ダンス・ミュージック・シーンのカリスマか、あるいは異端児か。
一筋縄ではいかないディプロとスクリレックスが組んだ危険なユニット:ジャック・ユーがいよいよファーストアルバム「Skrillex and Diplo present Jack Ü」をリリースした。

ともにダンス・ミュージック界のスーパースターにして、インディペンデントの精神性を強く保持する“孤高”と表現するに相応しいアーティスト。
ふたりに“ビジネス的においしい”という思考は一切ない。ただ“こいつと組んだら、おもしろいんじゃないか”という一点があるのみである。

そんな彼らが本作で提示するサウンドとは、いかなるものなのか?

元々、スクリレックスの2011年のEP「Bangarang」収録予定曲に、ディプロが共に制作していたという経緯もあったみたいだが(結果的にEPに収録はされなかった)、交流はその頃から始まっていた。

スクリレックスもディプロも“正道を嫌う”。
そんなサウンド志向の持ち主同士がつながったのは、ある意味ではごく自然のことだったのかもしれないが、傍目から見るとなかなか交わりそうにもないふたつの巨星。

そんなジャック・ユーの結成が発表されたのは、2013年9月。ディプロとMad Decentが主催している人気パーティ『BLOCK PARTY』に、スクリレックスが出演し、その会場で大々的に発表されたわけだ。
とは言え、楽曲が発表されるのは、まだ先。2014年の9月まで待たなくてはいけない。
と言うのも、その間にスクリレックスのファーストアルバム「RECESS」のリリースがあり、その制作にディプロが関わったことで、ジャック・ユーの音源の着手が遅れてしまったのだ。

だが、「RECESS」の制作を通して、ふたりの関係性は深化を遂げたと容易に考えることができるはずだ。そして、いよいよ発表されたデビュー・シングル“Take Ü There”は、想像を越える斬新なプロダクションとなっていた。

ボーカルにフィーチャーされたのは、2014年にUKチャートで1位を獲得した“Hideaway”で脚光を浴び、ありとあらゆる新人賞にノミネートされたシンガー・ソングライター:カイザ嬢。
アーティスティックかつソウルフルな彼女のボーカルのラインは、非常に聴き応えがあるのだが、もはや国籍不明、ジャンルのカテゴライズ不可能のトラックが融合することで、前衛アートのような不可解さと非常にキャッチーという相反する要素の同居を可能にしている。
ラガ〜トラップ系のサウンドに分別できるのだろうか……そんなの意味はない、ただ聴いてくれ! と半ば仕事を放棄したくなる斬新さ。
この“Take Ü There”をもって、ジャック・ユーは、名ばかり先行のユニットではなく、“異端児×異端児”の式の解に見事に答えてくれた。

そのような経緯の後、2015年2月。いよいよジャック・ユーのファーストアルバムがリリースされることとなる。
同日にシングルカットされたのが、“Where Are Ü Now”。
なんと同曲は、あのお騒がせ王子ジャスティン・ビーバーを抜擢! ジャスティン・ビーバーは世界的なポップ・ミュージシャンであり、いわばコマーシャリズムの極地の存在であり、ジャック・ユーの立ち位置とは真逆とも言える。
一方で、そのおバカっぷりも世界一で、ホワイトハウスに国外追放の嘆願書が寄せられ、アルゼンチンから国際指名手配されるなど、その騒動の連続には愛嬌すら漂う。

そんなおバカな部分をディプロとスクリレックスが爆笑したのかどうかはわからないが、とにかく実現してしまったこの共演は、意外(?)にも哀愁たっぷりのバラード曲。物悲しいメロディと失恋を歌うリリックは、雰囲気抜群だ。

このコラボレートは両者にとってもウィンウィンの関係となり、今年のマイアミの『ULTRA MUSIC FESTIVAL』で披露。
ジャスティン・ビーバーが登場した瞬間は、今年の同フェスのハイライトと言えるだろう。

ファーストアルバムの収録曲を続いて紹介していくが、すでにこの2曲でもかなり密度が濃いと感じられたのではないだろうか。
カイザ、ジャスティン・ビーバーとのコラボで、ビートの方向性は同ベクトルにあったが、UKインディー・ポップと珍しい邂逅を果たしているのが、“To Ü”である。

ディスクロージャーやラスティなどUKアンダーグラウンドのヒーローとのコラボレートで名を挙げたアルーナジョージをフィーチャーした同曲は、先述の2曲とは趣が異なり、シンセポップ色の強いサウンドが特徴的。
アルーナジョージのアートフォームとジャック・ユーのアクの強さが理想的に融合した、これ以上はないという傑作だ。

さらにはふたりの得意とするラガ、ソカ、ジャングルビートが荒れ狂う“Jungle Bae feat. Bunji Garlin”、2チェインズをフィーチャーしたトラップ曲“Febreze”。ディプロが見出したカナダ人女性シンガー:カイが参加した“Mind”は、スロウテンポなバラードで、本作を通して、一種の清涼剤のような役目を果たすなど、多彩な計10曲が収録されている。

さらにもうひとつのサプライズは、ボーナストラックとして“Take Ü There”のミッシー・エリオットによるリミックスが収録されていることだろう。

ミッシー独特の奇声や歯切れの良いドスの効いたラップは存在感抜群で、完全に曲を食ってしまっている感があるが、カイザのボーカルとの相性は良し。

革新性と悪ふざけ。つまりふたりが妥協なしにやりたいことをやった本作は、商業的にも大成功を収めている。
BillboardのDance/Electronicチャートでは1位。さらに主要チャートでも26位。ジャスティン・ビーバーが参加した“Where Are Ü Now”はUKチャートで1位を獲得。プロダクションは決して、聴き慣れたものでもないし、むしろ実験的なサウンドばかりだ。
それでもこの結果。ディプロとスクリレックスのこれまでのキャリアが、面白い音楽を聴かせてくれるという確信に代わり、世界中のリスナーに植え付けられているのだ。

事実、本作から3カ月のスパンでリリースされたメジャー・レイザーのニューアルバム「Peace Is the Mission」からのリードシングル“Lean On”はインド音楽をモチーフにしたエキゾチックなビートメイクと魔術めいたメロディで現在Billboardチャートを駆け上がっている。

リスナーの欲求に応える形でEDMやポップミュージックが存在するのだとしたら、リスナーの想像がつかないスタイルを提示して、支持を獲得しているのがジャック・ユーだろう。
どちらも否定しているわけではない。両者ともにエンターテインメントとして成り立っている限り、手法の違いなのだ。

実験的であるがゆえに、方向性を変え過ぎたがゆえに批判を受けてきたアーティストも多々いるが、そんな批判を覆す強度と革新性が本作に詰まっているし、そもそも批判など起きないだろう。
それほどシーンの潮流とは隔絶した作品である。

最後にオチとしてアメリカでのリリース当日のエピソードを紹介しておこう。
リリース日にジャック・ユーのふたりは“24時間DJマラソン”と題して、24時間ぶっ通しでパーティを開催する予定だった。
しかし、18時間ほどでパーティは中止。警察に中止させられたそうだ。
こんなところもディプロとスクリレックスっぽくて非常に面白い。面白いことをやりたいだけ。そんなふたりの思いが結晶化した純粋な音楽作品をぜひ堪能してもらいたい。

JK_jack-u-album

Skrillex and Diplo
『Skrillex and Diplo present Jack Ü』
WARNER MUSIC

こちらの記事もチェック!
スクリvsディプロ!異端児同士がタッグを組んだ『Jack Ü』