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体調不良を含む三度の来日キャンセル。
そして“僕らは君を諦めない”という強烈なキャッチとともに決定した四度目にして最初で最後となるアヴィーチーの来日公演。

しかし、その直前のラスベガスのツアーが全公演キャンセルになったことで、“またか……”と一気に暗雲が立ち込めてしまう。

しかし、イベンターのクリエイティブマンによる「<緊急速報>AVICII無事来日(済)」のTwitterがアップされるや、情報はまたたく間にトレンドワードとなって拡散され、希望は一気に現実味を帯びていく。

そして、当日、大阪舞洲特設会場と QVCマリンフィールドに押し寄せた4万8千人のオーディエンスたちが目撃したのは、ファイナルにふさわしい、そしてはじめて彼のパフォーマンスを体験するものにとって、とてもスペシャルなものとなった。

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『Ultra Music Festival』でもプレイされた未発表曲“Without You”で幕を開けたこの日のセット。
序盤では、ディジー・ラスカルのレイヴ・チューン“Dirtee Cash”や、彼が憧れていたスターDJであるアクスウェルのスウェディッシュ・ハウス・マフィア以前のスマッシュ・ヒット・チューン“I Found You”やポインター・シスターズ“Dare Me”をネタにしたデイヴ・アームストロング“Make Your Move”、ボブ・サンクラー“New New New”の自身によるリミックス、ロビン“Hang With Me”やセバスチャン・ドラムス“My Feeling For You”などを立て続けにプレイ。


レイヴ/テクノ、フィルターハウス、クラシックなディスコ/エレクトロなど自身が受けた音楽の影響を、ティム・バーグ名義の楽曲とのマッシュアップやリミックスで披露しながら、スタジアムを徐々に温めていく。

ギアが入ったのは、彼のお気に入りのザ・フー“Baba O’riley”“Fade Into The Darkness”のマッシュアップから、“Stay with Me”、“Silhouette”、“I Could Be The One”と彼の出世作が次々にプレイされてから。

場内は一気に熱を帯び、アヴィーチーのライヴでよく見るオーディエンスの「合唱」がそこかしこから発生していく。

そんなオーディエンスの溜まった「歌いたい」という欲求にさらに火をつけたのは、“Hey Brother”にはじまる、『True』からの怒涛のヒット曲攻勢だ。

“Shame On Me”、“You Make Me”、“Dear Boy”、“Addict To You”。一度聴けば歌えるメロディ。一度聴けば歌えるシンセリフ。

過去、シカゴではDJの公演でありながらアリーナ席で椅子が用意されることもあったが、それだけ彼の楽曲にはダンス・ミュージックの枠組を超え、あらゆる世代を魅了する突出した「歌心」があった。

EDMは「Electronic Dance Music」の略だが、同時に「Entertainment Dance Music」であり、「Studium Dance Music」でもある。

その色合いを強めながら、シーンがメインストリームに向かう歴史の中で、彼がなぜマイルストーンになったのかが、会場を覆うオーディエンスの合唱を聴いているとよく分かる。

怒涛のヒット攻勢は止まらない。“The Days”、“The Nights”を経て、セカンド・アルバム『Stories』より“Waiting For Love”、“City Lights”がプレイされる。

この頃のアヴィーチーは病気によって休養を余儀なくされ、そのためか、歌詞の内容も人生を深く掘り下げたものになり、より普遍的でポップな作風へとシフトする。

そうした変化に呼応するかのようにVJもオーガニックなものへと変化。
そして上昇気流に乗り続けたライヴは『Stories』収録が見送られた“Heaven”と、Klarの“Lyon”で幕を閉じた。

収まりのつかない会場に満を持してプレイされた“Wake Me Up”でファンの溜飲を下げると、最後は
「トーキョー!来てくれてありがとう。色々あったけど、最終的にここに来られてうれしいよ」
とこの日唯一のMCの後に、彼の名を世界中に知らしめた“Levels”のオリジナルとスクリレックスのリミックスを披露。

まるで自身のキャリアや人生を物語っていくようなスペシャルなロングセットでこの日、最初で最後であろう来日公演は惜しまれながら幕を閉じた。

AVICII 20160605 SUB 1 Photo by Sean Eriksson

演出面で言えば、火力の高いライティングや高密度のLEDを巨大なサイズで使用するなど、豪華そのものではあったが、例えばアメリカのエンターテイメント性が反映されたゼッドに比べると、非常にシンプルなものだ。

また、ミックスに関しても、1秒の遊びも許さない詰めに詰めた構成ではなく、どこか昔のDJたちに連なるようないい意味での緩さをもっている。

しかし、それでもなお、今回のショウが抜きん出た印象を放っていたのは、成功したことでジェットコースターのようになった彼の人生が、ソウル、ブルーグラス、ゴスペル、ディスコと、人のソウルに根ざしたブルージーな音楽性や、紡がれる突出したメロディと融合することで、圧倒的なポピュラリティを持ちながら、人の奥底に根を張っているエモーショナルな部分を強く刺激していたからだろう。

「エンタメ」という側面から逃れられないEDMシーンの中では珍しく、ノーMCを貫くというスタンスを含め、その立ち位置はやはり特異だ。

健康状態の悪化が今回のショウからの引退を招いたこともあり、歓迎されるべきことではないかもしれないが、代わりにそれらは彼の作品に「Life」というより深いテーマ性を与えることになった。

作曲活動が継続されるからには、そうしたテーマは今後の作品にも色濃く反映されていくことだろう。

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「伝説」と言ってもよい語り継がれるべきショウが、この日限りであることは残念の一言に尽きるが、それでも今後発表されていくであろう彼の作品には大きな期待をかけざるを得ない。

なぜならショウという現場で、彼の曲がどのように僕らの感情を大きく揺さぶっていくのか。それを僕らはもう体験してしまったから。

ショウの後にiTunes Storeで、彼のアルバムがチャートをまたたく間に駆け上がっていったのも、きっとそういうことなのだろう。 

ダンス・ミュージック・シーン、そしてEDMシーン屈指のメロディ・メーカーでありメッセンジャー、アヴィーチーの旅はまだ続いていく。

願わくはその足跡を追い続けたい。そう思わせる素晴らしいショウだった。