ大勢のオーディエンスをロックするエンターテインメント性はさすがの一言でした」

芹澤「エンターテインメント性と言えば、スクリレックスのステージにBABY METALが乱入!あれは予想できなかったです(笑)」

小橋「それは、僕たちも当日まで知らなかったんですよ(笑)」

芹澤「本当ですか? そんなことあるんですね(笑)。
それにしても、彼のショーは本当に見ていて面白かった。MCを入れる時も自分でフィルターでブレイクを作って、ミキサーをいじりながらマイクでお客さんを煽るライヴ感。
さらには、矢継ぎ早なミックスや宇多田ヒカルの“passion”のリエディットをマッシュアップしていたり」

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小橋「あのシーンは象徴的でしたね。日本語のEDM系のダンスミュージックって、どうしてもKポップみたいになってしまいがちなのに、あの曲は純粋にカッコよかったですし」

芹澤「あとは、SNSでも話題になっていたフェティ・ワップ“Trap Queen”の日本語ラップのバージョン。
調べてみたら、KOHHという日本人ラッパーの“周り全部がいい”というビートジャック曲らしく、すごいところまで掘ってるなって」

小橋「彼は今回、完全に日本を意識したセットでしたよね。逆に、FLOORさんのベストアクトは?」

芹澤「同じくスクリレックスです。
それ以外で言えば、オーディオビジュアルという意味で視覚的に面白かったのがアフロジャック。
あとはかねてから議論されているデヴィッド・ゲッタがボタンプッシャーなのか、それともカリスマなのか、そこに注目していました」

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小橋「ここだけの話なんですが、実はデヴィッド・ゲッタのギグの前日に彼のプロダクションの関係者が亡くなってしまい……。本人はものすごく気持ちが落ち込んでいたんです。
普段、『ULTRA』で彼がプレイする前はMCがオーディエンスを煽ってから入場してプレイを始めるんですが、今回はブラックアウトで黙祷の意を込めて淡々と入場したんです。
でも、プレイが始まってからは、自分がやるべきことを全うしていたのはプロですよね」

芹澤「なるほど。そんな心境であのギグを行っていたんですね。
そのエピソードを聞くと、すごく感慨深いものがあります。
そんなゲッタですが、シークレットアフターパーティでも急遽DJしていましたよね?」

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小橋「普段、あまりそういうことはしないんだけど、彼の中で何か心境の変化があったのかもしれないですね。しかも、急遽アレッソとのB2Bまで披露してくれて」

芹澤「それもレアだと思うのですが、驚いたのが途中から4つ打ちではなくヒップホップをかけていたこと。あれにはビックリしました。
だって、ゲッタとアレッソがアウトキャストやJディラをかけるとは!」

小橋「ビックリですよね(笑)」

芹澤「昨年のアフターパーティでは、アフロジャックが飛び入り参加して、普段のビッグルーム系とは違うグルーヴィーなテックハウス中心の選曲でプレイしていましたが、ゲッタがまさかのJディラとは……」

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現場の人間も必要性を感じた『ULTRA JAPAN』の存在意義

芹澤「話を本祭に戻しますが、その他に小橋さん的なトピックは何かありました?」

小橋「嬉しかったのは、クラブ関係者の方が大勢来てくれて、このフェスがシーンにとって必要だと言ってくれたことですね」

芹澤「今のEDMカルチャーは穿った見方をされやすいし、黒船のように登場した『ULTRA JAPAN』は特に理解されにくい部分が多かったと思います。
でも、日本のダンスミュージック・シーンを作ってきたクラブの方々やオーガナイザーの人たちがそういう風に思ってくれたのは、実際に起きているムーブメントを肌で感じ、その意味や必要性を感じたからだと思います。
お互い役割は違えど、僕はどちらも大切な存在だと思いますね」

小橋「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいですね」

芹澤「『ULTRA JAPAN』は、とにかく再現力とプレゼンテーションの仕方が素晴らしい。
そして、音楽やファッションなどに関して様々な方法でお客さんをエデュケイトしている。これはカルチャーを作る意味でもとても重要だと思います」

小橋「苦労もたくさんありましたが、チーム全体で細部にまでこだわりました。
企画書の組織図に僕の役職がクレーマーって書いてあることもあったし(笑)」

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芹澤「あと、個人的に気になったのは終了後のゴミ問題。あれはどうにかなりませんかね?」

小橋「あれは僕も問題だと思ってます」

芹澤「たくさんの清掃係の人をみかけましたが、あれ何人くらいですか?」

小橋「主催者側としては、昨年よりも人数をかなり増やしました。終了後に全て清掃しています」

芹澤「それって、3日間、掃除する人の人件費を考えたら、みんながゴミを持ち帰ってくれれば、その分の費用を演出やチケット代に反映できる可能性もありますよね」

小橋「根本的な問題として、ゴミを捨てるという行為自体が楽しくなるような施策を考えたいとも思っていて。
例えば、踊りながらゴミを拾うパフォーマーみたいな人たちが会場にいたりとか」

芹澤「ゴミをたくさん拾った人たちだけが入れる特別エリアGVIP(ゴミビップ)とか(笑)。もしくはロボット掃除機ルンバを会場中に張り巡らせるとか(笑)」

小橋「いやいや、それは無理でしょう。第一、紙コップ吸えないじゃないですか(笑)。そんなことをしたら、会場の隅に大量のルンバが集まっちゃいますよ」

芹澤「ルンバのたまり場(爆笑)。
冗談はさておき、今年を踏まえた上で来年の抱負を聞かせてもらえますか?」

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小橋「そうですね、今年はベースステージやRESISTANCEステージを新たに作ったり、花火をあげたり、3日間に拡大したり、昨年よりも色々な意味でチャレンジしつつ進化をしたと思います。

ただ、その反面先ほどのゴミ問題など含め課題は増えました。
イベントはどうしても主催者だけでできるものではないので、こういう文化を継続していくためにも“一人一人の意識が、客ではなく一緒にイベントをつくっていく側”になるように僕らも意識して声をかけていきたいなと思っています。
これは全てのエンターテインメントをはじめ、日本人のモラルにも関わってきますので。

もちろん、イベント自体の内容も必ず進化していくようチーム一丸となって頑張っていきますので、2016年の『ULTRA JAPAN』も楽しみにしていてください!」

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<対談:小橋賢児×芹澤直樹>
『ULTRA JAPAN』の裏側に迫る! 仕掛人に聞く『ULTRA』の真なる魅力と意義