異なるジャンルの「音楽」をどう聴くか、どう観るか、どう比較するか。
例えば、4つのステージがひとつの空間にあり、異なるジャンルのアーティストが出演したら、どのような化学反応が生まれるのか。
「RED BULL MUSIC FESTIVAL 2017 東京」の斬新でユニークな企画のなかでも「SOUND JUNCTION 渋谷音楽交差点」は、オーディエンスにとっても出演アーティストにとっても未知の試みになった。2部構成となり、1部は各アーティストの通常ライブ。2部は日本のポップスをカバー/アレンジして披露する。
会場のベルサール渋谷ガーデンの四隅には、それぞれステージが設置され、オーディエンスは、四方向からステージに囲まれている格好。出演アーティストである水曜日のカンパネラ、KICK THE CAN CREW、中田ヤスタカ、Nulbarichはどこのステージから、どの順番に現れるかはわからない。
適度は緊張と期待に包まれるなか、「SOUND JUNCTION 渋谷音楽交差点」はスタートした。
神秘的な世界観を創出した音の巫女コムアイ
圧巻だった。オーディエンスは固唾を呑んで、1つのステージを見守る。
さほど大きくないステージに胎動するように膨らむ気球らしき物体は、しばらくするとステージからはみ出て、脈打つ。会場内が異様な空気に包まれる中、コムアイの歌声とともに気球に彼女の踊る影が写る。
数分間だけで、オーディエンスの視線と心を完全に握ってしまった水曜日のカンパネラの演出は見事だった。「ゴッホ Remix」「贏政」につづき、「バク」ではフロアに降臨して、オーディエンスの目の前でパフォーマンスを繰り広げる。会場を一周しながら「ウランちゃん」「一休さん」を踊り、歌う姿は、神が乗り移った巫女と、それを崇める民衆のような構図だった。
暗闇の中でコムアイだけ浮かび上がっているのだが、実は会場の端からスタッフが鏡を使って光を反射させて当てているのだ。気球の演出もそうだが、神がかった姿を演出するための人的なDIYやアイデアが秀逸で、面白いコントラストを生んでいた。
3MCによるマイクパフォーマンスがステージを熱狂に
水曜日のカンパネラがフェードアウトすると同時に、逆サイドのステージからKICK THE CAN CREWが登場。オーディエンスもそれと同時に一斉に移動を開始する。KICK THE CAN CREWも水曜日のカンパネラとは、異なるアプローチで魅了してくれた。
今年6月にデビュー20周年を迎え、本格的な再始動を始めた彼ら。オープニングの新曲「千%」につづき、「マルシェ」「イツナロウバ」「アンバランス」など代表曲を連発し、と高らかにKICK THE CAN CREWここにあり!を宣言するような内容だった。
もちろんこれがKICK THE CAN CREWのみのライブであれば違う内容になったはず。「SOUND JUNCTION渋谷音楽交差点」は、4アーティストが出演するイベントであり、いわば自らのファンのみが集まるわけではない。その環境下で、水曜日のカンパネラが世界観で圧倒したように、KICK THE CAN CREWは、3MCの息の合ったステージングで、熱狂を生み出した。もっとも強烈な会場の一体感を生み出したのは、彼らで間違いないだろう。
“音は見えないけど、満たしてくれる”。でも、感じた極上のグルーヴが可視化する瞬間
つづいて登場したのは、昨年のデビュー以来、耳の早い音楽ファンから高い注目を集めていたバンド・Nulbarich(ナルバリッチ)。
アシッドジャズの洗練さとブラックミュージックのグルーヴが心地よく体が動き出し、バイリンガルの歌詞はサウンドと実に自然と馴染む。「It’s Who Are」「NEW ERA」の2曲のYouTube合計再生回数は300万以上を記録しており、いまもっとも注目を浴びているバンドのひとつと言える。
「僕たちのこと知っている人は少ないと思いますが……」と挨拶を始めたフロントマンのJQ。それは間違いなく事実であったし、そんなオーディエンスをどこまで惹きつけることができるか?が彼らの当日のミッションだったはず。
でも、そこには気負いは感じられなかった。淡々と自分らの演奏をしていくスタイル。大仰なパフォーマンスもせず、丁寧に一音一音を紡いでいく。心地よい。
そもそもバンド名のNulbarichとは、“ゼロなのに満たされている”という意味だそうだ。音は目に見えないけど、満たされていく。オーディエンスもグルーヴに合わせて、体をゆらゆらと動かす。
目には見えないけど、徐々に会場が音に満たされていくプロセスは、オーディエンスの動きから感じることができた。
最新ダンスミュージックとポップのボーダーラインを消す
ラストに登場したのは、中田ヤスタカ。当日の唯一のDJスタイルで、30分ほどの持ち時間は単純に難しいだろうな、というのが率直な印象だった。
しかし、ここは「SOUND JUNCTION渋谷音楽交差点」。中田ヤスタカは中田ヤスタカの道をしっかりと走る。「NANIMONO」「CRAZY CRAZY」「Love Don’t Lie」「If You Wanna」など自身のワークを次々と投下していく。エレクトロニック〜ベースミュージックに馴染みが薄いオーディエンスに洗礼を浴びせるように鋭い音がノンストップで響く。
プレイしたのは、米津玄師、きゃりーぱみゅぱみゅ、Perfumeなどヒットチャートを賑わすアーティストの楽曲。しかし、フューチャーベースのエッセンスを注入し、再構築された楽曲にはわずかにその片鱗を残すのみ。腹に響く低音も相まって、ダンスミュージックの真髄と見せつけながらも、絶妙なバランスでキャッチーさを匂わせる。中田ヤスタカの真骨頂だろう。
加山雄三が登場!過去、現在、未来の交差点となった2部
日本の名ポップスを4アーティストがカバー/アレンジを披露する2部。当日のハイライトとなったのは、水曜日のカンパネラの「海 その愛」だ。なんといっても、加山雄三ご本人がサプライズで登場したのは、Redbull主催のイベントという方向性からも意外であり、度肝を抜いてくれた。
1部がアーティスト、ジャンルの交差点だとしたら、2部は時間軸での交差点。現役で活躍するアーティストが過去の名曲を歌う。
Nulbarichは、小泉今日子の「あなたに会えてよかった」。中田ヤスタカは、きゃりーぱみゅぱみゅの「ファッションモンスター」のリミックス。KICK THE CAN KREWは山下達郎の「クリスマス・イヴ」をそれぞれ披露して幕。
音楽ジャンル、過去、現在、様々なクロスポイントが生まれた「SOUND JUNCTION渋谷音楽交差点」では、俯瞰して現状の日本の音楽を見つめることができた。
良い、悪いで判断するのではなく、流行りの言葉を使うのならば、“多様性を認めること=ダイバーシティ”もひとつのテーマであったように思える。
だから、今回のイベントを体感して得た感想は人それぞれなのは当たり前。水曜日のカンパネラ、Nulbarich、KICK THE CAN CREW、中田ヤスタカ、現在、過去……色んな点が繋がり生まれた交差点。最後の点は、このイベントの来場者が感じた“音楽の未来”。あなたはどの点が交差しただろうか?
Text:中西英雄
Photo:
©YUSUKE KASHIWAZAKI
©KEISUKE KATO
©YASUHARU SASAKI
©SUGURU SAITO
©RED BULL MUSIC FESTIVAL 2017
EVENT INFORMATION
RED BULL MUSIC FESTIVAL「SOUND JUNCTION 渋谷音楽交差点」
2017.11.4.FRI
OPEN 16:00
ベルサール渋谷ガーデン
¥5,000
KICK THE CAN CREW, 水曜日のカンパネラ, 中田ヤスタカ, Nulbarich