「私たちは今、歴史上で一番ともいえるくらいディストピアに生きていると思う」
本名義では初となるアルバム「HOPELESSNESS」をリリースしたアノーニは本誌のインタビューでこう語った。

その一方で彼女は、この世界こそが神のベストなアイディア、パラダイスだと信じているとコメントしている。

ディストピアとパラダイス、絶望と希望、それはアノーニが抱く表裏一体の想い。

「HOPELESSNESS」で世の中の様々な問題をとりあげた彼女が願う理想の世界とは?

——今一番心を痛めている問題は?

生物圏が破壊されていることね。
海水の汚染をはじめ、動物たちがどんどん生活しにくくなってる。

私は他の生態系がいない世界なんて絶対に住みたくない。もしいなくなってしまったら孤独を感じると思うの。
全ての生き物は私たちの兄弟だから。

家族がいなくなっていくのが地球の未来だと思うと本当に心が痛くなる。そして、私はそれを黙って見ているだけなのは耐えられない。

それに立ち向かっていかなければならないのよ。

——あなたは何を信じて生きているの?

今生きているこの世界が神のベストなアイディアであるということを信じてる。

私たちはこの世界に属しているわけだし、他にパラダイスが存在しているとは思えないから。
この地球こそがパラダイスだと信じてる。

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——もしも生まれ変われるとしたら、またアノーニとして生きたい?

それはノー。人間として生まれ変わりたいとは思わないわ。

——何に生まれ変わりたいの?

そうね……空気。なぜなら自由だからよ(笑)。あなたは?

——ありがちだけど……鳥かな。空を飛んでみたいし。

私も一瞬考えた(笑)。
でもね、鳥として生きるのもきっと大変だと思う。

だから空気にしたの。空気なら飛べるし、誰かから食べられる心配もない。形がないからね。

ただ、空気として生きるのも大変かもしれないけど(笑)

——トランスジェンダーであることは音楽に何か影響を与えているのかな?

私にとってトランスジェンダーであることとアーティストであること、それを分けて考えるのは不可能なの。

なぜなら、どちらも私の一部だから。
トランスジェンダーじゃなかったら、自分の人生がどうなっていたか想像もできないし、それが私の人生を今のように変化させたの。

そして、葛藤や人との違いを感じる経験があったからこそ、アーティストとしての自分が存在しているんだと思う。

そもそもトランスジェンダーとして生まれてなかったら、ミュージシャンになってなかったと思うわ。

——トランスジェンダーであることがクリエイティブの源泉になっている?

そうね、昔は。でも、今は変わってきてる。
リアリティに関して歌うことが源泉になってる。

たとえば、今回のアルバムでは世の中の状態や問題が取り上げられているようにね。

——その問題を具体的に言うと?

いくつかの問題に関して言及してるわ。
死刑制度、ドローン戦争、地球温暖化、鉱石破壊……扱っているテーマは本当に様々。

ひとつの問題だけを取り上げるのではなく、全てをひとつとして考えたいの。
なぜなら全ては繋がっているから。

どれかひとつが解決されても、他の問題から目をそらすわけにはいかないの。
全てがよくならない限り、問題に囲まれて生きているという事実は変わらない。

何より、その全ての問題が生物圏を破壊してる。海を汚し、森を荒らし、生態系を破壊してるのよ。

——あなたはそういったことをより多くの人に伝えたいの?

多くの人はそういった情報はすでに持っていると思うわ。
ドキュメンタリーがたくさん作られ、ネットや誌面でも取り上げられているからね。

私がアーティストとしてやりたかったのは、私たちが生物としてどんな状態にあるのかを表現し、その方向性を変えられるのか、その問いかけ。
方向性を変えることは可能なのか、それとももう遅いのか。それが私が抱いている疑問なの。

みんなの考えを変えようとか、ただ怒りを表現するのではなく、私は私たちの置かれた状態を知り、動きたいと思っている人々をサポートしたかった。
彼らにエネルギーを与えるサウンドトラックを作りたかったの。

このアルバムからパワーを得て、行動を起こそうと思ってもらえたらいいなって思ったのよ。

こういった問題や現状に全く興味を持っていない人々を振り向かせようとまでは思わないわ。
それは時間の無駄だから。

——そんな今作の中で、あなたが最も印象に残っているフレーズは?

“We are all Americas now”という部分ね。
最初はアメリカで起こっていた問題が今は全世界に広がっているから。

資本主義と依存の関連性は、私たちの身の回りにある大きな問題。
他のことを考えずに自分本位で大きくなっていこうとするなんてまるでガン細胞みたい。

そして、地球に存在する物からエネルギーを吸い取り生活を満たしていこうとする考え方はアメリカから始まったわけだけど、今はその夢が現実になってしまっているのよ。

——もし今、あなたが何かひとつ正すことができるとしたらどうする?

やっぱりエネルギー源かしら。
石油や原発に頼っているのはよくないと思うの。

あと、何かを変えることができるとしたら、間違いなく政界の男女の割合を変えるわ!

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ANOHNI
『HOPELESSNESS』

Rough Trade / Hostess
http://anohni.com