#1ではルーツを。#2ではアーティストとして成長の過程を追いかけてきたFetusインタビュー。

ラスト#3は「Mixmag’s Best Producer of 2024」獲得以降、新たなタームへと歩みを始めた“今”について。アルバム「b1 b2」で世界的な評価を獲得するもどこか満足しきれなかったFetusに訪れた運命の出会い……Amor Satyr、Toma Kami、Kush Jonesらとの邂逅が彼を新たな高みへと導いていく。

僕がアルバム後にいろんな視点が欲しかった理由は……」

キーワードは“パーティ”、そして“遊び”。「b1 b2」以降のFetusの明らかな変化とは?

「日本人の曲はフォーマットに従ってはいるけど……」

そして、彼や盟友Oyubiの楽曲がヨーロッパで人気を博す理由にも言及。

「音楽をやっていてできることのひとつが……」

さらには彼が大きなステージよりも重要視している、何よりも大切なかけがえのないこととは?

今後さらなる活躍が期待されるFetusというアーティストを構築するラストピースをTREKKIE TRAXのSeimeiとともに探る。令和を駆け抜ける新世代の息吹、その鮮烈かつフレッシュ、そしてラディカルな感性をぜひ!

>>>Fetusインタビュー#1 英Mixmag年間ベストプロデューサーに選ばれた儁秀の素顔に迫る

https://floormag.net/fetus001/

>>>Fetusインタビュー#2 世界的な評価を受けつつも…苦悩・倒懸からの解放、そしてさらなるステージへ

https://floormag.net/fetus002/

◆Fetusを変えた脅威のパーティバイブス

――最近リリースしている楽曲は以前に比べて明るいものが多いですよね?

Seimei:そうなんですよ、明るいんですよね。なんで?

Fetus:それは理由があって……今Amor Satyrっていうフランスのアーティストがスピードデンボー(Speed Dembow)、デンボーの早いのをやってて……。

Seimei:デンボーは、ダンスホールを早くしたようなジャンルですね。それこそ90年代のハードコアテクノみたいなやつとか含め最近はベースミュージックでそういうノリがちょっと流行ってて。

Fetus:彼と一緒に曲を作っているんですけど、(彼は)性格がめっちゃラテンなんですよ。バイブスとかマジでレイヴ好きで、バイレファンキとかも好きで。めっちゃ売れてるんですけど、会ったらヴァイブス高くて「パーティしようや!」、「明日も遊ぼうや!」みたいな感じで。

そんな人と一緒に曲を作ってて、僕の中でBPM160のヴァイブスってグルーヴで回す感覚だったんですけど、デンボーがバウンス系みたいな感じなので今はバウンスっぽい曲を作るようになって。それで明るくなってきたのかもしれないです。今は自分でもちょっと明るいの作ろうかなみたいな感じです。

――それはやってて楽しいですか?

Fetus:めっちゃ楽しいっすね。開放感みたいなのもあって。結局そっちの方がパーティっていうか“遊び”やなって思います。前は音楽性を気にしてばかりで遊びを全く考えてなかったというか、現場で楽しむという意味ではデンボーってめっちゃ楽しいです。

前は「自分、暗いっしょ」みたいな感じだったんですけど、今は楽しみ方、踊ってもらえるかを気にして作るというか、その辺はそこまで考えてなかったんですよ。自分の曲を聴いて立ち上がってくれればいいぐらいの感覚で。でも今は「こう踊ってほしい」みたいな。

Seimei:なんでそう思ったの?

Fetus:アルバムを出した後に明るい人に出会うことが多かったからですかね。Amor Satyrもそうだし、Oyubiくんとフランス人のToma Kamiをパーティーで呼んだんですけど彼もめっちゃ遊びが好きで、でも曲を作る時は本気なんですよ。その後に会ったKush Jonesもそうで、僕はそういうことをやってこなかったなと思って。

彼らを見てて思ったのが、クールな曲って現場で置いていかれるタイミングがあるというか、没入できなければ置いていかれるんですよ。それで気づいたのが、僕がアルバム後にいろんな視点が欲しかった理由は置いてきぼりを感じたからだったんですよね。だから自分を入れ替えて、明るい曲というよりは置いていかれない曲を作ろうって思ったんですよ。

Seimei:楽曲のテイストも明るくなったし、最近のセットも結構パーティしてて、それは前と比べて差があって面白いし、個人的な好みでいえば最近の方が僕は好きですね。

Fetus:僕も今の方が楽しい。前はDJも“浸る”のが好きだったんですけどブチあがるのもいいなって最近思ってきて。Amor Satyrは運命の人じゃないけど、(出会えたのは)大きかったです。

Seimei:Amor SatyrもResident Advisorのインタビューで「好きなアーティスト」にFetusを挙げてて、DJでもFetusの曲をめっちゃかけてて。不思議なのはFetusの暗い曲も好きなんですよね。

Fetus:フランスの知り合いが「日本のプロデューサーの曲めっちゃいい!」って言ってて、なんでって聞いたら「“テクノはこういうものでしょ”みたいなのがない」って言ってました。

――固定概念ということですかね。

Fetus:日本人はサンプルとかもスタンダードなものを使わんと(海外のアーティストとは)違うもの、みんなが使わないもので代用して作ってるから面白い、違う感覚で聴けるらしいです。

今のアーティストはみんな他人と曲がかぶりたくないっていう意識があると思うんですけど、その中で日本人の曲はフォーマットに従ってはいるけどちょっとズレてる感じがします。Fellsiusの曲とかはまさにそんな感じですよね。

Seimei:確かに無国籍感は強いよね。UKでもUSでもない。

Fetus:それが海外では面白いみたいです。フランスは特にそういうレーベルが増えてます。ベースミュージックでもUKのフォーマットからズレたやつとか、硬すぎないものとか。僕とかOyubiくんとかがまさにそうで、一時期フランス人にめっちゃ好かれてました(笑)。

◆大舞台でプレイするよりも大事なこと「憧れの人と…」

――でもFetusくんとOyubiくんでは全然スタイルも違いますよね。

Fetus:全然違いますね。

Seimei:基本的にFetusくんはいろいろ考えることが多い。客観視しようとする。Oyubiくんはもっと直感的。

Fetus:彼は完全に直感ですね。あとDJがめっちゃ好き。

――Fetusくんは?

Fetus:あんまですね。作ってる方が好きかもしれない。

――ライヴはやらないんですか?

Fetus:そんなに興味ないですね。

――やりたいこととかはない?

Fetus:最近はあんまないんですけど、あえて言うなら憧れてた人と一緒にやりたい。それこそGoldieとかEXIT周りの人たちとか。海外に行って好きな人たちと一緒にパーティやったり、共感して、どう思ったのか聞いてみたい。「今日どうだった?」とか。

僕は「Mixmag’s Best Producer of 2024」に選ばれてもなんも変わらなかったんです。成長はあったのかもしれないけど、それは単純に(活動する場所が)移動しただけみたいなところがあって、だったら場所を移動した上でAmor Satyrとかと一緒に同じものを見て、話し合うのは自分にとっていいことだと思うし、そういうのを求めてるのかもしれない。音楽をやっていてできることのひとつがそれなんだろうなって思うし。

――大きな舞台でDJしたいとかはないんですか?

Fetus:あるんですけど、憧れの人たちとやった上でですね。個人的には憧れの人たちと一緒にやることの方が意味がある、(自分の中で)残るかなと思うし。音楽で人を感動させる楽しさもあると思うんですけど、(大舞台かどうかはお客さんの)数の問題であって、内容面でみたら僕にとっては小さなところでもいいから憧れの人たちとやる方が大きいんですよ。

もちろん大きな舞台でしか得られないものもあると思うので経験として出られるなら出たいですけど、大事なのは憧れの人たちとやることで、それは終わりがない楽しみというか……いろんな国の人がリスペクトしあって曲を一緒に作ったりして「楽しかったよ」、「あそこがよかった」って言い合えたら楽しいですよね。自分が知らない、気づかなかった価値観がもらえるんで。

――恋人と一緒に映画を観て、感想を言い合うみたいな感じですかね。

Fetus:それが恋人じゃなくてもできるのが音楽で、僕の場合は特に音楽じゃないとできないと思います。

――人間に興味があるんですかね。

Fetus:そうかもしれない。特に音楽をやってると面白い人が多いんで。

Seimei:多分、みんな音楽じゃなきゃ本当の自分が出せないんですよね。音楽でしか自分を表現することができない。

Fetus:しかも、音楽をやってないとそういう人に出会えないので。音楽は世界中の人と一緒に作ることができるので、それは楽しいなって思います。

――売れたいとかはない?

Fetus:それはあります。ただ、それで何をするかっていうのもありますけど。

――成功してセレブになりたいとかは?

Fetus:セレブにはなってみたいですね(笑)。

Seimei:僕らのようなアーティストって音楽だけで食べていけるだけでヤバいというか、宝くじに当たってるようなものだと思うんですよ。音楽で生活するってそれぐらいすごいことだと思うんですよね。

Fetus:売れたいっていうのも好きなことができるようにっていうのがあって、それがひとまずの目標かもしれない。やっぱり誰かと会うためにはお金が必要だし、それができるくらいにはなりたいです。

――音楽以外の趣味はなにかありますか?

Fetus:ないですね。洋服が好きくらいかな。基本的に生活のほとんどの時間が制作に占められてて、今は完全に制作がメインだし、趣味がなくても全然大丈夫です。

――そういうところもまたストイックですね。

Fetus:趣味がないからこそ曲ができるみたいなところもあると思うんです。それだけ時間があるので。僕は曲作りに対して才能ないと思ってるんで、時間をかけないとできないんですよ。

Seimei:Fetusはめっちゃ丁寧に作ってる印象で、TREKKIE TRAXにくるデモの中でも一番丁寧。すごい時間かけてるなって思いますね。

Fetus:僕は「時間かけたらいい曲ができる!」と思ってるところもあって。ただ、最後の詰め作業はダルいっすね。80〜90%まではわりとすぐできるけど、そこからの細かい部分がしんどいっす。

あとは去年のアルバムでもまだまだ突き詰められる部分、できることはあると思うんですけど、僕の音楽は日本で反応がいいかといえばそうでもない。海外とのズレみたいなものがあって、それはしゃあないとは思っているけど実は結構苦しかったりもして。そういうところも今後考えていかないとと思います。

◆盟友Oyubiともに主宰するTuringとは?

――今はOyubiくんとレーベルTuringをやっていますよね。

Fetus:Turingはもともとパーティから始まって、当時はあまりにも僕らがヘンな曲を作ることが増えて「出すところがないぞ!」ってなって、だったら自分たちでやろうって。そんな始まりなんで特に目標とかはなく、今は僕とOyubiくんの対話の場みたいな感じですね。いわゆるOyubiくんの直感と僕のフワフワしたものの間を探り合う実験的な場所みたいな感じです。

――あくまで2人だけのレーベル?

Fetus:一応デモは募集してるんですけど、基本的には自分たちがいいなって思ってる人に声をかけてみたいな感じで、ユルくやってます。かなりフワッとしてますね。

Seimei:基本的にFetusもOyubiもTREKKIE TRAXで出すものとTuringで出すものには明確な線引きがあって、僕らもその判断に関しては断ったことがないというか、音源を聴けば選んだのがわかる謎の説得感があるんですよね。

僕自身は自分でレーベルをやるのはすごくいいなと思ってて、僕らと一緒にやりつつも自分のレーベルがあるとストレスもなくなる。「本当はこれやりたい!」とか思ってるくらいなら自分でやるのがヘルシーだと思うし、しかも一応パーティもやっているんで、そういうのもいいと思います。

Fetus:去年Toma Kamiを呼んで幡ヶ谷Forestlimitでやったんですけど、今年はやってないんですよね……。パーティもまたやらないなと思うし、Turingでも他にもやりたいことはたくさんあるんですよね。ただ、あまり進んでないのでこれからはもう少し頑張りたいですね(苦笑)。

Fetus(フィータス)

2000年生まれ、大阪府出身。2022年にリリースしたOyubiとの共作“Earnin It”で注目を集め、Ben UFOやNoisia、London Elektricity、SHERELLEらジャンルを超えて多くのアーティストのサポートを受ける。これまでベルリンのHERRENSAUNAやフランスのWajang、そしてTREKKIE TRAX国内外のレーベルから作品をリリース。2024年にはドラムンベースを軸にジューク/フットワークやテクノ、ダブステップなど幅広いジャンルに展開するファーストアルバム「b1 b2」を発表。世界各国で高く評価され、A.G.COOKらと並び「Mixmag’s Best Producer of 2024」に選出。2023年からは盟友OyubiとともにレーベルTuringを主宰。2025年には韓国・ソウルの名門クラブCakeshopで海外初公演を果たす。なお、Fetusとはラテン語で“胎児”を意味し、自身の音楽が特定のダンスミュージックのジャンルと紐づかないよう、何にも染まっていないことを表現すべくつけられた。

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