いまや音楽もデータで聴く時代。
だが、そんな時代だからこそアナログの魅力が再評価され、近年世界的にアナログレコードの人気が再燃しているが、同時にカセットテープも注目を集めているのをご存知か。
もはやカセットテープなど完全に時代遅れのメディアかと思いきや、実は世界中で見直されている真っ最中。
それは数字の面でも実証されていて、全米最後のカセットテープ・メーカーと言われるNational Audio Company社は、なんと2015年の売り上げが1969年の創業以来最高の数字を記録。
一方日本でも経済産業省の調べによると、音楽、映像、データ用含む磁気テープの国内生産量は3年連続で増加中。
渋谷のタワーレコードやBEAMS RECORDSなどではカセットテープの特集が組まれるほどの人気となっているのだ。
そもそもその火付け役となったアメリカでは、西海岸のインディレーベル:Burger Recordsなどがカセットテープにダウンロードコードを付けて楽曲を発売し大きな話題となり、現在は数多くタイトルがリリース。
ゴールド&プラチナムディスクを獲得した作品がカセット化されたり、かのカニエ・ウエストもカセットで「Yeezus Cassette Tape」を発売。
ここ日本でも電気グルーヴやMURO、tofubeats、メジャーでもでんぱ組.incなどがカセットテープのタイトルを発売している。
では、なぜこうもカセットテープが見直されているかと言えば、ひとつはデジタルデータでは表現することのできない微妙な温かみや音圧が出せるから。
そして、ある特定の世代にはノスタルジーを感じさせ、一方で若い世代には新鮮に映り、さらにはデジタルへのアンチテーゼやモノ(コレクターズアイテム)としての価値など、様々な理由が上げられる。
ちなみに、ここ日本では保存における信頼性や利便性、さらにはコストパフォーマンスなど、いろいろな理由から磁気テープが見直され、最近ではソニーが世界一容量が大きい磁気テープを開発(その容量はなんと1つのテープで180テラバイト!)するなど、さらなる進化も果たしている。
そんなカセットテープ人気は、レコード同様DJシーンにも余波が
いまやワールドワイドに活躍するDJ、ブライアン・シンコヴィッツが使うのはなんとUSBでもCDでもレコードでもなく、このカセットテープ。
彼はアフリカのカセットテープを発掘しリリースするレーベルAwesome Tapes From Africa(ATFA)のオーナーをつとめ、アフリカの未知なる音源をカセットでプレイすることで大きな注目を集めている。
今でこそ世界の音楽業界はデータが主流だが、ことアフリカはそこまで行き届いていないのが現状。
つまりカセットテープが音楽を繋ぐ唯一のツールで、それだけに一般的な市場やネットにない新たな音がカセットテープに詰め込まれている。
もはやあらゆる音楽に溢れ、オリジナルを見つけるのが難しい昨今、彼はカセットテープにしかない唯一のサウンドを武器にドイツのBoiller Roomをはじめ、世界各地の人気クラブでプレイ。
日本にも昨年初来日を果たしていて、チケットはソールドアウトと、実はとてつもない人気を誇っているのだ。
いまや誰しもSoundCloudやYouTubeで楽曲やミックスをプレゼンテーションする時代だが、そもそもダンスミュージック業界では様々なDJがカセットテープにミックスを収め、アンオフィシャルながらも世界各地で取引されていた。
それこそグランドマスター・フラッシュをはじめヒップホップ界のレジェンドもそこから有名になったのも事実。
それから幾年月、時代は進化しカセットテープというツールは一度は廃れながらも再び注目を集めているのはなんとも奇縁なこと。
ブライアン・シンコヴィッツのATFAの他にも、Burger RecordsやOSR Tapes、Spooky Townなどカセットテープレーベルは数多く存在し、そこでしか聴けない音源を生み出している。
ネットにもない新たな音楽は、じつはカセット・テープにあるかもしれない……。