グラミー賞ノミネート経験を持つオデッザと、ダンス進国オーストラリアはシドニーの雄ゴールデン・フィーチャーズによるユニット:ブロンソン。

(ある世代にとってはかもしれないが)なんとも雄々しい名前とは裏腹に、そこはかとなく耽美で深淵なるその音楽性は新たなダンスミュージックの地平を覗かせる。

それだけにますます気になるのは漢気溢れるそのユニット名だが、それについては……

“作業していた時に見ていた映画の登場人物の名前、つまり特別な意味はないってことさ(笑)”

とのことで、「名は体を表す」を見事に全否定してくれたわけだが、そんな彼らの処女作「Bronson」がリリースされた。

ベースとなるのは“ハウス”であるが純然たる“ハウス”でなく、オデッザでありながらオデッザではなく、ゴールデン・フィーチャーズでありながらゴールデン・フィーチャーズではない……互いの魅力が溶け合い、そこから新たな魅力がとろけ出した本作。その全貌、そしてブロンソンとは何なのか、今回はオデッザのクレイトン・ナイトに聞いてみた。

兎にも角にもブロンソン、この名前は覚えおくべき。

――まずはブロンソン結成の経緯を教えてもらえますか? 

「ゴールデン・フィーチャーズとは、2014年にオーストラリアのパースで初めて会ったんだ。名前は忘れてしまったけど、パースの音楽フェスで、そんなに規模は大きくなかったな。そこで友達になったんだけど、次にオーストラリアに行ったのが2、3年後で、それまでたまに音楽を共有することはあったけど特に音楽的な話はしていなかった。アイディアを交換し合うようになったのはそこからだね」

――どんな目的でブロンソンを結成したんですか?

「ある日突然始まったわけじゃなく、シェアしあっていたアイディアがたまり、そのサウンドから自然に導かれた感じだね。オデッザともゴールデン・フィーチャーズとも呼べないサウンドが出来上がっていたから、新しい名前をつける必要性が出てきたんだ」

――オデッザの2人は出会ったその日に結成したと聞いています。それはまさに運命だと思いますが、ゴールデン・フィーチャーズにもそれに近いものを感じたのでしょうか?

「ごめん、出会ったその日に結成したというのは真実じゃない(笑)。俺らは大学で出会い、当時は互いに自分のプロジェクトをもっていたから、しばらくはそのプロジェクトの音源を交換したりしていたんだ。で、卒業が近づき一緒に音楽を作るようになった。ただ、出会った時のゴールデン・フィーチャーズのヴァイブは俺とハリソンが会った時のものとすごく似ていた。だから、近いものを感じたというのは正しいと思うよ」

――結成前には彼にどんな印象を持っていましたか? 

「俺たちとは全然違う音楽をやってるアーティストだね。でも、お互いの音楽のファンだったんだ。彼はすごくオープンマインドで色々な音楽を受け入れて聴こうとする。それが俺たちとの共通点だし、友情が芽生えたきっかけであり、それは今回のプロジェクトの目的の1つでもある。そして、彼と近くなるにつれ、互いの音楽、音楽的嗜好、音楽背景が実は似ていることがわかってきた。ただ、彼はクラブ寄りで、俺たちがライヴ・パフォーマンス寄りだから、オデッザのライヴ的アプローチに彼がよりクラブっぽい要素をもたらしてくれている」

――アルバムの制作にあたって意識していたことは? 

「俺たちは互いにないものを補完しあって新しいものを作ることができている、それはすごくいいことだと思うし、ブロンソンで出来上がるものはマジックなんだ。様々なアイディアや意見がある中で、ブロンソンは基本的に良い音楽ができればそれでいい。それは簡単なことではないし、試行錯誤を重ね、フラストレーションになる時もあるけど、それを乗り越えるとより良い音楽が生まれるんだ。音楽的にはハウスのエナジーを持ったサウンドを意識し、ハウスをベースにしたアルバムになっているけど、ハウスっぽくないトラックもある。強いて言うなら……全体的にオデッザより、ゴールデン・フィーチャーズよりもダークで大人っぽいサウンドを意識していたかな。そして、その新しい領域を知ることは俺たちにとってすごくいい経験になった」

――今回得たものは?

「オデッザに他のプロデューサーが加わるのは久々だったから、新しいコミュニケーション方法を模索し、新しいアプローチの仕方も学んだ。大きかったのはミニマルなアプローチかな」

――プロジェクトが始動し、アルバム制作を本格的に始めたのはいつ頃ですか?

「多分1年半~2年前くらい。ブロンソンのためにアイディアを話すようになったのはそれくらい前だったと思う」

――その1年半~2年間に音楽シーンも大きく変化したと思いますが、シーンの流れや流行などは意識していなかったんですか?

「アルバムの大部分の作業は去年だったんだ。ただ、当然シーンの変化はずっと追っていたし、俺たちが作り始めていたハウスっぽいサウンド、ダークな感じがその間によりポピュラーになってきたと思う。そして、シーンを席巻し、多くのアーティストがダークなハウス的なアプローチをしていたから、そこからはインスピレーションを受けた。アンダーグラウンドの音楽、特にヨーロッパ系、UKのサウンドの影響はあったし、それがアルバムの基盤になっているかな」

――今作はとにかく耽美でアンビバレントな魅力に溢れていました。そんなブロンソンの音楽が生まれるモチベーションは? 思うがまま、欲望のままに作っていたのでしょうか?

「ブロンソンの大きなテーマは“障害を乗り越えること”。人間みんな何かしらの困難や葛藤を経験するだろ? それを乗り越えるのは簡単じゃない。時に戦わなければいけないこともあれば、暗いトンネルを歩き続けなければいけない時もある。でも、そこを耐えて進み続けることが大切なんだ。それが俺たちが捉えたかったことであり、モチベーションだった。そのアイディアが何度も自分たちの頭をよぎっていたんだ」

――アルバムにはインストとボーカルトラックが混在していますが、全体を通してすごくシームレスな印象を受けました。インストであることとボーカルトラックであることの違い、魅力とは?

「インストとボーカル曲を作る時はアプローチが違う。そして、両方を入れることでアルバムのバランスがとれるんだ。インストの場合はボーカリストの心配をする必要がないから、より自由に曲が作れるし、コンセプトもオープン。一方でボーカル曲は歌い手のトーン、スタイル、彼らがもたらしてくれるものを頭に入れて作業する必要がある。ボーカルの周りに音をつけていく感じだね。それはそれで面白い。インストは自由を楽しめるし、ボーカルトラックは挑戦を楽しめるんだ」

――今回、“HEART ATTACK”や“VAULTS”、“CALL OUT”と印象的な楽曲が数多くある中、作り手側が選ぶ今作の象徴となる曲は?

「“DAWN”はアルバムの全体像を総括していて、良いブックエンドとなるトラックだと思う。あと、“KEEP MOVING”と“HEART ATTACK”はプロジェクトが持つエナジーがよく表現されたトラックだと思う。その3つが主にアルバムとプロジェクトを象徴するトラックだと俺は思う」

――自分たちの音楽にキーワードをつけるとすると、どんな言葉が想い浮かびますか?

「“Strength”(=力、強さ)かな。このアルバムで表現されているのは力強いエナジーだから。それはアルバムのメインのコンセプトの1つだし。フォーカスしていたのは、頭に残るメロディよりもそのサウンドが作り出す雰囲気やエナジーだった。リスナーの感情を湧かせるような雰囲気を作り出したかったんだ」

――いろいろ勘ぐってしまったのですが……アルバムのジャケットにある男は何者なんでしょう?

「さっき話した葛藤や困難を乗り越えようとしているファイターだよ。このプロジェクトのテーマを表現しているのがあのアートワークなんだ。名前があったんだけど思い出せない、ごめん(笑)」

――今のダンスミュージックシーンにはどんな印象をお持ちですか?

「変化を続けていると思う。ダンスミュージックにヒップホップが入ってきたことで良い流れが生まれたんじゃないかな。それによりダンスミュージックはかくあるべきという変なルールが存在せず、より幅広いサウンドが生み出される可能性を保つことができたと思う。これからはもっとサブジャンルが生まれ、様々なサウンドが生み出され、幅広いクールなシーンになっていくと思うね」

――今作を聴き、ライヴが非常に楽しみになりました。現在はライヴを行うのが難しい状況にありますが、今後についてはどう考えていますか?

「来年にはショーを始められたら、オーディエンスに危険が及ばないやり方でパフォーマンスができればと思ってる。その中で新しく考えているのはアナログのハードウェアをステージで使うこと。あとは、これまでのショーよりもダークで力強いショーになると思うし、よりクラブっぽくなるだろうね。今はとにかく来年ショーができることを祈るばかり。日本は大好きな場所だから、絶対に行きたいね。楽しみにしているよ!」

BRONSON「BRONSON」
Ninja Tune / BEATINK
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通訳:原口美穂