日本のジュークシーンに新風を巻き起こし、世界でも注目を集める稀代の寵児Oyubiへのインタビュー。#1ではOyubi誕生前夜、ジュークに目覚めるまでを。#2ではこれまでのキャリアを振り返ってもらったが、ラストとなる#3では今、そして未来をフォーカス。
今回もOyubiとジュークをよく知るTREKKIE TRAXのSeimeiに参加してもらい、DJ・プロデューサーとしての彼の今後に加えジュークの可能性。“東京”で活動する意義やライフゴール。さらには、Oyubiと思いをともにする“これから”のアーティストたちのことも…。彼らの話を聞いて一安心、日本のダンスミュージックシーンは明るいぞ!!!!
◆重視するはあくまでローカル、東京から死灰復然
――普段はどこでDJすることが多いですか?
Oyubi:渋谷でやることもありますけど、最近は下北や幡ヶ谷が多いですね。下北では不定期でジュークのパーティをやったりしてます。
――大きいクラブやフェスでDJしたいですか?
Oyubi:やってみたいですね。興味はあります。そういうところでやれたら楽しいのかなって思うので。ただ、シーンのど真ん中にいたいわけじゃなく、変なヤツ枠でいたいです(笑)。
Seimei:ダブステップはまだマスな方向にいけますけど、ジュークはやっぱり難しいですよね……。それこそ今回Oyubiくんはオランダのテクノフェス(「Lentekabinet Festival」)に出演しましたけど、プレイしたのはサブフロアで、あくまでテクノの拡大解釈の中で呼ばれた感じ。向こうでもシーンの本流ではないんですよね。ただ、このテのサウンドはルーツに近いというか、土着的でフィジカルサイドの音楽ですけど、今ヨーロッパでは再評価の流れがあるのかなと思います。
――ジュークは日本ではなかなか受け入れられにくい?
Oyubi:そうかもしれないですね。ジュークに対応しているサウンドシステムも少ない感じがします。
――その一方で海外での評価は近年とても上がっていますが、それはなぜだと思いますか?
Oyubi:自分でも評価されていることに驚きなんですけど、要因は“アイデア”かなと思います。海外の人たちは新しいアイデアを欲している感覚があって、自分もそういう新しいダンスミュージックが好きですし、変なことを頑張ってやっていけばいいのかなとも思います。
――ぶっちゃけ日本と海外、どちらがやりやすいですか?
Oyubi:今年は海外でDJすることが増えていて、確かに海外でやると盛り上がるんですけど、僕はやっぱり東京でやりたいんですよね。そこに意味あるかなと思うので。ローカルでDJして、それをみんながどう思うか、自分の曲をどう思うのかに興味があって。今は東京でやることに興味があるし大事かなと思っています。
Seimei:基本的に日本では多くの人がまだこういうジャンルがあることすら知らないと思うんですよね。
Oyubi:僕も聴き慣れていないところはあるのかなと感じます。
◆捲土重来、新時代を担う旗手たちが続々と…
――今、フロアでかけてお客さんを一番盛り上げることができる曲はなんですか?
Oyubi:4つ打ち寄りのジュークやハウスっぽいジュークもあって、ピークにそういう曲をかけたりもしますね。
Seimei:DJ Rashadの曲とかは今かけても盛り上がるよね。もはやアンセムというか。ジューク・フットワークは今、世界的にも成熟期の感じがします。ある程度定着して、第2世代、第3世代が出てきいてる感じ。ただ、日本だとそこまで見えていない。一時期盛り上がりましたけど落ち着いてしまった感がある。でも今はOyubiくんが出てきたり、ちょっとジャンルは違うかもしれませんが彼と一緒にレーベル(Turing)をやってる相方のFetusくんとか新しい人材がどんどん出てきていて面白い。彼らのパーティに行くと本当にヤバいですよ。ノイズのアーティスト(HAIZAI AUDIO)とかいろいろいて。Fetusくんは「お客さんに違和感を植え付けたい」って言ってて、そういうところはOyubiくんと一緒にやっているのがよくわかりますね。
Oyubi:僕らの気持ちとしてはカルチャーの隙間をゆく感じで、ビッグになりたいとか思ってないし、だからこそ自分の音楽を聴いてもらえるのは嬉しいし、パーティ自体は何をやってもいい場所だと思っていて。
Seimei:Oyubiくんは今、ヨーロッパでめちゃくちゃ評価されてるし、Fetusくんも去年Mixmagのベストプロデューサーに選ばれたり、アルバム「Fetus-b1 b2」がMixmagの「THE BEST ALBUMS AND EPS OF THE YEAR 2024 SO FAR」に選ばれたり、すごく活躍しているんですけど、何より彼らは自分たちでローカルでレーベルを作って自分たちの曲を出して、自分たちでパーティをやってる。その3点セットをしっかりやってるところがめちゃくちゃかっこいいと思いますね。
――ジューク好きは増えていますか?
Oyubi:僕がクラブに行き始めた頃はずっと1人で行ってて、あまり周りに共感してもらえなかったんですけど、最近はジューク好き、フットワーク好き、ゲットーテック好きがちょっと増えてきてると思います。DJも増えててやりやすくなった感じがしますし、ジュークを作り始めている人も数人ですがいますね。
Seimei:多分、僕らが知らないだけで家でひとりで曲を作ってる少年とかいると思うんですよ。Oyubiくんの曲を聴いて。ある意味オタクだと思うんですけど、それは僕らも同じで、僕らとしてはそういう人たちと一緒にやっていきたいし、なんなら「声かけてください!」って感じです。TREKKIE TRAXはそこの間口を広げることがレーベルとしての意義だと思ってるし、モットーは「孤立しがちなニッチなことをやっている人たちのコミュニティを作る」なんで。僕らが間口を広げていかないとダメだなと思っています。

◆一意専心、ジュークを突き詰め目指すライフゴールは?
――今後の予定は?
Oyubi:今年はアルバムを作ろうと思っていて頑張ってます。今はダンスツールとDJツールの2つがぐちゃぐちゃになっちゃってて、一度それらを全部吐き出してみようかなと思って、それがアルバムという形になりそうです。
――DJ活動は?
Oyubi:年内はアジアを回る予定です。ベトナムとか中国とか。
――アジアでの反応はいかがですか?
Oyubi:結構ウケます。この前、香港と中国・成都に行って、中国に呼んでくれたのはサイケデリックトランスに影響をうけたベースミュージッククルーみたいな感じだったんですけど、すごくいい感じでした。
Seimei:思うにアジアは今、日本よりもごちゃ混ぜ感が強くて、ニッチな音楽が盛り上がっている感じがしますね。理由としては、日本よりもクラブミュージックの歴史が浅いから。日本は西洋文化の流入が早く、その分リッチなヒストリーがあるんですけど、彼らはそれがないんですよ。だからその分、逆に自由だったりする。それこそ中国もそうでコロナ後にヒップホップがめちゃくちゃ盛り上がったりしていて。
日本でも1980年代、90年代にハウスやテクノが盛り上がって、そこから多くのアーティストが生まれたと思うんですけど、アジアの国々が今その状態のような感じがします。僕も去年、成都に行ったんですけど、変なことをした方が盛り上がるというか、東京でDJをするときのセオリーとか関係なく、それを壊していくことを求めてる、そんな熱量がありましたね。DJもオーガナイザーもみんな若いし、今、シーンを作っていっている感じがしますね。
――最後に将来のビジョンを教えてください。
Oyubi:朝起きて、曲を作って、趣味をして寝るみたいな生活がしたいです(笑)。好きなことだけをして生活する、ライフゴールはそこですね。とんでもなく大きな舞台に出たいというよりは、毎日音楽を作る生活ができたら幸せだなと思います。

photo by Utae
Oyubi
ジャズ〜EDM〜ダブステップ〜ドラムンベース・ジャングルを経由しゲットーテック〜ジューク・フットワークの世界へ。ダンサーとしても活動した後、2017年にDJ・プロデューサーとしてのアーティスト活動開始し、早々に国内外のレーベルから楽曲をリリース。近年、欧米を中心に高まるジューク・フットワーク再評価の波を受け海外で大きな注目集め、ヨーロッパ〜アジアまで各国でプレイ。グローバルに展開すると同時に地元・東京ローカルでの活動も重視し精力的に活動。現在はTREKKIE TRAXをはじめ様々なレーベルからリリースを重ね、さらには盟友FetusとともにレーベルTuringを主宰している。
