11月28日(土)にニューアルバム「2020〜」をリリースするSTUDIO APARTMENT(スタアパ)。アルバムとしては約8年ぶりとなる今作は完全無欠・問答無用のハウス仕様。それも現在進行形の潮流を感じさせながら彼らならではの魅力も備えた、まさにスタアパの最新2020モード。そんな意欲作をあえてこのコロナ禍に発表するからにはそれなりの意味、そして自信があるはず……STUDIO APARTMENT・MASANORI MORITAにたっぷりと話を聞いてみた!

◆ターゲットは海外、純然たるハウスで世界と勝負!

――アルバムとしては約8年ぶりのリリースになりますが今の心境は?

「大変な状況にある中でもアルバムが出せることは素直に嬉しいです。それに、ヨーロッパに拠点を移していた頃(2012~2013年)はEDMの市場が大きくなり、自分が望む音楽性の楽曲を作れる状態になく、さらには帰国してもしばらくはどう活動していくべきかを悩んでました」

――悩んだというのは?

「日本のレコード会社と契約すると必然的に日本マーケットでのセールスを求められてしまう。でも、僕らの音楽はダンスミュージックで、ターゲットは日本ではない。日本で売れる楽曲制作を求められることが本意ではなかったんですよ。そんな中でEDMのムーブメントが爆発し、僕ら自身、作家としての活動が増え、それこそティエストとハードウェルの楽曲に参加したり。でも、本来のスタイルであるハウスミュージックのオリジナル曲をリリースしたいという葛藤が常にあって、徐々にヨーロッパのシーンが変化し、ハウスのマーケットが拡大してきた今こそチャンスかなと」

――今のヨーロッパのシーンにはどんな印象があります?

「ここ数年Defectedの勢力が本当にスゴい。音楽的にはボーカルもののハウス、ディスコハウスと並行し、南アフリカ勢によるアフロハウスとヨーロッパ産のアフロテックのシーンが大きくなっていると思います。スタアパはデビュー当時からアフロビートの楽曲が多く、その上これまでの我々の楽曲にフィーチャリングで参加してくれたアーティスト(シンガー)がいつのまにか人気になっていたこともあり、このタイミングを見逃す術はない、と思っていたところでコロナ禍になり……。でも、そんな時だからこそアルバムを作ろう、そう思ったのが今年の3月でした」

――昨年6年ぶりの新曲“Shoulder”を発表されましたが、その頃にはアルバムは考えていなかった?

「いつか出せたらいいな……ぐらいでしたね。どちらかと言えば、シングルをコンスタントにリリースすることが優先で。アルバムとなると考え方や制作も変わるし、何よりかかるコスト(制作費)も断然多くかかってしまうので正直大変ではありましたが、なんとかここまで辿り着くことができました」

――先ほどターゲットは海外と話していましたが、日本は意識していない?

「僕らはヨーロッパをメインとした海外のダンスミュージックシーンで勝負したい。決して日本を軽視しているわけではなく、でも日本のマーケットを狙っているかと言えばそうではない。このアルバムは世界で戦う名刺代わりであり、今後も世界に向けてアルバム収録曲やリミックスなど来春まで7ヶ月間で16タイトル以上リリースする予定です」

――休むことなくアルバムリリース後も? 大変じゃないですか?

「海外のダンスミュージックシーンではコンスタントに楽曲を発表していくことがとても重要。アルバムを出して終わり……じゃない。継続してリリースすると海外のPR会社やディストリビューターなどの対応が変わってくる。それこそ先日リリースした“Njengengoma feat.TOSHI”はリリース前から反響が大きく、Traxsourceではプロモ段階で様々なチャートに入ったんですけど、それも継続してきたからこそなのかなと思います」

――となると今はだいぶ手応えを感じている?

「9月以降アルバムからシングルをカットする中でブラック・コーヒーやマーティン・ギャリックス、ジョン・ディグウィード、ドン・ディアブロ、リッチー・ホウティン、ロスト・フリクエンシーズ、ニック・ファンチューリ、オリヴァー・ヘルデンス、カール・クレイグなど、本当に多くのDJがフィードバックしてくれていて。以前はリミックスに頼りがちなところもあったけど、今はオリジナルも評価されるようになってきて。、継続は力なりと感じる今日この頃です。つい先週もブラック・コーヒーが自身のSpotifyのプレイリストに”Krut Pha feat. MAUMA”を入れてくれてましたね」

――そうなるとアルバムのリリースが楽しみですね。

「そうですね。フィーチャリングアーティストも豪華ですし、マスタリングも全曲ハンブルグのエンジニアにお願いしたり。このご時世で、ここまで豪華なアルバムをリリースしているダンスミュージック系のアーティストは少ないと思うんですけど、できることは全部やっておきたい。アルバム以外にもミュージックビデオもしっかり作っているので、ぜひ観て頂けたら嬉しいです」

◆哀愁・民族・エナジー、アルバムに込められた3つのエッセンス

――フィーチャリングアーティストですが、バーバラ・タッカー、トシ、モニーク・ビンガムなど現行シーンで活躍している実力派揃いですね。

「今回はスタアパの活動20周年ということもあり、以前から縁のあるシンガーやプロデューサーたちに声をかけたらみんなが賛同してくれまして」

――今作にはスタアパ20年の流れがありつつも新しさが際だっている感じがします。

「ダンスミュージックである限り、時代の流れは汲み取っていかなければいけない反面、今回は20年の歩みというか、スタアパ感を出したいと思っていて。その中で大きいのはピアノ。スタアパらしさという意味ではやっぱり鍵盤は重要ですね」

――確かにピアノの存在感が随所にありましたが、今回のテーマは“哀愁”、“民族”、“エナジー”。この3つはどこから?

「1つは自分のDJスタイル。選曲の際に意識するのがその3つの要素なので。そして、哀愁はスタアパに欠かせないし、哀愁感のある曲が好きなので、そういう曲を作りたい気持ちは20年間変わらない。あとは昔から民族音楽が好きで、民族感もスタアパの根底にあるもの。この20年間を総括する意味でも欠かせないし、改めて今表現してみたいという思いもありまして」

――民族感は幅広くないですか? それこそ世界中、各地にあるわけで。

「中東、アジア、アフリカ、それぞれの地域や国でそれぞれの魅力があると思うんですけど、少しでもそれらをスタアパらしく表現できればなと。それこそ以前、海外で暮らしていた時に世界中の人々と出会い、彼らと関わることで彼らの国や地域の文化、音楽に触れ、興味を持ったんですよ。同時に様々な国の人々の生への意識というか、エナジーみたいなものも感じて、そういったことから今回のテーマが自然と生まれてきたんだと思います。かつてはただ好きだったものがリアルな経験を経て、意識が大きく変わりました」

――今回は世界がターゲットということですが、海外の人に哀愁感って伝わるのでしょうか?

「確かに日本人が思う哀愁感と海外の人が感じる哀愁感は違うかもしれない。英語で言うと“メランコリック”や“エモーショナル”という言葉が近いと思うんですけど……哀愁感というのは日本独特の感覚かもしれないですね。強いて言うなら、かつてのニューヨーク系ディープハウスには近い感覚があったけどヨーロッパはまた別物なのかもしれないし、それで言うとアフリカ系のアーティストが作る楽曲も哀愁感がある曲が多い」

――生きてきた歴史や環境、バックボーンが大きいんですかね?

「そうですね。アフリカに関してはブラック・コーヒーの影響が大きいと思います。彼のサウンドの中には日本人のそれとは違うものの哀愁感に通じるものが確実にあると思います。あとはベルリン系のアフロテックにも同じような部分がある。今、アフロハウスは大きく2種類あって、1つは南アフリカ系でかなり土着的なもの。もうひとつはヨーロッパ系で、これは洗練された感じで、テックなトラックに民族系な声が入ったもの。去年の『ADE』でもそういうスタイルのパーティがたくさんあり、どれも盛り上がっていて、ファッションとリンクした日本にはないムーブメントがありましたね。あんなパーティを日本でも作りたいと思いました」

――ヨーロッパ系のアフロハウス、具体的にはどんな感じですか?

「アフロな要素を踏まえつつも洗練された、インテリジェンスな音楽というか、アーティストで言えば、アダム・ポート、アンドミ0、ランパとか。海外ではファッションとアートが結びついていて、特にヨーロッパやマイアミなどは音楽とアートのコラボが盛んですね。アートバーゼルへ行くと錚々たるDJたちがプレイしているし、日本でもそういうコラボが増えると面白いと思うんですけど……そんな願いを込めて、というわけではないんですが、今回はアーティストヴィジュアルを世界的に活躍している長尾ヨウさんにアートとして制作して頂いたり、アートワークやミュージックビデオもアートとしての打ち出し方を意識していて、それは今後も続けていきたいです」

――では、3つ目の要素、エナジーに関してはいかがでしょう? どんなことを意識していましたか?

「人間には様々なエナジーがあると思うんです。元気や力がもらえる活力であったり、ダンスフロアに生まれるエナジー、それは生きている証だったり、喜びの結晶だったり。様々なエナジーを頭に浮かべながら、全ての要素を取り入れた感じです」

◆ダンスミュージックは空間…ハウスにおける音数、立体感の意味

――今回、特に顕著だったのが音数。極限まで削られていたと思うんですが。

「以前よりだいぶ減りました。ただ、ダンスミュージックということを考えると、これでもまだまだ音数が多いと思います。音数が増えれば増えるほど空間や余白が失われ、奥行き、立体感がなくなってしまう。楽曲にもよりますけど、音数を少なくすることで1つ1つの音が際立ち、立体感が出る。例えばJポップは様々な音を突っ込んで派手だけど、その反面平面な曲が多い」

――具体的に空間、立体感とはどんなものでしょう?

「わかりやすく言えば、空間=気持ち良さというか、そもそもダンミュージックは空間(隙間)は必要不可欠だと思うんです。音楽に空間があることでそこに没入できるというか……言葉にすると難しいですね(笑)。いずれにせよ、空間性や立体感を追求するのはダンスミュージックの醍醐味かもしれません」

◆新型コロナが産んだ「2020〜」、新たな音楽を提示したスタアパの未来

――今年は新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るいましたが、その影響はやはり大きかったですか?

「大きかったですね。仕事が全てキャンセルになったし。楽しみにしていたギグがなくなってしまったことが残念です」

――多くのDJは新曲ができた際には現場でプレイし、フロアの反応を見ると思うんですが、今回はそれができなかったわけですよね?

「フロアでどのように機能し、どんな反応があるのか、現場で試せなかったことはやっぱり不安でしたね。でも、逆にコロナがなかったらこのアルバムは生まれていなかったというか、アルバムを作ろうと決断していなかったと思います」

――ダンスミュージックシーンは移り変わりが早く、そういう意味では今年は“空白の1年”になってしまった感じですが、そんな中で今のシーンを意識するのはむずかしかったのでは?

「今回は作りたい曲を作った、という感じですね。アフロハウスのムーブメントを肌で感じ、そこに影響を受けた部分もあるけれど、そもそもスタアパとしてはアフロビートを得意としていた部分もある。そういう意味では現行シーンの接点と原点回帰が共存した、スタアパ20年の歴史であり最新系であるのかなと思います」

――最後にアルバムをリリース後の展望を教えてください。2021年は世界が変わることを望むばかりですが。

「徐々にギグも増えてきたと思ったらコロナの波が再び来たり。この繰り返しは仕方がないかと。自分は自分ができること、つまり曲を継続的に作ることをしっかりやっていきたいと思います。そして、少しでも早くこのコロナが収束し、思いきりパーティができる日が来ることを願っています」

STUDIO APARTMENT「2020〜」(N.E.O.N)11月28日(土)デジタル配信
12月4日(金)にはStudio W (WOMB)にてリリースパーティも開催!