最先端のテクノロジーと音楽を融合し、新たな表現を推し進めてきたビョーク。
彼女の最新アルバム『Vulnicura』をVR作品化した展示『Björk Digital ― 音楽のVR・18日間の実験』が6月29日から日本科学未来館でスタート。
28日には、プレイベントとして『Vulnicura』収録曲“Quicksand”のミュージックビデオの公開収録とトークショー『Making of Björk Digital』が行われ、翌29日には、交響曲から民族音楽までを横断するフリーフォームなDJプレイを披露した。
28日の公開収録では、4K解像度の地球ディスプレイ「ジオ・コスモス」を背景に、さらに360度撮影できる特殊なカメラに囲まれたビョークが“Quicksand”をパフォーマンス。
60時間かけて3Dプリンタで制作されたというマスクに白の衣装という出で立ちで繰り出されるパフォーマンスで観客を圧倒しながら公開収録は終了。
収録の模様は360VR映像として生配信されていたのだが、収録後その映像がアーカイブとして1時間ほどネットで公開(現在は公開終了)。
そこには、彼女の実際のパフォーマンスにリアルタイムで行われたCGによる映像が合成され、現実と仮想現実が融合した映像に仕上がっていた。
その後は同会場で、日本初となるビョークのトークショーも実施。
『Vulnicura』収録曲のミュージックビデオを次々とVR映像として発表しているビョークは、今回取り入れたテクノロジーと音楽の未来について語った。
なかでも印象的だったのが、人間らしさやソウル、感情を伝えるためにテクノロジーを使うという逆説的なスタンスだ。
「電話が発明された100年前、直接的なコミュニケーションが少なくなり人間らしさがなくなるという懸念が生まれたが、現在の人間は電話を感情表現のために使いこなしている」
と彼女は述べる。
新しいテクノロジーであるVRも今後、感情表現のツールとしての使い方が確立されていくのではないか? とVR技術への展望を語っていた。
また、彼女はCINRAのインタビューで『Vulnicura』のテーマを
「私の中で起こったことを時系列に沿って歌にしたアルバムで、1曲1曲が独立しているのではなくて、つながっている物語性がある。
歌っているのは、個人的なとても大きな失恋の痛手についての歌。
でも、それってギリシア悲劇の時代から人類のアートにとって最も頻繁に繰り返されているテーマじゃない?
それをVRという、人類にとって最先端の技術と融合することになる。
それは、未来的なテーマを未来的な手法でみんなに体験してもらうより、おもしろいことだと思った」(引用元:CINRA)
と語っている。
さらに、GIZMODO誌のインタビューでは
「(『Vulnicura』は)時系列に自分の中の感情を並べていく、オペラのような作品だと思った。
ナラティブで、不変的なところもね」(引用元:GIZMODO)
と話しており、古典的な戯曲や歌劇で描かれる普遍的な感情が引き合いに出されている。
テクノロジーを取り込み表現を拡張してきた彼女が、VRを手に表現する人間らしさ、感情とは?
それは実際に彼女の展示『Björk Digital』を見てみないとわからない。
Photo By:Santiago Felipe