アジア圏内のクラブの中でも、とりわけ国際的に評価が高いクラブ:ZOUKが主催するビーチでの野外フェス『ZOUKOUT』。
毎年進化する多面LEDのレイアウトやシンガポールならではのエキゾチックなオブジェ、ピークタイムに上がる花火など、まさに一時も目が離せないフェスティバルだ。
さらに2014年はEDM界を代表するスターDJ:スクリレックスやコアな音楽性を提示したリッチー・ホウティンをはじめとするテクノ/ハウス勢まで集結。

今回は『ZOUKOUT 2013』に続いて『ZOUKOUT 2014』にVJとして参加したVJ MANAMIがその模様をレポート。
出演者の視点から本イベントのステージ演出に焦点を当て、このフェスの魅力を紹介。

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『ZOUKOUT』2つのステージを振り返る

ヘッドライナー級のアーティストが一堂に会した今年の『ZOUKOUT』。
まずはEDM系のMoonStageとテクノ/ハウスのStarStage、2つのステージでそれぞれのアーティストがどんな演出で差別化を図っていたか振り返ろう。

MoonStageでは、ショウテックのショーではショウテック自身が即興で生歌を披露して観客と一緒に歌い一体感を図り、スティーヴ・アオキはボートを出して客席に飛び込んだり(笑)。
DJによって世界観ががらっと変化する、まさにEDMジャンルならではのショーケース。観客が一緒に歌い、踊り、騒ぎ、それぞれがエンターテイメントとして完成されていた。

StarStageはDAY1ではロコ・ダイスにリッチー・ホウティン、DAY2ではマノー・ル・タフやダブファイア、ニーナ・クラヴィッツといった豪華すぎるタイムテーブル。
そんな中、各個人の色は出しつつも1日を通して全体の一体感を作り上げている印象だった。特にDAY2の朝方のダブファイアからニーナ・クラヴィッツへのくだりは完璧で、夜明け前の暗いフロアにダブファイアのミニマルな世界観が作り上げられ、夜明けと共にニーナの情緒的な世界観へ移行する流れが本当に最高だった。

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アーティスト付き演出クルーが求められる理由

また、演出面で個人的に1番気になっていたのが各アーティストに専任の映像・照明クルーが多かったこと。
ニッキー・ロメロ、スティーヴ・アンジェロ、スクリレックス、リッチー・ホウティンといった出演アーティストのほとんどが専用の演出クルーを引き連れていた。アバヴ&ビヨンドやスティーヴ・アオキに至っては、プレイしながら映像をコントロールできる拡張機能を持つPCDJソフトSerato DJを用い自ら映像を操っていた。
また、EDM系アーティストの用いるVJソフトが、圧倒的にVDMXとResolumeに偏っていたことが印象的だった。

VDMXとResolumeに共通しているのは、シーケンスを組めるところ。これは大枠のセットリストが予め決まっているEDMDJのパフォーマンスに大きな威力を発揮している。
両VJソフトのメリットとしては、
・SMPTE(※編注1)のシグナルを受けられること(完璧な同期が可能に!)。
・世界中のビッグフェスを駆け回るスターDJが毎回異なるステージセット/多様なLED配列に対応できるよう、プロジェクションマッピングソフトMadmapperとsyphon(※編注2)経由で連携が図れること。
・照明のDMX(※編注3)の信号を双方受けられること。DMXの信号を受けることで照明との連動を計りやすく、更なる一体感を出すことができる。

海外のクルーが、いかに音と映像、照明の連動を追及し、世界観を作り出すことに注力しているかが分かった。

注1・複数の機器間で映像と音声の同期を取ることができる信号規格
注2・MacOS上で、複数のアプリケーション間で画面を共有するためのフレームワーク
注3・舞台映像・照明機器における制御信号の統一規格

これはEDMに限ったことではなく、テクノ/ハウスも同様だった。リッチー・ホウティンのステージでは、彼が率いるレーベルMinusから映像・照明クルーが乗り込み、アンダーグラウンドな4つ打ちダンス・ミュージックにも着実にアーティスト付きの演出クルーが求められてきていることが実感できた。

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なぜ“アーティスト付きの演出クルー”が求められているのか?
一番の理由は、音・映像・照明それぞれのプロフェッショナルが手を組み共に考え提案しあうことで、お互いを補い、より良い演出を作り出せることにあるのではないだろうか。
いくつものツアーを回るなか、様々なLEDの配置やスクリーンのレイアウトがあり、ロケーションでは屋内もあれば屋外もある。その環境でいかにベストのものを提供できるか。
フロアの状況に合わせ、一番の主役である観客にいかにアーティストの世界観を最高の状態で伝えられるか。
それらの目的を達成するための手段として、前述したような機材、ソフトウェアを駆使している。

私は普段VJを行う際、担当するアーティストについて調べてDJ MIXを探し、極力そのアーティストが好きな世界観を理解しようとする。自分が解釈した世界観を、映像で表現できるように。
しかし、ただ調べるだけではなく、本人と話して提案できたほうがやはりより良い世界観を作れるのではないかと常々考えていた。

そんななか、リッチー率いるMinusクルーの一員として『ZOUKOUT 2014』で演出を手がけたItaru Yasudaさんに話を訊くことができた。
オペレーション時にも常にコミュニケーションを取り合い、VJと照明の連動も素晴らしく見事に『Minus』の世界観を作り上げていた彼らのステージ。
その演出クルーのひとりItaruさんとの対話からは、彼らがいかに連携をとり、アーティストの頭の中にあるイメージを具体化しているのかが見えてきた。

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リッチー・ホウティン率いるMinusの一員となるまで

VJMANAMI(以下M)「まずは1番気になる、リッチー・クルーに入ったきっかけを聞かせてください!」

Itaru Yasuda(以下I)「リッチー・クルーに入って今年で3年目になりますかね。僕は会社勤めする前はいろいろとアルバイトをしていて、その時にカールステン・ニコライのアシスタントの方と繋がったんです。カールステン・ニコライはベルリンのアーティストで、リッチーやアリとも仲が良くて」

M「アリ・デミレル。Minusのヴィジュアルをずっと作ってる方ですね」

I「そうです。そのアリが丁度アシスタントを探してるって情報が僕の元に降りてきたんです。僕は、元々リッチーの大ファンだったので彼が出るパーティとかにもよく遊びに行ってて。そのパーティで流れるヴィジュアルも大好きだったんです。そのヴィジュアルを見て自分でもヴィジュアルを作り始めたりして」

M「なるほど。その時VJ活動も日本でされてたんですか?」

I「いや、VJはしてないです。それで、アリが作るヴィジュアルの大ファンだからアシスタント募集の話を聞いた瞬間ぜひ紹介してください!って頼み込んで(笑)」

M「それは、大チャンスですもんね」

I「うん。ただ、その時はまだ雲の上の存在というか、紹介してくださいと言いつつも全然自分の中でイメージできてなくて」

M「なるほど。まあ、実際イメージしにくいですよね」

I「で、その後普通に就活して会社に入って。そしたらある日突然僕のところにアリからメッセージがきたんです」

M「え! アリから!?」

I「『ウェブサイト見たよ。すごくいい感じだね。良かったらベルリンで一緒に働く気はあるかい?』って突然(笑)」

M「カールステン・ニコライのアシスタントさんが本当に紹介してくれたんですね。人の繋がりってすごいなー」

I「僕もびっくりです。もう即答でやらせてくださいって返信して。それでリッチーが2011年の5月にWOMBに来る機会があって、その時はアリはこなかったんだけどいい機会だから会いなよってセッティングしてくれて。そこから少し期間をおいて10月にやっと契約が決まって」

M「雲の上の存在から、急激に縮まりましたね。正直な所、大ファンだったといえど異国の地で異国の人の中に1人で飛び込むということに怖いとか怖じ気づいたりとかってしましたか? 環境ががらっと変わることになるじゃないですか」

I「僕自身、ベルリンやバルセロナに一度は行ったこともあったので、海外暮らしにはさほど抵抗はなかったです。怖くないといえば嘘になるけど、やっぱり挑戦してみたいって気持ちのが断然大きかったですね。後は、応援してくれる人がたくさんいてそれに応えたいって気持ちもありました」

M「うん、その気持ちなんだか分かります。私も同じ行動してたと思う。何よりも二度とない大チャンスですもんね」

I「そう。だから迷いはなくて、リッチーから連絡きて1ヶ月後に会社辞めて準備してベルリンに飛び立って。住む所も全然決まってなかったから2週間くらいリッチーの家に泊めさせてもらって(笑)」

M「憧れのリッチーの家に! いきなり環境が激変しましたね!(笑)」

I「雲の上の存在だったけど、実際本当にリッチーは良い人で。ベルリンに行った当初は英語が拙い部分もあったけど優しくフォローしてくれて。もう3年もたったかーって感じです」

プログラマーからステップアップしVJへ

M「日本ではVJされてなかったとお話されてましたが、リッチー・クルーに入ってからすぐVJみたいな感じだったんですか?」

I「最初の方は、『ENTER.』のインスタレーションのプログラム周りをまかされてたんです。アリが元々アシスタントを探す上でその条件がTouchDesigner(※編注4)を扱える人っていうのがあって。Plastikman Live(※編注5)のプログラムを僕がTouchDesignerで組むみたいなのが最初のアイディアで」

M「技術的なサポートがメインだったんですね」

I「はい。アリがVJに関してはオペレーションしてて。ただリッチーのスケジュールって本当に忙しくて金曜日アムステルダム、土曜日マドリッドとかざらにあって。映像って毎回会場によってスクリーンが違うし、信号のチェックとかもあるから結構前倒しで行かないといけないじゃないですか」

M「そうなんですよね。よーく分かります」

I「そうなると、アリ1人ではどうしても手が足りなくなってきて。『Itaru行ってみたら?』って(笑) 僕自身もやってみたいから行かせてもらって。そしたら『良いじゃん!もっとやってみよう!』ってVJさせてもらう機会がだんだん増えてきて、『ENTER.』のショーは8時間とかあるので前半4時間が僕で、後半4時間がアリみたいにスタンダード化していったんです。今年からアリがクリエイティブディレクターになったのでツアー周りは僕が行くようになりました」

M「そこはセンスですね。認められて着実にステップアップされてますね」

注4・Windows PCで動作するソフト。リアルタイムに映像を加工できる
注5・リッチーの別名義Plastikmanでのライブセット

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イレギュラーなシチュエーション/お馴染みの機材

M「話は変わるのですが、『ZOUKOUT』って毎年LEDレイアウトが面白くて変わった形なのが印象的です。今年のLED5面レイアウトで特別に気をつけたことってありますか?」

I「僕たちがよく使うのってやっぱり丸スクリーンだったりとか、後は普通の1面スクリーンが多いんですよね。だから、『ZOUKOUT』みたいに映像が切れるみたいな事ってあまりなくて。実際今回のレイアウトを見た時はどうしようかなと思ってたところもあるんですが、ポジティブに考えれば普段あまり使わない素材やVJでの展開を試せる場所でもあるんじゃないのかなと。そこはすごく考えてVJしました」

M「イレギュラーだからこそ、新しい発見があるということですね。それからItaruさんの機材についても詳しく聞いてみたいです。見た感じあまり見かけないソフトだったのですが、これは自作ですか?」

I「機材はハードは、PCとMac(Boot camp)(※編注6)のラップトップをメインとバックアップ用に2台持ち歩いていて、コントローラーはLividのAlias8(※編注7)をメイン、KORGのnanoKONTROL2(※編注8)をバックアップで使ってます。
ソフトはTouchDesigner、基本的にムービーファイルは一切使ってなくて、自作のジェネレーティブコンテンツ(※編注9)と、それをプレイするためにTouchDesignerでプログラムしたビジュアルパフォーマンスソフトウェアを使っています。
世界中のいろんなツアーやフェスに対応する必要があるのと、リッチーのプレイ自体毎回違うし、かなりダイナミックなので。その流れをビジュアルでフォローしたり表現するためにこのセットアップに落ち着いた感じです」

M「自作のジェネレーティブコンテンツ。だからあんな面白い動きが可能なんですね。有機的でありながらミニマルな映像ですごく素敵でした」

注6・Boot camp はMacOS上でMicrosoftのWindowsを実行できるアプリケーション。Windows用のソフトTouchDesignerを動かすのに使っていると思われる
注7・Livid Instrumentsから発売されたUSB接続のMIDIコントローラー
注8・KORGから発売されたUSB接続のMIDIコントローラー
注9・コンピュータのアルゴリズムによって数学的、機械的、無作為的に生成されるコンテンツ。しばしば予測できない様態を見せる

クルー全体でリッチーの世界観を表現

M「先程のお話にも出てましたが、『ENTER.』では丸がキービジュアルだったり、リッチーの世界観ってファンの中でさえある程度確立されてると思うんですよね。そういったクリエイティブって誰が決めてるんですか?」

I「本当に最初のアイディア、例えば丸だったりとかはリッチーの頭の中で出来上がって。それをアリや他のクルーに相談するんです。そこからみんなで意見を言い合って相談して」

M「始まりはリッチーの『こんな感じ』みたいな所からなんですね」

I「そう。何かを決めようとして決めるんじゃなく本当に有機的にできあがっていって。ただ、一度決まったらちゃんとそこにこだわるんです。意味があるように作っていく。丸のイメージも実は最初は3つだったり色々と試してマイナーチェンジしてたりするんです」

M「リッチーの頭の中をクルー全体で再現するんですね」

I「はい。ただやっぱりアリの存在が大きいですね。最終的に決断するのはリッチーだけどクリエイティブディレクターとして全体をコントロールしてるのはアリです」

M「なるほど。それぞれの意見を集約して形にするのがアリなんですね。リッチーは本当にプロダクション化が成立しててクルーが一体になってるのがよく伝わります。ItaruさんのVJの時も照明クルーのマティアスともすごく仲良く連携が取れてたのが印象的でした」

I「実際みんなすごく仲が良いですね。家族みたいです」

M「家族のような環境だからこそ良い意見も悪い意見も言い合えて良い物が作れるんですね。勉強になります。
同じ日本人として世界で活躍されているItaruさん本当に尊敬です。やる気と行動力、センスですね。色々とお話聞かせていただいてありがとうございました。ベルリン遊びにいきます!」

I「ぜひぜひ。寒いから9月くらいおすすめです(笑)またどこかでご一緒できるのを楽しみにしてます」

オーバーグラウンドなEDMだけでなく、アンダーグラウンドのテクノ/ハウスパーティでも近年『エンターテイメント』・『演出』という言葉をよく耳にするようになった。
テクノロジーの進化によって、挑戦・実験できることが多くなってきた現代。だからこそ、センス、表現に合わせた技術を選定する必要がある。
良い空間、各アーティストの世界観を最高の状態で観客に提供する為、音楽・映像・照明、それぞれのプロフェッショナルがお互い力を合わせ『クルー』として動くこと。
今回の『ZOUKOUT』に出演してみて、それこそが、これからのダンス・ミュージック・クラブシーンにおいて多様な表現を生み出し、新しい時代を築き上げるための要になるのではないのではないかと強く実感した。

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