近年、怒涛の快進撃を続けるアメリカのDJデュオ、ソウル・クラップ。ファンクの父こと、生ける伝説ファンカデリックとのコラボレーションやグラミー賞にノミネートされたルイ・ヴェガのアルバムへの参加。そして、話題騒然となったセカンド・アルバムを発表したかと思えば、すぐさまリミックスEPとダブEPをリリース。
そしてこの度、名門ミックスシリーズの「fabric」の監修が決まるなど、いま最もホットな新世代ハウスデュオをマイアミ・ミュージック・ウィーク中にキャッチした。
イライ いま振り返ってみてもすごく誇らしい数年間だったよ。音楽業界で、こんな経験ができるなんて想像していなかったしね!だってルイ・ヴェガやジョージ・クリントンのようなレジェンドたちとコラボレーションできたり、友達にもなれた。
——グラミー賞にもノミネートされましたね。
チャーリー 本当にたくさんの夢が叶った数年間だったよ。
——新作「SOUL CLAP」は、新しいアプローチにも感じましたが。
シャーリー あのアルバムは、ここ数年間に僕らが挑んできたことの集大成のような一枚なんだ。ソウル・クラップの音楽性を体現するような作品を詰め込んだ。だからタイトルを自分たちのユニット名にしたんだ。
——そしてUKの名門クラブ「fabric」のミックスシリーズを監修されます。率直な感想は?
イライ このご時世でミックスCDをやらせてもらえることはすごく光栄だよね。だって最近はほとんどのミックスがオンラインで配信。僕たちはDJ-KicksとWater Gateをやって、今度はfabricだなんてすごくラッキーだと思う。昔から聴いてたミックスシリーズに自分たちがDJとして参加できることを嬉しく思ってるよ。
——本作「fabric93」で意識したことは?
イライ ある意味、DJ-Kicksの作品を追求したようなものであり、僕らのfabricでのプレイも意識した。いつもより少しテンポが早めで、エレクトロニックなドラムや、ディープでトリッピーなサウンドが多め。でも同時に、ミックスって家とかアフターパーティで友達とふざけて聴いてもハマるものでなきゃいけないと思うから、エネルギッシュだけどどこか優しさもある。そんなイメージかな。
——ソウル・クラップがfabricでオープンラストをやったらこんな感じ?
チャーリー そう!まさしく、それをやろうとした。でも、僕らがクラブでの一晩でプレイする音楽を全部一枚のCDの尺に収めるっていうのは難しい。だからセクションごとに分けて、インタールードを挟みつつそれらをつなげてみたんだ。イントロ、ダビー、シンセ・ファンク、エレクトロ、ディスコ、ディープ/ソウルフル、スローテンポ、ファンキー、アフロって感じに。
——なるほど。
イライ 今回は、自分たちの音の世界観をいつもよりも俯瞰で見てみた。もちろん、いつも通り僕らが大切にしている2つの概念から離れずにね。
一つは、“EFUNK”。Everybody’s Freaky Under Nature’s Kingdomの略で、自然というキングダムの元ではみんなフリーキーだという哲学。さらにEFUNKは、フューチャリスティックでありながら超ファンキーなエレクトロニック・ミュージックのこと。
もう一つは“house wears many hats”って例えなんだけど、ほぼほぼどんな音楽でもハウスミュージックに落とし込めるっていう考え方。だから今作では、4つ打ちだけに捉われずにいろんなビートを混ぜてる。ブレイクスからエレクトロビーツ、ファンクやディスコビートにアフロまで。それらをハウスミュージックの解釈でミックスしたよ。
——1枚のミックスに34曲収録とかなり豪華ですね。
イライ 約70分のミックスに僕らの好きなスタイルをなるべく入れ込むこんだよ。いつもみたいにSoul Clap recordsとWolf + Lamb Records、Crew Loveのレーベル・トラックやアーティストもフィーチャーしているけど、僕らが新たに気になったモダンでクラシックなプロデューサーたちにも参加してもらった。
ミックスの中では、エイシェント・ディープ、ケン・ギル、それからダエ・マーティンのソウルフルなサウンドと、ソル・パワー・オールスターズとマーオのアフロスタイル、そしてバーバラ・タッカー、インディアン・オーシャンとストーム&ハーマンのクラシックスで、 ハウスミュージックのスピリットを表現したよ。
——未発表曲や本作だけのエディットも?
チャーリー このミックスの収録曲は、全部エディットしたよ。僕たちは、切り取ってリアレンジして、コラージュするのが好きなんだ。これから発表されるってことで言うと、僕らがやったミッドナイト・マジックのダブ・ミックスとデヴィッド・マーストン&ライフ・オン・プラネッツ、テイラー・ベンス、それからジャック・ノーヴィン&マット・グローン達の新しいトラックが収録されている。それらは、今年の終わりにSoul Clap RecordsとWolf + Lamb Records、Crew Loveから出る予定。
あと、一番嬉しかったのは、スコット・グルーヴスとアイアン・フィンクがこのミックスのためにイントロを作ってくれたことだな。すごく光栄なことだよね!
——新しいアプローチとか、挑戦したことは?
イライ 最近のダンスミュージックは、観客を喜ばせることばかりが重視されていて、クオリティとか挑戦する姿勢を忘れられがちだよね。このミックスでは、4つ打ちとワンテンポなセットの枠から飛び出すことに挑戦してるんだ。僕らのDJセットの様にね。
スローテンポから始まって、速くなって、またスローになって、速くなる。ブレイクスとかポリリズムも取り入れてみたよ。ダンサーと、リスナーの両方の聴く人に対してアプローチすることが大事だと思ってる。
——このミックスにはもう一つの想いが詰められてるんですよね?
イライ そう。このミックスにはとてもパーソナルな想いが詰まってるんだ。それは、数年前に突如帰らぬ人となってしまった、fabricのコミュニティとも親しかったダレン・スマートへの想い。
ダレンは、一番初めの頃から僕らの音楽を信頼してくれていたプロモーターの一人で、ロンドンだけではなく世界に僕らの音楽を広める手伝いをしてくれた。たくさんの人に計り知れない影響を与えてくれた彼に敬意を込めて、このミックスは彼の声で始まって、彼の声で終わる。
——デュオとしての活動が10年目とのことですが、当初はこんなに続くと思ってました?
チャーリー 昔から音楽に対する情熱を強く持っていたからこそ、高校時代からの友達と一緒にこの世界でやってこれたんだと思う。当時は、どんな人生になるのかなんて見当もつかなかったけど、これまでやってきたことを今すごく誇りに感じているし、未来に向けても準備万端だ。
——どうして一緒に活動することに?
イライ ジョーイベルト・ラムのイベントに二人とも別々にブッキングされてたけど、二つあったステージが急遽一つになってしまいプレイ時間も1時間しかなくなっちゃったから一緒にb2bをやったんだ。そしたらめちゃくちゃ楽しくて、そのあとアフターパーティに行って初めて一緒にミックスを録ったのを憶えてるよ。それがソウル・クラップの始まり。
——制作に対してお互いに何を求めてますか?
イライ チャーリーはいつも頭の中に音楽があって、それを形にするタイプのプロデューサー。だいたい彼がトラックのアイデアを出してくれて、そこから一緒に取り掛かるんだ。
チャーリー イライは、どちらかと言うとアイデアをくっつけたり、まとめたり、いろいろ試したりする方。ソウル・クラップはふたりのコラボレーションで、ふたりでやるからソウル・クラップなんだ。陰と陽みたいにね。
——DJプレイにおいてお互いに求めてるものは? 僕の印象では、イライがどんな状況でもフロアを創る確実な流れを作る選曲と丁寧なミキシング。チャーリーが、ダンスフロアを一瞬で熱狂へと誘う爆発力だと思ってるのですが。
イライ ありがとう!よくわかってくれてるね。僕たちは、いつもいろんなジャンルの中から新しいサウンドを探していて、それをどうしたらまとめられるかってことに挑戦してる。DJとしてのスキルと選曲をよりたくさんの人に認めてもらえるようにさらに磨いてるよ。
チャーリー いま新たに切り込んでいけるフィールドを探していて、大きなリスクを持ってでも新たなアプローチでみんなを驚かすように考えてるよ。
——今後の予定を教えていただけますか?
イライ 2017年も楽しい年になりそうだよ! まずはこのfabricのミックス。その次はデトロイトのMovement Festivalでアンプ・フィドラーと一緒にライヴをやるよ。
それから、つい最近Classic Musicとも契約、数年前にロバート・オーエンスと一緒にやった“Misty”っていう曲と、最近の僕らのアルバムにも収録されてる“Shine”のリミックスを出すよ。
チャーリー Soul Clap Recordsからはミッドナイト・マジックのLPが出たばかりで、この後には、ノナ・ヘンドリクス、レイドバック、Chiwoniso、そしてマイケル・ザ・ライオンたち新作もひかえてる。
Crew Love Recordsからはピロー・トークとデヴィッド・モリソンのやばいやつ(新曲)が出るのと、クルーの中から新たなコラボレーションが決まって、コンピがリリースされるよ!
Soul Clap
「Fabric 93」
Fabric
Interview:NAOKI SERIZAWA
Translation:REN / Ako Tsunematsu