日本人として最初に世界で成功を収めたハウスDJ・プロデューサー:SATOSHI TOMIIE。
ハウスのゴッドファザー:フランキー・ナックルズに見初められ、Def Mix Productionsの一員として90年代のハウス・シーンを牽引し、今なお第一線で活躍する彼が、約15年ぶりとなるセカンド・アルバム「NEW DAY」をリリースした。

インタビュー前編に続き、今回はそんな本作について聞くとともに、日本のハウス・シーンの未来について語ってもらった。

――「NEW DAY」は質感的にデトロイトっぽいなと思ったのですが。

なるほど……僕個人としてはそういった気持ちで作っていたわけじゃないんですが、今でも(デトロイトは)聴いているし、自然とそうなったのかもしれませんね。

実際、僕がダンスミュージックを聴き始めたころ、80年代はシカゴハウスとデトロイト、その二本立てで聴いていて、普通にかけてましたし。
今でもたまにかけますけど、当時のその感覚は永遠に続いているような気がします。
特に、今回はルーピーな感じだから、そういう部分もあるかもしれない。

――今回はインストにこだわったと言ってましたが、1曲だけ歌ものがありますよね。表題曲にもなっている“NEW DAY”。

全部インストでも良かったんですけど、歌ものが1曲あると色合いも変わるし、その前後でイメージに区切りを付けることができる。
つまり、この曲はここからまた新たな展開になるっていう1つの目印でもあります。

とはいえ、いいものができたら入れようぐらいの感じだったんですけどね。
僕の場合、あらかじめコンセプトをガチガチに決めてそれにそって曲を作っていくと、不自然な形になるパターンが多いので。

――この曲は、アルバムの中でも最もハウシーでしたね。

これはシンガー:ジョン・シュマーサルとの共作で、他人の影響が入っているので、他の曲とはちょっと違うんですよ。
唯一自分以外のエッセンスが入ってる。それは決して悪いことではなく、彼の影響が他の曲にもにじんできた部分もありました。
たとえば似たような手法を使ったり、エフェクトを使ったり。

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――冒頭の曲のサブタイトル“In This Dream I Watched A Film Of A Dream Within This Dream”。ここにはどんな意味が?

それは、実際に見た夢なんですよ。
夢の中で映画を見ているんだけど、それが映画だということに気付かず自分が映画の中にいて。
見終わったときに、これ夢だったんだって気付くみたいな。
その夢を見たときはスゴいと思ってこのタイトルを付けたんですけど、後々考えてみるとよくあるというか……今ではその夢の記憶もかなり薄れてるんけど(笑)。

とにかくそのときの強烈な印象がオープニングトラックになってます。
曲中、早くなったり遅くなったりするのも夢の中の動きなんです。

――正直、今作を通して聴くと、さらにTOMIIEさんのことがわからなくなりました。

それがテーマでもある“アブストラクト(抽象的)”ということで(笑)。
多分、ここ数年でフランキー(ナックルズ)が亡くなったり、いろいろあった中で、以前はチームでやっていたものが1人になって、自分がやっていた様々なスタイルが1つの形になったんですよね。
それも、今の自分の気分のフィルターを通して。
たとえば“Thursday, 2am”は、“Tears”を作る前の話で。

――それはどういうことですか?

木村コウくんが86、87年ごろ西麻布で水曜日にレジデンシーをやってて、当時シカゴハウスとかガンガンかけてたんですよ。
そのときの印象が“Tears”に繋がってるんですけど、いま2周ぐらいして当時の印象を現在のフィルターで切ってみたら面白いかなと思って。

――ということは、この曲は“Tears”の生まれ変わりでもある?

そう言われてみれば……でも、ちょっと違いますね。
“Tears”はリアルタイムでしたけど、これはそのときの衝撃を改めて振り返り、今の見方で捉えているものなので。
あくまで当時のインパクトをいま表現したって感じです。
そういった1曲1曲の物語がありつつも、全体でまた違ったストーリーが構成される、今回はちょっと映画っぽい作品になっているかもしれませんね。

――それを解釈すべく、タイトルから読み取ろうと思っても、英語、イタリア語、フランス語、スペイン語などバラバラで。

『NEW DAY』というタイトルも、どういう意味ですかってよく聞かれるんですけど、単純な言葉ではなくもっとアブストラクトな意味があるんですよ。

――意味があるけどないみたいな?

この曲は歌詞自体、何を言ってるかわからないみたいなところがある。
ちょっとラブソングっぽいけど、はっきりとしたイメージやストーリーがあるわけでもないんです。
ただ、そんなアブストラクトなコンセプトのわりに、音楽そのものはぐちゃぐちゃじゃないというか。
それはアルバム全体がそうで、一応調和されている(笑)。
音楽自体はアブストラクトなものではないんですよ。

――前作から15年、世界中をまわるなかで変化を感じたことは?

単純にジェネレーションが変わってますよね。
いま20歳の人も15年前は5歳。となると、聴いてきた音楽も全然違う。
お客さんが求めている、その本質的なものはそんなに変わってない印象ですけど、聴いてきたものや見てきたものが違うから、そのあたりに違いがあるかなって気がしますね。

たとえば、僕ぐらいの年齢のDJが当たり前に知っているものも彼らは知らないから、それが新しかったりするわけで。
そういった発見は僕にとっては面白いんですけどね。

――アナログ1つとってもそうですね。

でも、今は逆にアナログでしかDJしない若い人もいるんですよね。
これも制限があるからこそ面白いという感覚。
さらにはアナログというエクスクルーシブなものが魅力になってるのかなって思います。
誰でも手に入れられてしまうものは面白くないっていう。

――世界的にアナログは再燃していますしね。

僕自身、ここ何年かでアナログに回帰しているんです。
というのも、アナログでしか出てない音源が結構あって。
アナログをかけたいっていうよりは良い曲ありき。基本的に、デジタルとアナログではかけ方も買い方も全然変わるので、それは面白いですよね。

アナログには実際にレコード屋に行ってお店の人に聞いたり、適当に選んで試聴したりするフィジカルならではの楽しみ方がある。
デジタルはこの曲が欲しいというときには便利ですけど、とりあえずいろいろ聴いてみたいときには数が多すぎて。

あとは、デジタルだとリリースする側は資本、投資がゼロでできるという利点がありますが、それはデメリットでもあると思うんです。
アナログにすることによりかかるフィルター、作るとなるとある程度の枚数を売らなくてはいけないから、相応のクオリティをクリアする必要がある。
だから、概ねアナログは音楽そのもののクオリティが平均的に高い気がします。

サトシトミイエ

――日本のハウスシーンについてはどう思ってます?

いろいろと考えがあると思いますが……海外では今、日本のハウスがちょっとしたブームになっているんですよ。
海外のどこにでもあるサウンドよりは、ちょっと違うものが求められていて。

――日本のハウスは海外での評価が高い?

悪くないと思います。日本のハウスを特集している国もありましたし。
たとえば、寺田創一さんの曲がRUSH HOURから再発で出ていて、それが海外で記事になってました。
彼の作品は直球ダンスミュージックというよりシンセポップの文脈でとらえることができる的な内容で、そういった世界とは違うスタイルが重要なんですよね。

――日本人クリエイターも自らのスタイルを見つけて頑張るべきだと。

海外アーティストの影響を受けることもいいと思いますけど、自分のスタイルは持つべきだと思います。
さらには、1人では弱いのでまとまった形で日本人の作品が打ち出せるとまた違ってくると思いますね。

やっぱり日本をベースに活動している人ってどこか独特なんですよ。それは僕が聴いても感じる。
ただ、僕も海外生活が長いけど日本育ちだし、共通する部分はあると思います。
それが何かって言われるとはっきりとはわからないんですけどね(笑)。

――TOMIIEさんの場合は、早い段階で海外へと出られましたけど、今の若者もそうするべきなんでしょうか?

どちらでもいいと思いますよ。
海外に出て成功した人もいれば、自分が生まれた国でやり続けて成功した人もいるわけで。

ただ、そのサーキットというか、ソサイエティに入るということを考えると、海外に出た方が早いかもしれないですね。
とはいえ、僕も最初はホント大変でしたけど。

――でも、当時はNYに行きたいと思ったわけですよね。

行きたいというか、僕の場合はある意味流れでした。音楽がやりたいっていう一心で。
大成功したいっていうわけじゃなく、やりたいことをやるには当時日本では不可能で、他に手段がなかったんですよ。

僕は、幸運なことにたまたま伝手があったから行っちゃえみたいな感じで。
ただ、海外に行って実際にコミュニティに加わることで、そこで曲を聴いてもらったりできる、その違いは大きいかもしれないですね。
日本ベースで本当にいい曲を作り続ければ、それも不可能ではないと思いますけど。

とにかくスタイルを持つこと。そして、そのためには1曲だけでなくある程度の数が必要です。
1曲だけではスタイルも確立しないので。
絵画でも写真でも、全てそうだと思いますが、何事もスタイル、強みがあれば武器になる。
それはアルバムを作るにもあたってもね。


Satoshi Tomiie NEW DAY Jacket
SATOSHI TOMIIE
『NEW DAY』
Abstract Architecture