本誌読者であれば、この特異極まるフェスについてはご存知だと思う。これまで編集部が世界各地のフェスを取材してきた中でもとりわけ異彩を放つ『Day Zero』を改めてその成り立ちと特徴、そしてそこで何が行われているのかを体験談を交えて伝えていきたい。まずは成り立ちから。
2012年12月21日、人類滅亡が予言されていたマヤ暦の最後の日、新しい世界の幕開けを祝うべく『Day Zero』と名付けられスタート。しかも、舞台はマヤ時代からの古代遺跡が数多く点在するメキシコ、リビエラ・マヤにあるピラミッド型の遺跡。
遺跡でのパーティなんて、日本では考えられないし、実際に足を踏み入れた時の衝撃は今でも忘れられない。真夜中に鬱蒼としたジャングルを歩いていくと、轟音が徐々に近づいてくる。そして、たどり着いた先には、ピラミッドから爆音とレーザーが放たれる圧巻の光景が待ち受けていた。
3年目から開催地が変更になったが、そこもまた不思議な場所だった。Moon Valleyという、カラカラに乾燥し真っ白に染まった大地の中央に色鮮やかなエメラルド・グリーンの美しい巨大なセノーテ、そこが新たな舞台だった。セノーテには、「危険!ピラニア」と書かれた看板があったり、壁画や古代文字のようなものが描かれていたのが印象的だったのを覚えている。
そして昨年からは三度場所を移し、メキシコの自然保護地区トゥルムにあるセノーテ・ドス・オジョスからほど近い、ジャングルの奥地で行なわれることに。この経緯について主催者であるダミアン・ラザラスに訊いたところ『Day Zero』でのスピリチュアルな体験を届けるためには、非現実的でミステリアスなロケーションが重要だと語っていた。
それはステージや会場を彩るデコレーションも同様で、既存のEDMフェスにあるようなLEDパネルでデザインされた派手な装飾などは一切なく、あるのは丸太だけで組まれた原始的なもの。その無骨な佇まいはステージというより祭壇といった方がイメージが近い。
そしてもう一つ重要な要素は、現地の先住民マヤンピープルの文化を取り入れていること。毎年必ずセレモニーが行われるのだが、それは原住民による民族舞踊やマヤ時代のシャーマンによる祈りを疑似体験できる催しなど、プリミティブで儀式的な演出が施されている。その空間は、終始スピリチュアルな雰囲気が支配し、否応なくその世界観に引き込まれる。
その他にも、先住民の指導のもと焚き火を囲みデジュリドゥの演奏に合わせて天に祈りを捧げ、農産物(トウモロコシ)の豊作を願う、太古から伝わる貴重な文化体験をすることできたり、インディアンのフェイスペインティングができたりと『Day Zero』ならではの体験がたくさんあった。
しかし、このフェスの魅力はそのロケーションやセレモニーだけではない。首謀者:ダミアン・ラザラスの徹底したディレクションで選び抜かれたアーティスト達のダークで呪術的なサウンドが加わる事で、このコンセプチュアルな異空間は完成される。ジャングルの奥地で祭壇のようなステージから放たれる呪術的サウンドを浴びてダンスラバー達が踊り狂う様は、まさにアンダーグラウンドの極地。
『Day Zero』を振り返って感じたことは、コンセプトに基づき、ロケーション選びから音楽性、さらには空間演出の細部まで、一切の妥協を許さない拘りとクリエイティビティこそが、人の心を突き動かすのだと再認識させられた。こんな体験ができるのは世界中を探してもここだけだ。その体験を追い求めて、こんな僻地まで世界中からオーディエンスが集まるのも頷ける。僕も同じようにこのフェスティバルにアディクトされた一人だから。