暗澹たるコロナの鬱屈を打ち破るエネルギーに満ち溢れた音楽「ドラムンベース」。その魅力をより深く知るべく、日本代表DJ AKi&YELLOCKのインタビューに続いては、ジャーナリストにしてドラムンベースDJのモーリー・ロバートソンに直撃。ドラムンベースとはどんな音楽で、どんな魅力があり、世界ではどんな認識で、どういったポジションなのか。さらにはドラムンベースの未来、アフターコロナのあり方とは……博識な彼にドラムンベースについてあらゆる角度から聞いてみた。

まずはドラムンベースがどんなものなのか伺ってみると……「シンプルでタイトなキックとスネアの打楽器音、その間を絶妙に縫うような低音域のベースがバックボーンです。お約束でテンポを上げたブレイクビーツが“ゴースト=影”のように重ねられるので、シンプルなビートなのに複雑なリズムにも聴こえる、という二面性があります。さらに、ジャズコードのサンプルが使われることも多く、大人でアーバンな雰囲気の曲が多いです。一方、ビリビリと焼けるような歪んだ音、譜面でいうとシャープ(#)を多用したダークなサウンドで攻撃性重視のアプローチもあります。DJプレイでは速度感の重視が打ち出される傾向にあり、踊っている人もスタミナが大事になってきます」とのことだが、初心者向けに簡潔に言うなれば「とってもおしゃれなラウンジサウンドからアドレナリンに軸を置いたアグレッシブなものまでたくさんあります。骨太のビートの合間にいろいろな具材が詰まっている“テクスチャー”を聴くのがおすすめ」。つまり、画一的に思われることが多々あるが、ドラムンベースはとにかくバラエティは豊かということ。

そして、世界を見渡すとそのシーンはとても大きく、彼も「世界は、すごい。なんでこんなに勢いがあるんだというほど」と目を丸くしつつ、さらには「ジャンルの壁を超えていろいろなスタイルが誕生し、進化し続けています」とも。一方で日本は「コロナウイルスにも負けずにみなさんがシーンを支え続ける熱意に感銘を受けています」とファンの熱量を高評価。ちなみに、ドラムンベースといえばUK・ヨーロッパの印象が強いが、彼の母国アメリカではどうなのか聞いてみると「ユーロ圏での存在感が圧倒的で、アメリカでは4つ打ちとヒップホップ、ダブステップ派生のジャンルが強そうです」とのこと。

熱心なファンは評価するものの、日本のドラムンベースシーンといえばまだまだで、その立ち位置はアンダーグラウンドの極地。その理由について彼は「これは“人見知り”のようなものかもしれません」と分析する。そして、その心がまた興味深く「日本の音楽シーンでは特に“初恋の人”に出会うと、一生添い遂げるほどの忠誠心が見られます。ハウス系の原体験で覚醒したみなさんの多くはドラムンを“後から来た、速すぎる音楽”だと感じているのかもしれません。でも、音楽では“浮気”をしてもいいんだよ、とお伝えしたいところです。さらに技術的なことですがドラムン、トラップのジャンルで音楽を体感するには重低音の出力を支えるサブウーハーが必要です。優れた重低音設備の設置にはお金もかかります。ドラムンのイベントをやると人がいっぱい来る会場の投資が回収できる音がいいからもっと人が来る、という流れが必要でしょう」とある種、前時代的な感じだが納得。そして、なんとも響く“浮気してもいんだよ”の一言。

では、どうすればシーンが拡大するのか。彼は「ドラムンベースのひとつの存在意義はアンダーグラウンドであり続けたこと」としつつ、「今後は大型の商業マーケットと出会う接触機会も広がっていくでしょう」と示唆。さらには「ハリウッド映画やNetflixの映像で使われるとますます勢いが出る傾向も見られるので、今後の映像制作側がドラムン愛に目覚めることを願ってやみません」と語る。確かにドラムンベースの疾走感はハリウッドにもハマりそうだ。

そんなドラムンベースの最新トレンド、2020年代の傾向を聞いてみると「ジャンルを超えたコラボレーションが進んでおり、デジタル・ネイティブな若い世代の参入も続いています。今後は170bpm前後という枠から飛び出して120bpm台のジャンルに侵入していく流れもあるかもしれません。あるいはほぼ鉄則であったドラムンの縦ノリにあえて4つ打ちを打ち込むアーティストも登場する可能性も」と彼はさらなる進化に期待を寄せる。

7月1日(金)には、パーティで幾度となく共演してきた盟友、DJ AKi&YELLOCKが「THE EDGES BETWEEN THE LINE」をリリース。2020年代、そしてアフターコロナを象徴する多彩でエネルギッシュな作品に仕上がっているが、そんな今作について彼は「最高です。ただ最高の一言。みなさん、聴いてください」と絶賛。

最後に、冒頭にもあるようにドラムンベースに今、求めるのは、コロナによる閉塞感の打開。ドラムンベースのようなエネルギッシュなサウンドは新たなエンターテインメントを構築する上で必要であり、なおかつ夢中になって踊る、音楽を楽しむことは鬱屈した気持ちを再建する上で重要だと思うところだが、彼は「今の今はまだマスクをしてクラブやイベントに行くという状態が続いているのでドラムンが本領を発揮するまでに時間がかかるかもしれません」とさすがジャーナリスト、冷静に現状を捉え、「コロナウイルスとはある程度共存する運命が待っていると思うのですが、日本社会がどのあたりに“落としどころ”を見つけるのかを待たなくてはならないという面があります。コロナウイルスがパンデミックからエンデミックに移行したタイミングで山、ビーチ、クラブでドラムンの重低音が鳴り響いてくれることを期待しています」と今後について話してくれた。ぜひその通り早くクラブで楽しみたいところだ。