「Los Angeles」「Cosmogramma」「Until The Quiet Comes」とアルバムをリリースするたびにその名声を不動のものとし、音楽やアート、映像の分野で新たなフォームを提示してきたBrainfeederの長を務め、最近ではラッパー名義:キャプテン・マーフィーとしても活躍するフライング・ロータス。
いまや、彼抜きでは世界の音楽シーンは語れない。
2年ぶりの最新作「You’re Dead」はアメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリアなど、各国で自己最高の初動セールスを叩き出しており、日本独自企画盤としてインスト盤の発売も決定。そんな確固たる存在となった彼の再来日。
しかも今回は新作に加え、新たなライヴセットも引っさげて。
彼を迎えるその前に、今一度その偉大なる功績を振り返ってみたい。
1|Roots
ジャズの名家の血を受け継ぎ
新たな音楽世界の創造へ
フライング・ロータス、本名:スティーヴン・エリソンは1983年10月7日、アメリカはカリフォルニア州ロサンゼルスに生まれる。叔父にモダンジャズの名サックスプレイヤー: ジョン・コルトレーン、そしてその妻でありジャズミュージシャンのアリス・コルトレーンを叔母に持つ。コルトレーンという偉大なる名家の血を受け継ぐだけに、彼が音楽に目覚めたのもまさに必然的だったと言えるだろう。しかし、彼はコルトレーン一族だからといってただただジャズに傾倒することなく、その要素をダンスミュージックに落とし込み、ヒップホップ〜エレクトロニカ〜ジャズ〜ワールドミュージックなど、様々なエッセンスを加味し、独自の音楽性を高めていく。それが帰結したのが、2006年に発表したファーストアルバム「1983」。それはアンダーグラウンドシーンにおいて、大きな一石を投じることとなる。さらに、「Los Angeles」(2008)、「Cosmogramma」(2010)という歴史的名盤を生み出し、彼は新時代の寵児としての栄光をつかみ取ることに。また、当初UK名門ダンスミュージックレーベル:WARPに在籍していたが、08年からは自身のレーベルBrainfeederを主宰。エクスペリメンタルなビートミュージックを中心に、同レーベルから革新的なサウンドを数多く輩出(Brainfeederについては後述しているのでそちらもぜひ)。フライング・ロータス自身の音楽性とあわせて、オリジナリティ溢れる音楽世界を創造し、今なおその領域を拡大している。彼の生み出すサウンドは自由であり最先端。その見つめる先には、新たな次元が垣間見える、まさに音楽界の旗手として君臨している稀代のアーティストなのである。
2|Music
希有なる才能とともに、既存の音楽の
新たな幕開けを祝う名作が完成
そんな彼の最新作「You’re Dead!」。すでに各国のチャートを席巻している今作は、常に新たな音楽性を提示してきた彼の血肉であり血脈と言えるジャズの最新系を体現。100年以上の歴史を持つジャズ、それは本質的に形式に捕われないフリーフォームなサウンドであるが、彼はここにきてそれをさらなるターム、これまでとはまたひと味違う新たな次元へと導くことに成功している。圧倒的な存在感を携えながらも、どこか陰があり内省的なそのサウンド。聴けば聴くほど無限に広がるサイケデリア。ジャズであり、ジャズではない、そんなアンビバレントな関係性のもとに成り立つ繊細かつ大胆な新たなジャズ。タイトルで謳う“You’re Dead!”(おまえはもう死んでいる)、そこにはフライング・ロータスの新たな世界観にやられると同時に、彼ならではの死生観——死がすべての終わりではなく、新たな旅の始まりであることを改めて訴える、そんな強い意志を感じさせる。しかも、今作で彼は巨匠:ハービー・ハンコックをはじめヒップホップ界のレジェンド:スヌープ・ドッグ、一方で才気あふれる気鋭アーティストたち、ケンドリック・ラマーやサンダーキャットらをフィーチャー。時代、そしてジャンルをも超えたかつてないその方程式が、音楽性や世界観、そして彼の紡ぎだす物語、そのすべてをより一層の高みへと引き上げている。今作『You’reDead!』でフライング・ロータスは、1つの物語を完結させた。彼流に言うなら、それは新たな時代への幕開けであると言えるだろう。
3|Live
“レイヤー3”を超える『Hyper Cube』
本邦初公開となるその最新パフォーマンスとは
フライング・ロータスの魅力は、その音楽性もさることながら、ライヴにも言及せざるをえない。これまで日本でも驚愕のパフォーマンスを幾度となく披露してきたが、新作「You’re Dead!」とともに、ここにきて彼はまた新たなスタイルを生み出したという。今年2月、『BRAINFEEDER 4』で最新型のライヴパフォーマンス、立体的な映像演出を可能とする“レイヤー3”の完成系を見せつけたばかりだと言うのにだ。その最新ライヴセットの名前は『Hyper Cube』。すでにその一端がYouTubeにて公開されているが(FLYING LOTUS Live Teaser)、それはライヴという概念を超えた一種のアートフォーム。もはや何が起こっているのかわからない、彼はライヴにおいても未知の領域へと歩みを進めている。そんな『Hyper Cube』が、12月に行われる来日公演で本邦初公開となる。めくるめく音楽と映像による新時代の奔流を、ぜひその目で確かめてほしい。
4|Label
フライング・ロータスの名の下に
個性豊かな顔ぶれが集うBrainfeeder
Brainfeeder、それは今最も旬で、最も刺激的で、最も崇高なレーベルの1つだ。2008 年にフライング・ロータスが設立した同レーベルには現在約20名以上のアーティストが在籍。超絶ベーシスト:サンダーキャットをはじめ、音楽〜アートまで幅広く活躍する天才肌:ティーブス、LAビートシーンにおける狂える才人:ザ・ガスランプ・キラー。さらには、今年待望のデビューアルバムをリリースしジャズの進化形を提示するテイラー・マクファーリン、Eastern DevelopmentsやNinja Tuneでも活躍するデイデラス。その他にもマシューデイヴィッドやモノポリー、ミスター・オイゾーまで、すべてはフライング・ロータスという大樹のもとに様々な人材が集っている。しかも、そのいずれもが革新的かつ独創的なサウンドを創造する才能に溢れたものばかり。Brainfeederは変化し続けるシーンにおいて、これまでも、そしてこれからも新たな潮流を生み続ける絶対的なレーベルなのである。
5|Hobby
親日家にしてアニメ好き
趣味が高じてなんと新作に……
ここまでフライング・ロータスについて考察し、ややもすると彼は小難しい天才肌に思われがちだがそんなことはない。彼は大の親日家であり、無類のアニメ&マンガ好き(来日の際は必ずアキバに繰り出しているとか)。かつて、東日本大震災の際も数多くのアーティストが来日をキャンセルする中、彼は『SonarSound Tokyo』に出演し、孫悟空(ドラゴンボール)のコスプレをして、かめはめ波という大技を繰り出し日本を元気づけた。それほどまでに日本を愛し、そして情に厚い男なのである。そして、アニメ好きが高じてか、なんと新作「You’re Dead!」のジャケットのデザインは日本の奇想マンガ家:駕籠真太郎が手掛けることに(それはそれでフィットしているのがスゴい)。現在、そんなジャケットのデザインTシャツも販売中。
6|CaptainMourphy
フライング・ロータス≒キャプテン・マーフィー
天は彼に二物(人格)を与えた
アーティストでありレーベル主宰でもあるフライング・ロータス。そんな彼にはもう1つの顔がある。それはラッパー名義:キャプテン・マーフィー。2012年、シーンに彗星のごとく現れたマーフィーは、当初謎のベールに包まれていた(本人もバラすつもりはなく匿名性を楽しんでいたという)。なぜなら、フライング・ロータスとは異なる音楽性、そしてラッパーという職業からして違っていたから(本人自らの足跡を消すことに奔走し、一時ネットでは正体がタイラー・ザ・クリエイターという噂も)。しかし、その正体が明かされると、彼の才能の豊かさに誰もが息をのんだほど。今年開催されたレーベルショウケース『BRAINFEEDER 4』でも、その2つの名義を行き来したなんとも希有なライヴを披露してくれたが、次回の公演ではどうなるのか楽しみなところ。また、彼曰く現在キャプテン・マーフィー名義のアルバムも制作しているとかいないとか。一部ではマッドリブやハドソン・モホークとの曲がすでに完成し、その他にも様々な憶測が飛び交っているが、正式な続報に期待したい。