“僕なりのEDM ラプソティ……”
“EDMは今後確実に変革があると思ってる……”
スティーヴ・アオキが語る今、そして未来

現在のダンスミュージック・シーンにおいて欠かすことのできないDJ・アーティスト、スティーヴ・アオキ。
世界各地で開催されるビッグフェスをはじめ、年間100本を超えるギグに参加し、ここ日本にも度々来日。
しかも、その度にフロアを狂喜乱舞させる彼が、自身初となるメジャー・アルバム「Neon Future Part.1」をリリース。
今作に込められた思い、そして彼のクリエイティブの根源、さらにはEDMの未来とは……。

steve1

——メジャー作品としては、意外にも今回が初なんですね。

今回は今まで自分ができなかった部分を補ってもらえることになってね、だからメジャーで出すことにしたんだ。
でも、決してこれまでメジャーを目指していなかったわけじゃない。それはタイミングの問題さ

——ちなみに、アオキさんができなかった部分とは?

ラジオだね。僕にはそこでのプロモーションがあまりできていなかったんだ。
ただ、別にインディであっても世界ツアーを行うこともできたし、アーティストとして活動するにあたって何の問題もなかったと思う。
今回は、あくまでいい意味でステップアップできると思ってのことさ

——今作のタイトルは「Neon Future Part.1」。これは、アオキさんなりの未来感を意図してのもの?

正直、未来の音楽がどうなるかは僕にもわからない。だから、今回のアルバムが全て正しい未来というわけじゃない。
科学的なことであれば、ある程度将来の流れを予測することができるかもしれないけど、音楽には流行り廃りがあって常に動いている。
そして、たった1人のアーティストの登場によってシーンがガラッと変わったり、トレンドが移行することもある。それも大きな企業による力や意図によるものではなく、1人の人間によって塗り替えられるということがね。それこそが音楽の力であって、素晴らしい部分だと思うよ。

ただ、思うに今後ジャンルというものはますますなくなっていくだろうね。あるいはよりたくさんできていく、ジャンルとジャンルが融合して新しいものが生まれると思う。
10年前はトランスがあり、ハウスがあって、それらの交流はあまりなかったけど、今はみんながクロスオーバーして、お互いコラボレーションしているからね。これからはその方向性がより進んでいくんじゃないかな。

——では、年間100本を超えるギグから得たインスピレーションなどは反映されている?

それは確実にあるよ。ただ僕の場合はDJに限らず、全てのものからインスピレーションを得ているといった方がいいね。
僕は常に大事な時間、その瞬間瞬間を絶対に逃したくないんだ。何かが自分に突き刺ささることってあると思うんだけど、それはその瞬間に自分の中で昇華しないと消えてなくなってしまう。
例えば夢もそう。忘れてしまったり、意識の中に埋もれてしまうだろ。僕はそれがイヤなんだ。だから、常にボイスメモを録っているし、音に限らず写真や映像で残すようにしているんだ。音楽はもちろんのこと、デザインや風景、僕の琴線に触れる面白いものを見たら常に記録するようにしているよ。
僕は音楽プロデューサーであると同時に、ファッションにも興味があって、そうした活動もしている。すべてのクリエイティブにそういった記録が必要なんだ。

——ちなみに、ここ最近記録した中で印象に残っているものは?

少し前のことになるけど、『Tomorrowland』だね。あれはヤバかった。世界でベストのフェスティバルだと思うよ。絶対に行くべきだ

——アルバムの話に戻ります。今回は、フィーチャリング・アーティストが多数参加していますがその狙いは?

友人たちと仕事をするのは気心も知れているし、制作していても楽しいからね。
ただ、自分の音楽性に精通している人だけじゃなく、違う畑の人たちとあえて制作する。そのチャレンジもすごく好きなんだ。今回で言えばフォール・アウト・ボーイがそうだね。
その一方で、ダンスミュージックにどっぷりのワカ・フロッカ・フレイムやウィル・アイ・アムも参加しているし、そのバランス感、両方の要素が共存することが作品にとっては大事だと思ってる。

——フォール・アウト・ボーイとの楽曲“Back To Earth”は、これまでの彼らの楽曲にはない魅力がありつつ、彼ららしさも感じさせる素晴らしい曲でした。

そういってもらえると嬉しいね。そこが一番の狙いだったからさ。僕の中でも新しい作品になったと思う。

——もう1曲気になったのが、タイトル曲でもある“Neon Future”。これは長尺の楽曲になっていますが、それはDJプレイ中にステージ上でいろいろとアクションするために?

面白い意見だけど、残念ながらそれは違うね(笑)。
この曲は今回のアルバムの発想を最も体現したもので、言うなれば僕なりのEDM ラプソティなんだ。様々な展開が1曲の中に詰まっていて、浮遊感のあるパートから急にアンセミックになったり、そうかと思えばそこから離れてスピリチュアルになったり。すべての展開をできる限り長くみんなに体験してもらいたくてこの形になったんだ。

——EDM ラプソティということは、この曲にアオキさんなりのEDMへの思いが込められている?

EDMは今本当に人気があるよね。でも、どういった形なのかはわからないけど、僕は今後近いうちに確実に変革があると思ってる。
現状見ている限りでは、いわゆるEDMのアーティストたちはクラブ・トラックではなく、ボーカルもの、“歌”が大きく関与している。カルビン・ハリス然り、デヴィッド・ゲッタ然り、アビーチー然り。彼らがそういった動きをすることによってEDMというジャンル、音楽性をさらに押し広げ、それは今後様々な形になっていくだろうね。

——そういう意味では、今作に歌ものが多いことも関係している? それはDJという視点から見るとどうなんでしょう?

僕にとってアルバムを作ることとシングルを作ることは違うんだ。今作を含め、アルバムは単純にプロデューサーとして、それこそダンスミュージック以外の世界の人たちと一緒に曲を作って、1つの作品にするものなんだ。
そして、それらをリエディットしたり、ボーカルを抜いたりしてクラブ・ヴァージョンを作ったり、さらにはリミックスを作る。
今回も全曲作る予定さ。DJは必要であれば、それを使ってもらえばいいと思ってる。アルバムはあくまでプロデューサーとしての僕の作品。クラブでの機能性だけを考えて作るわけじゃないんだ。

——先日発表された『DJ Mag』誌のDJランキングで、今年は10位を記録していましたね。

嬉しいことだよ。でも、日本人がもっと投票してくれたら別の結果になったと思うな(笑)。来年はそうなることを祈ってるよ。

steve2

——確かに、アオキさんのパフォーマンスは日本でも人気です。とりわけ、プレイ中の様々なパフォーマンスはあなたの代名詞になっていますが、ステージ上では何を考えているんですか? ハイになって記憶にないこととかあったりする?

ギグでの出来事は全部把握しているよ。ステージ上ではお酒を飲むこともないからね。
お客さんが何をしているか、何を求めているかを感じてパフォーマンスに集中しているんだ。DJは何をすれば盛り上がるのか、それを瞬時に察して行動しなくてはいけない、とても判断力が問われるもの。
音楽には流れ、脈のようなものがあって、常に動いている。それがずっと同じ調子ではいけないし、変化させるにしてもタイミングが重要だ。
そして、いつ何が起きるかわからない、予測不可能な感覚を演出しなくてはいけないし、ステージ上ではいろいろなことを考えているよ。

——DJ、プロデューサー、レーベルDim Makのオーナー、さらにはアパレルライン、様々な分野で活躍されていますが、最後に今後の展望を教えてください。

自分の情熱の赴くままに、それに従って自分のやりたいことをやっていくだけだね。
何をするにしても自分の情熱を100%注ぐことが大事だと思う。たとえまわりの期待に充分に応えられなかったとしても、少なくとも自分が納得、満足することで次に進めると思うしね。僕はそうやって今までやってきたんだ。

steve3