キャリア30周年を迎えた今年、自身初となるアニメサントラを手がけたKEN ISHII。Netflixが贈るミリタリーSF超大作「ヤキトリ(Yakitori: Soldiers of Misfortune)」の音楽を全編手がけ、彼は「とても学びになった」と惜しげもなく語っていたが、これはKEN ISHIIに何をもたらしたのか。さらにはアニメにとってのテクノとは……コロナ禍を経て、新たなステージを開拓するKEN ISHIIにインタビュー。

◆「ヤキトリ」で初サントラ…“アキラ”にまつわる不思議な運命

――まずは「ヤキトリ」の印象は?

「当初、話をもらった段階では脚本とコンテ、キャラクターデザインを見せてもらって、その時の印象は“ミリタリーもの”という感じ。ただ、今回は安保(英樹)監督が僕を(音楽に)指名してくれて、ミリタリーもので自分の音楽であれば……ってある程度のイメージは最初から浮かんでたかな」

――その後、完成した作品を観た時はどうでした?

「戦闘シーンがあり、人間ドラマもあり、時折ファンタジーな部分もあったり、コントラストのある作品ですごく面白かった。中でも一番印象に残っているのはやっぱり戦いのシーンで、その重厚さ、迫力は突き抜けてると思う」

――ISHIIさんってそもそもアニメ好きでしたっけ?

「小さい頃から他の子供同様、普通に観ていたよ。当時で言えば『カリメロ』、それから『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』とか。あとは『幻魔大戦』にはグッときたかな。後に知ったんだけど、『幻魔大戦』は大友克洋さんも関わってて、その後(大友克洋さんが手がけた)『AKIRA』を観て繋がった感がある。やっぱり『AKIRA』で完全に自分が好きなアニメはこれだなって決まった感じがするね」

――ISHIIさんといえばアニメ監督・映像作家の森本晃司さんが手がけた“EXTRA”のミュージックビデオの印象が強いので、アニメのイメージがありますが、意外にもアニメサントラを手がけるのは今回が初なんですね。

「そう。全編やらせてもらったのは初めて」

――初めての作品の主人公が“アキラ”というところに何か運命を感じません?

「言われてみたらそうだね(笑)」

◆ダンスミュージックのトレンドは関係なし!? 本人も納得の懐かしさも

――サントラの制作は普段の楽曲制作とはやはり違いました?

「全然違った。いつもは自分発信だけど、サントラは監督から出てくるものだからね。心構え的な部分は全然違っていて、いかに監督が求めているものに近づけられるか。加えて、その中で自分の色がどれだけ出せるか。自分の作品を作る時は自分しか考えていないけど、今回は作品ありきなので個性の出し方についてはすごく考えた」

――ISHIIさんはいくつかの名義を使い分けていますが、今回はストレートにKEN ISHII名義。そこには何か意味が?

「自信があるというか、完全に自分の作品と胸を張って言えるものができたし、制作中も本当にエンジョイさせてもらったからね」

――アニメのサントラを作るにあたってイメージの源泉となるのはビジュアルですか? それともストーリーライン?

「両方かな。あとは監督からの説明だったり。今回は、監督がテクノを聴いている、自分の音楽を聴いてくれている人だったので、いわゆる音楽的な説明やリクエストがあったのですごくやりやすかった。ただ、自分のいつも通りのスタイルで作ってはいたけど、曲の構成やスタイルは違っていて。一応テクノではあるけど、もう少し自由というか、枠が取り払われた感じはあったね」

――自分発信ではなく他人からの発注であるものの、逆に自由度があったと。

「作った曲にはビートがある曲もあれば、ない曲もあって、ダンスミュージック、DJミュージックとしての構成が関係ないというか、その必要性がなかったんだ。イントロの長さを気にしたり、ブレイクやドロップの位置だったり、そういう意識が必要なかったという意味では自由だったかな」

――今回はDJを意識していないんですね。

「制作時には全然」

――ダンスミュージックのトレンドは?

「微調整や細かいところ、例えばミキシングは今のミキシングでやってるけど、構成や曲のスタイルは全然意識してない」

――個人的にはちょっと懐かしさを感じました。“EXTRA”まではいかないけど、当時のISHIIさんを彷彿させるような。

「言っていることはすごくわかる。ある意味、今のテクノからしたら音数も違うし、結構ミニマルな感じになっているからね。ただ、僕は元来こういう曲を作ってきたし、今回はよりカラフルというか、いろいろな音が散りばめられていて、そういう意味では昔のテイスト、自分がアルバム用に作っているものに近いかもしれない」

◆テクノ好きの監督からの指示は…!? メインテーマにもある由縁が

――制作時、監督からはどんなリクエストがあったんですか?

「例えば、オープニングやエンディング、あとはキーになるシーンのイメージとリクエストを聞いて、それ以外のシーンは音響監督が入って、より細かいリクエストのもと作っていった感じ。ただ、それぞれある程度の言葉、音の指示があるだけで基本的にはお任せ。あとは、サンプルを作った後にさらにアイデアをくれたり、監督が結構具体的に話してくれたこともあったね、BPMをもう少し落として欲しいとか」

――BPM落とすとか結構具体的ですね。高揚感が欲しいとか、フワッとしたものではないんですね。

「時折具体的な言葉があって、それが面白かったかな。安保監督自身テクノが好きというのがすごくわかる感じの人でやりやすかった部分もある。後半の音響監督とのやりとりはスタンダードなサントラ作りって感じで、このシーンにはこういう音、浮遊感がある曲とか楽しい感じの曲、勝利の曲とかそういうリクエストがあって」

――そうした抽象的な依頼は難しそうですが。

「今までテーマを与えられて作る機会がなかったからちょっと悩んだりもしたけど、チャレンジとしては面白かったよ」

――一番難しかったお題は?

「難しかったのはお題というよりモーツァルトの“Eine kleine Nachtmusik”のカバー。カバーが世の中に数多く存在しているから、いかにそこに並列されないよう上手くやれるか、いかに自分の色を出せるのか、そのさじ加減が難しかったね。ただ、他のカバーとはコントラストがはっきりした感じのバージョンができたと思うし、劇中用に他のクラシック曲のカバーも作っていて、結果的には楽しくできたと思う」

――一方でオープニングに使われているメインテーマ“Yakitori”はどういうイメージで?

「そこは作品を総括して。ただ、実を言うとこの曲は、監督が僕の“Landslide”という曲を気に入っていて、そのイメージを踏襲するような感じっていうアイデアがあったんだ。だから、考えてみればあまり気を張らずに作っていたかな」

◆テクノはアニメに最適!? もしもハウス、トランスだと…

――テクノはそもそもSFやミリタリー、バトル系と相性が良いと思うのですが。

「そうだね。それだけにもっとそういう作品があっていい、あって欲しいよね」

――やっぱり未来感や高揚感、疾走感、あとはミニマル、無機質なところとかが合うんですかね?

「それはあると思う。テクノだと、珍しいが故に意外性や非日常性が感じられて、普通とは違う、良い意味での違和感があると思うし、それがオリジナリティに繋がることもあると思う」

――相乗効果という意味では?

「それも当然あるよね。エレクトロニックな音が合う作品というのは必ずあると思うし、特にアニメは現実にはない世界を描いているだけに、日常にはない音が使われているテクノは合うと思うな」

――あとは、同じダンスミュージックでもハウスやトランスでは出せない、テクノならではの魅力があり、今回はそれがベストマッチだったのかなと。

「それはそうかもしれない。ハウスだったらあの緊迫感は出なかったと思うし。いわゆる普通のメロディ感がなくビートと音色で押していく、それが合っていたのかもしれないね」

――今回の作品に携わって、もっとやってみたいと意欲は湧きました?

「今回は監督、プロデューサー、スタッフに恵まれたと思うんだけど、すごく楽しめたし、音楽的にもチャレンジしつつ自分の学びにもなって、経験値も上がったと思うので、機会があればまたやってみたい。単純にビートとリズムの要素が他の効果音とぶつかると良くないとか、小さな音量で入る曲はベースラインで持っていく曲はあまり効果がない、中域以上の動きで聴かせる部分が重要とか、そういうアニメのサントラ作りにおけるテクニカルな部分はすごく学びになったからね」

――普段、大きな音で機能する、クラブでかける音楽を作るのとは全然違うわけですね。

「全然違う。すごく良い経験になったので、この気持ちがあるうちにまたぜひって感じ(笑)。今年でキャリア30年になるけど、新しい経験をさせてもらったことに感謝しているし、自分にとって学びになった感覚はすごくある」

――それこそ続編とか……。

「あったらいいよね。あとは今回、完成後に大きな画面で観させてもらったんだけど、自分が参加しているのを忘れるぐらい本当に鳥肌が立つほど興奮したし、できるだけ大きな画面で体感して欲しいね」

◆音楽と映像の関係、ライヴでアニメ…!? 新たな可能性

――音楽がアニメや映像にもたらす効果はどんなことがあると思いますか?

「普通に観ていれば映像が最初にくると思うけど、音楽はそこから得た印象・感情をさらに増幅させる役目があると思う。例えば、攻撃しているシーンで勢いのある音楽がかかれば興奮が膨らむと思うし、そこで音楽と映像があっていないと足し算の妙がうまくいかない。ブースターみたいな感じじゃないかな」

――今は音楽ライヴでも映像はつきもの。それこそエリック・プライズなどは両者がリンクしたステージが好評です。

「あれはもはやDJ、既存のライヴとは違う体験になっているけど、いわゆるCGを使った最新の映像、巨大なものが迫ってくる感じはアニメでやっても面白いよね。それは可能なことだと思うし、アニメになるとまた違った魅力があると思う、見てみたいな」

――最後に、ようやくエンターテインメントも戻ってきましたが、今後の展望は?

「コロナ禍で人前でプレイすることがなくなった時、自分に何ができるのか考えたら、もともと僕はプロデューサーだし、音楽をできる限り作ろうと思ったんだよね。もちろんこのプロジェクトがあったからっていうのもあるけど、やっぱり自分は音楽を作ることが好きなんだな、と再確認できた。この3年間で数多くのリリースもしたけど、そういうことに関係なく、とにかく音楽を作り続けたい。次から次へとアーティストが出てくる中で負けないように、刺激されながら作り続けたいと思った。もちろん人前でプレイできるようになって、お客さんの喜んでいる姿を見るのはすごく嬉しいんだけど、それと同じぐらい良い曲ができた時も大きな喜びがあるというか、それを今後もずっと味わいたいと思ってる」

――― 

本作の安保英樹監督にもインタビュー!

――今回、KEN ISHIIさんを音楽に抜擢した理由は?

「学生時代に体験した“EXTRA”の感動を、新たなビジュアルとともに作り上げたいという思いが大きな動機となりました。

KEN ISHIIさんの未来的なサウンドと、森本晃司さんが手がける創造的な映像が見事に融合したその作品は、当時私の世界観を大きく広げてくれ、新たな表現の可能性を示してくれました。

私自身、テクノは未来的、無機質でありながらも、その刻むリズムと音圧のエネルギーが深い感情的な共鳴を引き出すような能力を持っているように感じています。

まるで祭り囃子のような、原始的なパワーを秘めているように。

そして、今回私がSFミリタリーのCGアニメを制作するにあたり、音楽的な要素として最初に思いついたのは、テクノとの融合でした。

そこから一歩進めて考えたとき、私の頭にすぐに浮かんだのはケン・イシイさんでした。

まさか本当にサウンドトラック制作の依頼をすることができるとは夢にも思わなかったため、参加いただいて本当に感謝しています」

――結果としてKEN ISHIIさんに音楽をお願いしていかがでしたか?

「KEN ISHIIさんから最高のサウンドトラックを頂いたと思っています!

特にバトルシーンでの楽曲が生み出す緊張感と高揚感は、映像と見事にマッチしていました。

ある戦闘シーンでは、あえて効果音を排除し、KEN ISHIIさんの楽曲だけをフィーチャーする形をとりました。

そのループとリズム感に映像が合わせられた結果、とても力強いシーンが作り出せました。

ドラマシーンでは、アレンジいただいたモーツァルトのカバー曲を挿入することが多かったのですが、これも良いアクセントとなり、とても感情移入しやすい環境を作って頂けたと思います。

また今回、モーツァルトのカバーであったり、メロディー的ものの依頼、BMPの調整だったり等、結構無茶なオーダーもご快諾頂き、KEN ISHIIさんの懐の深さも感じたところです」

――アニメにおいてテクノというサウンドはどんな効果をもたらすと思いますか?

「テクノの機械的なサウンドは、特に未来的な雰囲気やSFのようなアニメにおいてその世界観や設定を強調し、それがかえって視聴者に作品世界への現実感を与える効果があるのかなと思います。

さらに、テクノのリズムやBPMの変化をキャラクターの感情やストーリーの展開に合わせて使用することで、感情的な高ぶりをより強固なものにするようにも感じます」

Netflixシリーズ「ヤキトリ」2023年5月独占配信

原作:カルロ・ゼン「ヤキトリ」(ハヤカワ文庫JA/早川書房)

監督:安保英樹

脚本:堺三保

キャラクターデザイン:山形厚史

音楽:ケンイシイ

アニメーション制作:アレクト

企画・製作:Netflix

作品ページ:https://www.netflix.com/title/81186862

サウンドトラックもリリース!

2023年5月18日より主要各ストリーミング・ダウンロードサイトにて配信開始

スマートリンク:

https://netflixmusic.ffm.to/yakitorisoldiersofmisfortune