80年代後半より25年以上の長きにわたり世界のハウス・シーンを牽引してきたSATOSHI TOMIIE。
もし彼がいなければ、本邦のダンスミュージックは確実に立ち遅れ、世界との距離もただただ離れるばかりだったはずだ。
それほどの存在感を持つ彼が、約15年ぶりとなるセカンド・アルバム「NEW DAY」をリリース。
前作とは対極とも言える今作が放つその輝きたるや……。
新たなサウンドを武器に、再び世界を魅了するSATOSHI TOMIIEにFLOOR編集部はインタビューを敢行。その模様を前後編にわけて紹介。
――アルバムとしては2000年に発表した「FULL LICK」以来。その間15年、振り返ってみていかがですか?
忙しかったですね。シングルやリミックスの制作とツアーで息つく暇もないくらいに。
(アルバムも)ずっと作りたいと思っていたんですけどね……次は15年後にならないよう頑張りたいと思います(笑)。
――今作「NEW DAY」は、この15年の集大成……というわけでもないですよね。
作りためていた楽曲はたくさんあって、今回はその中から選びつつ、さらには作りながらも選びつつ、徐々に全体像が見えてきたって感じでした。
ただ、当初からインストゥルメンタル中心にしようと思ってて。歌ものも好きなんですけど、歌詞があるとどうしてもメッセージ性が付いてきてしまう。インストだとリスナーがいろいろ解釈できるんですよね。
今回はあくまでインストで、アブストラクトな方向に持っていきたくて。アートワークを含め、聴く人の捉えようによって全体のストーリーが変わる、そんなアルバムにしたかったんです。
言うなれば、それがコンセプトですね。
――前作はほぼほぼ歌ものでしたよね。
僕のDJセットもだいたい2〜3週間で変わる。それを考えたら、15年もたてば必然的に変わりますよね。
ただ、コアな部分は変わってないと思います、表現の仕方が違うだけで。音的にはキャリアの最初のころの影響が結構大きくて、それを今っぽい方向に持っていったところもありますね。
――今作は、完全にフロア向きというわけではないように感じましたが。
本当に現場対応なものは、リミックスで表現しようと思ってて。
なので、今回は現場で簡単にかけられるかと言えば、ちょっとセットアップが必要な気がします。どのタイミングでかけても盛り上がるタイプの曲でもないし。
――となると、現場感やそこからのフィードバックは意識していなかった?
それはふんだんに入ってます、構成や展開とかの部分でね。
ただ、アルバムの方向性から、結果的に自ずとリスニングっぽい方向になったというか。エレメントが少なければ少ないほどいいなと思ってました。
――シンプル・イズ・ベスト?
レス・イズ・モアというかね。でも、少ない音数で表現するとなると、それは音を詰め込むより難しいと思うんです。
――それは、ダンスミュージック特有のものですよね。
2小節のかっこいいグルーヴができたとして、ダンスミュージックはそれをいかに引き延ばせるか、それが永遠のテーマなんですよ。
思うに、かっこいい2小節は誰でも作れると思うんです。それを引き延ばしていくのが難しくて。
その良さを保ちながら成立できないから要素をどんどん足していく。そうすると当初とは違った表現になってしまうんですよね。
――確かに、ミニマルでもただ2小節のフレーズを繰り返していくだけではつまらない。それをいかに展開させるか、その良さをいかに聴かせるかが重要ですよね。
そう。特に今はたくさん音が入っているより、少ない音数でかっこよくする傾向にあると思うんです。
その流れは90年代もありましたけど、現在は特に顕著になっている気がします。
そこにはいろいろ理由があると思うんですけど、レコードのセールスが直結している部分もありますよね。
昔は1曲にかけられる予算も多かったのでいいスタジオを使って、いいミュージシャンを入れて。そうなるとより豪華にしようと音を増やしがちになる。でも、今は少ない予算でいかに作るかというところで、音数が少ない方向にシフトした。
でも、それも言うなれば進化による一種のバックラッシュなんですよね。本来なら機材も進化してゴージャスになれるべきところ、その逆の方向に向かったっていう。
――でも、その分音選び1つとっても繊細な作業になりますよね。
そうですね。ただ、ソフトウェアで1万種類の音を使うより、ハードウェア、シンセ2台で曲を作る方が制限があって、それがクリエイティビティに繋がったりもしますよね。
――自由すぎても逆に辛い。
1万種類の音やループがあっても使い切れないですから(笑)。
――ちなみに、TOMIIEさんはトレンドとか意識します?
多分好きな曲、その時DJでプレイしている曲は、気にしてる、してないに関わらず影響を受けていると思いますね。
ただ、同じものを作ろうとしても絶対にできないからこの雰囲気いいねとか、その程度には。
――最近いいなって思うサウンドは?
わりとルーピーなものが好きですね。あとは古いレコードを掘っている友人がいるんですけど、それが興味深い。
昔のレコードであまり知られていないもの、かっこいい再発とか今は流行ってますしね。
――ディープハウス・シーンなんかは特にそんな感じがしますね。
再発しているものが多いし、掘ってきたものをライセンスしてリリースされていたり。その中には結構面白い作品が多く、今の曲と混ぜても遜色ないものもたくさんありますからね。
そういったものは掘れば掘るほどあると思うし、今でもインスパイアされることがたくさんあって飽きませんね。
僕自身、ハウスを20年以上やってるけど、全然やり尽くされていないなって思います。
インタビューの続きは後編(8月上旬公開予定)で!

SATOSHI TOMIIE
『NEW DAY』
Abstract Architecture
※ツアーは2015年5月末に終了