クリエイティブな世界において“変態”はときに“天才”を凌駕する褒め言葉になる。
そして、映像作家として“変態”という枕詞を頻繁に使われ続けている男が、このクリス・カニンガムだ。

アンダーグラウンド・シーンの音楽作品のPVから一流企業のCM、ハリウッド映画まで手掛けてきた彼には、“天才”より絶対的に“変態”が似合う。繰り返しになるがこれは最高の賛辞なのだ。
彼の作品群の特徴は、子どもが観たらトラウマになりそうな顔が醜悪に崩れた人間や奇形などグロテスクなシーンの数々、生々しく色気すら感じるロボット、増殖する同じ顔などが挙げられる。狂気が宿っていて、悪趣味。耐性のない人なら吐き気をもよおすかもしれない。
しかし、この一度観ると、悪夢に出てきそうな強烈なインパクトは、“怖いもの見たさ”では片づけられない魅力がある。

例えば、ビョークの“All Is Full Of Love”では、女性型のアンドロイドの同性愛が映し出される。機械の精緻な描写は、人間の性行為を連想させる官能美があり、その世界観を100%理解できずとも、前衛的な発想に驚愕し、画面に見入らざるを得なくなる。
それはエイフェックス・ツインの諸作品に関しても言え、気持ち悪さの中に諧謔や一瞬一瞬の映像美が存在し、サウンドと連動した圧倒的な視覚的衝撃を与える。

人間は、日常生活では倫理観や道徳などで物事の価値観を判断し、本能的な欲求を抑制して生きている。クリス・カニンガムの作品には、潜在的にある人間のちょっと野蛮で残酷な本能とエロティックを剥き出しにしたような純粋な美しさがあり、人々は理解しがたいと思いながらも魅了されるのは、やはりどこかで共感しているのだ。
そして、作品を観た後の名状しがたい感情から、人々は彼のことを“変態”と讃える。