——アルバムには1時間に及ぶ寝ている音や8分間の食事風景などが入っていて、それは退屈かと思いきや聴いてみると実に興味が尽きませんでした。
他人が寝ている音なんてそうそう聴く機会はないし、その他も今回はマイクのおかげで身体に肉薄した音を拾うことができたからね。
“is hurting”なんて、彼女のメンストラルカップ(月経カップ)の音まで入ってる。
そんな音、僕は今まで聴いたことがなかったよ。
かなり親密で、ある意味緊張感のある関係でなければ聴けない音……それはすなわち、今回は聴き手とモデルの間にそういう関係性が生まれるんだ。
——あなたのやり方は様々な制約はあるけれど、音楽を語る上ではより自由と言えるかもしれませんね。
ものすごい自由度だったよ。
今は音楽を作りながら自分で下さなければならない決断がたくさんありすぎる。
音ひとつ作るにも使えるシンセサイザーが山ほどあり、出せる音も何百万とあり、さらにはそれを加工する方法も何百万通りもある。
それは選択の自由を与えてくれているようでいてそうじゃない。ものすごい労力が必要になるとも言えるんだ。
むしろ、リンゴを食べる音だけで音楽を作るという枠組だけはっきりさせておいた方が作業に専念できると思う。そして、そこに僕は自由を感じるんだ。
舞台、そしてギャラリーへ
既存の音楽作品を超えた芸術的真価
——この作品を舞台にする計画もあるとか。
今のところ1回だけなんだけど、ロンドンでやる予定さ。
希望としては振付師についてもらい、いくつかの身体を登場させて動かす。
そして、これはまだ最終的な案ではないけれど、例えば観覧者のそばを通りかかる身体の気配から何かを感じたり、そこから匂いがしたり、いろいろと試してみたい。
ただ、不安もあるんだ。そもそもこの作品の主旨として身体の見た目に捕われないというのがあるからね。
だから、舞台でも身体を普通に露出することは避けたい。そこにはこだわりたいね。
——あとは展覧会も。
ナショナルギャラリーに寄贈する話があるね。そこではギャラリーの床や壁、天井とかに穴を開けて、穴に頭を突っ込むと音が聴こえてくるという感じにしたいと思ってる。
目で見るのではなくて聴くんだ。
——あくまで体感するアートということ?
そもそも、この作品に影響を与えたのは様々なアートなんだ。
それも音楽というより、それ以外の分野のね。
だから、これも音楽作品というより芸術作品だと自分では考えている。
——芸術は全てが万人に理解されるわけではありません。今作も、もしかしたら気分を害する人がいるかも……。
人を嫌な気持ちにさせるつもりはさらさらないよ。ただ、ドナルド・トランプに消えてもらいたいだけ(笑)
——もしもですよ……彼がこの作品を気に入ってしまったらどうします?
(爆笑)まさか、あいつがこれに興味を持つはずがないよ。ヤツは自分にしか興味がない人間だからね。他人の音になんか興味を持つわけがないさ(笑)
Matthew Herbert
「A Nude (The Perfect Body)」
Accidental / Hostess
7月1日発売