“is grooming”も風呂に入る時間をそのまま録って、そこにツメを切る音や髪を梳かす音を乗せた。
つまり、サウンドのクラスターを作ったわけ。音の群像ということだね。
ただ、その中でひとつひとつの音が明瞭に聴こえてほしかった。聴いている人に何の音がわかるようにね。
だから、今回は明瞭ではない音は使わなかったんだ。それが音の判断基準のひとつだね。
——扱いに苦労した音はありました?
小さな音は扱いづらかったね。
ただ、その中にも大きく使いたい音があり、それは“肌”の音。
“肌”というか“接触”の音だね。
手の平で腕をこする感じとか、これがなかなか録音するのが難しくてさ。皮肉にも今回最も録音に苦労したのが“優しさ”ということだったんだ。
人間同士の接触の重要性は誰もが知るところだし、それが僕が最も訴えたかったことでもあったのにね。それを捉えて表現するのに苦戦したよ。
——よく大事なものは目に見えないと言いますが、耳にも聴こえないわけですね。
そうなんだ。面白いことにね。
そうやって手の届かない部分が人間の身体にはまだまだある……それはなかなか詩的なことだと思うね。
——必要に応じて実際よりも音量を上げたこともあったんですね。
それはやらざるを得なかった。
——ただ、使ったものはモデルが録音した音素材のみ。
そう。録音は最初ホテルの部屋で始めたんだ。まっさらなキャンバスを用意するようにね。
ただ、例えば誰かが小便をしている音、それは実は水と水がぶつかる音であって肉体の発する音じゃないんだよね。
——確かに。
だから、僕としては肉体が発する音と環境音との区別にこだわり、環境音は使わないよう細心の注意を払ったよ。
風呂に入っているときの音も水の音に頼って音楽を作らないようにね。
そこに面白みがあるんじゃなく、“洗う”という行為にあるからさ。
大便にしても……実は彼女は当時下痢をしていたんだけど、驚いたことにその状態で、ありのままを録音してきた。本当に勇気のある女性だよね。
でも、おかげで物体が彼女の肉体を離れる瞬間の音を捉えることができた。