Photo&Text By Kotaro Manabe

去る8月17日〜23日にかけて開催された『Oregon Eclipse Gathering 2017』。
8月21日の午前中(観測地帯によって時間が異なる)に、99年ぶりにアメリカ本土を通過するという皆既日食。このタイミングに合わせ、世界中からエクリプスチェイサー達がオレゴンの砂漠地帯に集結した。その数約4万人。そのうち日本人参加者は700〜1000名と言われている。

Shpongle-Live

これまでにも皆既日食に併せたフェスティバルは、1999年ハンガリーのオゾラで開催されたものを筆頭にザンビア、オーストラリア、トルコ、イースター島、インドネシアなど様々な地域で行われてきた(皆既日食は日本でも2009年のトカラ列島全域で観測できたが、残念ながら天候に恵まれず、蝕の瞬間やダイアモンドリングを拝む事はできなかった)。

今回のフェスは、これまでの日食フェスを経験した各国のオーガナイザーが、主催チームであるSymbiosis Gatheringの元に集結。日本からはRe:birthがサポートとして参加した。

Sky-Stage

流石はアメリカ、とにかく全ての規模が規格外にデカい。何しろ今回の皆既日食はアメリカ国民にとって99年ぶりとなる出来事である。即ち、殆どの米国民にとって生まれて初めての経験となる上に、西海岸オレゴン州から東海岸サウスカロライナ州までを横断するという事で、皆既の程はさておき、48州で日食体験ができるタイミングとなっており、今回の『Eclipse Gathering2017』に限らず、全米が日食フィーバー状態となっていた。

湖畔池

前乗りで会場入りした人々からの現地情報という有難いアドバイスがSNS上で公開された事もあり、事前準備も覚悟もある程度できてはいたが、とにかく過酷な環境であった事は間違いない。

「人が集中しすぎてガソリンスタンドが長蛇の列……挙句、ガソリンが不足していて給油できない」といったパニック情報も流れてくれば、「入場まで17時間かかった」という話も聞く……。

僕らは開催から2日遅れで到着したので、幸いなことに初日の混乱に巻き込まれずスムーズに会場まで到着できたが、とにかく広大なエリアである上に携帯電話も繋がらない場所なので、友人に会うことすら至難。

防塵

昼間は40度を超え、夜は5度以下……。標高1500mの乾燥した環境は砂埃が常に襲ってくるのでゴーグル(もしくはサングラス)とマスクは必須。

会場内を歩く人々がそうした様相なので、なおさら友人を見つけるのは難しい状況。とはいえ、こういう場所では無理に友人を探す必要もなく、友人がプレイする時間にステージに行けばダンスフロアでお馴染みの顔ぶれに会うことになる。

KC&DAMI

今回のパフォーマンスステージは代表的なものが7つ。他にも小さなステージがいくつも点在し、アートインスタレーションを行っているドームや、ワークショップテント、ネイティブインディアンエリア、キッズエリア等、地図を見ていても迷ってしまうほど様々な施設が点在し、会期中は24時間休みなしに、どこかしらで何かが行われており、余程タイムテーブルを気にしながら、今自分がいる場所から目的のステージまでどれだけ時間がかかるのかを逆算して行動しない限りは、ここで何を経験し誰と出会うかは運でしかない気がする。

とても一週間では足りないコンテンツの充実っぷりなので、その日のコンディションでふらふらと散歩をしながら居心地の良い場所で足を止めればそれなりに楽しいし、新しい出会いなどのチャンスも到来する。

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フードエリアで言えば、『フジロック』の方がバラエティに富み、美味しいのだが、ここではベジタリアン向けの食事は当然のこと、肉料理に関しても通常の肉だけでなく、追加料金で「グラスフェッドビーフ」(牧草飼育牛)に変更できたりと、参考になる試みが随所に見て取れる。そうしたことはパーマカルチャーのワークショップなども含め、テクノロジーとは逆のベクトルで最先端を極めている姿勢が色濃く出ており、日本のフェスシーンはまだこれから取り入れていくべき課題が多くあることを痛感する。

そして、食が終わればトイレの問題が待っている。
4万人が利用する仮設トイレ……どうせ詰まってたり、お釣りが飛び散っていたり、トイレットペーパーが無かったりするんだろうなあ……と思って恐る恐る入ってみたが、綺麗で臭くない! しかも日を追う毎にひどくなることもなく、最終日まで終始綺麗な状態がキープされていた。

Fireオブジェ

また、設置数こそ少なかったものの、シャワーもお湯が出る快適なもの。「そんなのあって当たり前!」と思うかもしれないが、ここは苗場でホテルが隣接されているような場所ではないということを覚えておいて欲しい。何もない大自然の中に、1年以上前からこの1週間だけのために設備を引くところから始めている。

こうしたホスピタリティが行き届いている点においても、これまで体験してきた皆既日食のフェスティバル史上、最強だったと言っても過言ではない。

日食中eclipse

では、その皆既日食自体はといえば、やはりこれまで経験してきた蝕の中でも最強のパワーを放っていたように感じる。観測時間的に視線の高さで起こる日食は、周囲の景色や一緒に観測をしている人々の熱気、地平線の先の様子までもが視界の全てに一度に入ってくるのだが、そうした「壮観さ」と言う点においては2009年のケアンズの日食が最も観やすくて美しかったと思うが、今回は天を見上げる角度の蝕ではあるものの、太陽自身の発するエネルギーはこれまでに経験したことがないような強さを感じ取る事ができた(実際NASAの記録では、蝕の時に非常に珍しいサイズの太陽フレアが発せられていた。という話である)。

月で太陽が覆われ始めると急激に気温が下がるとともに、夜とは異なる不思議な色味の空模様になる。会場内は熱狂、絶叫、歓喜、歓涙の独特のエモーショナルなバイブレーションに包まれ、周囲の人々と抱擁を交わす……。

そこにいる世界中から集まった4万人それぞれの国籍が取り払われ、宇宙規模のスケールを体験する事によって、「地球人」という惑星単位のコミュニティを実感する事になる。

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会場内、特に池の周りはヌーディストで溢れかえっていた。街を歩いていて「メガネの人見かける」ぐらいの感覚で、ダンスフロアでもフードエリアでも、普通に全裸の人の姿を見かけるが、いやらしい雰囲気は皆無。60歳過ぎの老夫婦が全裸で手をつないで歩いている姿などを見かけたりもしたが、こうした自由でピースフルな空間は、アメリカならではでもあり、とはいえこの場所だけで許される特別な空間なのだとも思う。

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ここでは、iPhoneの落とし物などをはじめ、鞄や財布を紛失しても現金が入ったまま戻ってきた。というエピソードをいくつも聞いた。
壮大な会場に4万人がオートキャンプとテント生活でサバイブする1週間……。しかもそれら全てを企業スポンサーなどに頼らず全てのことを自分たちの手で行うD.I.Y.の姿勢。遡れば60年代に「ウッド・ストック」を経験し、ネバダ州の砂漠で「バーニングマン」で培われた経験値の積み重ねがあってこそ成せる技なのだろう。そういう意味においても「アメリカならではのLove & Peaceなフェス」を感じることが出来た。

電飾オブジェ

早速2020年のパタゴニアでの皆既日食に合わせたフェスティバル開催の発表が、今回の主催者からアナウンスされている。皆既日食はいくらこのように文章や写真、映像で伝えようとしても絶対に伝わらないものだと思う。それは鑑賞、観測という次元のものではなく、五感全てが刺激され感じる「体験」だから。

2020年ならば、500円玉貯金レベルの小額の旅行貯金でも、いまから始めるのであれば充分現実的。次回、パタゴニアに焦点を合わせてみるのも今後のパーティーライフに目標や励みが出来ていいのではないだろうか。

夜明け直後