“ベンを降ろしてる……”
なんとも興味深いパンチライン。文字面だけでは確実に意味がわからないだろうが、これは往年のデカ(刑事)以上に現場一徹、百戦錬磨のLicaxxxが窮地に陥ったときの最終奥義……。
彼女のルーツを辿った#1に続き、#2ではDJ&クラブ論にフィーチャー。
Licaxxxが考える“DJの能力”、DJで最も大切なこと、
そして、彼女が語る“ベンを降ろす”とは?
加えて、レコードでのプレイにこだわる理由
レコードとデータで買う楽曲、使い方の違いとは?
さらには、理想のクラブにパーティ論
今は音楽に没頭して踊る時間が足りない!?
ロンドンで垣間見たDJの原点とは……?
【インタビュー#01】
ロックな少女がGillesと邂逅相遇、人生一変…Licaxxxインタビュー#1彼女をDJへと導いた数多の出会い
◆Licaxxxが考える“DJ力”
――DJとして影響を受けたのは?
Licaxxx:最初はGilles Petersonで、その次はアーティストじゃないけど(大学生時代にインターンとして)2.5Dにいた時によく一緒に仕事をさせてもらっていたBEATINK。もともと大好きなレーベルだったし、いろんなアーティストにインタビューさせてもらったりしてエレクトロニックな表現によりハマったというか、音楽の聴き方が変わった気がする。
当時、いわゆるビート系みたいなジャンルが流行ってて、ダンスミュージックのフィジカルな部分だけじゃなく、“壁を這ってくるようなベース”みたいな、より深い聴き方ができるようになったんですよ。あとは大阪のビートメイカーがいっぱい出てきて、それも面白かったし、自分の中で音楽の幅というかダンスミュージックに対する解釈がめっちゃ広がった。
あとはやっぱBen UFOですね。
――Ben UFOをリスペクトしているDJは多いですよね。
Licaxxx:Benはレーベル(Hessle Audio)をやってるけど自分では曲を作ってなくて、まさに“ザ・DJ”って感じ。それってめちゃくちゃスゴいと思うんですよね。DJだけでステップアップしていくのは日本でも世界でもマジで大変だと思うので。もちろんDJもヤバくて、Gilles並みにジャンルが縦横無尽で、シンプルにDJの能力がハンパない。
――“DJの能力”というのは?
Licaxxx:例えば、今の日本だとDJってバンドに比べてパンチがないというか、良さが伝わりづらい。なぜなら日本は“知ってる曲を聴きたい文化”だから。新しい体験を届けるDJは難しいところがあるんだけど、それを越えられるものが“DJ力”だと思う。
それはアーティストが持ってる力とは違うもので、言うなればその場にあるものを使って新しいものを生み出す感じ。そのためには長い時間が必要だったりもするけど、それで人を楽しませたり、感動させることができるのがDJだと思う。
――そのDJ力がBenは優れていると。
Licaxxx:あんなにワクワクするDJはいないですね。でも、それを感じるようになったのは本気でDJをするようになってからで、それこそ高校生の時にDJ MEHDIやBusy Pのミックスを聴いていた時は曲単体で聴いていたんだと思う。流れというか、物語みたいなものが全然わかってなかった。
ただ、その後(代官山にあったクラブ)AIRとかで遊び始めて、いろんなDJを聴いていくうちにちょっとずつわかってきて……。結局、DJにとって何が重要かって“ミックス” なんですよ。それにDJをやって気づいた。
◆やりやすい現場とやりにくい現場
――自分がDJをする時も一番意識するのはミックスですか?
Licaxxx:そうですね。それもキレイとか汚いとかじゃなく、BPMを完璧にあわせて繋げばいいわけでもなく……。
――Licaxxxさんにとって最高のミックスとは?
Licaxxx:引き算後の足し算とか……例えば、ミニマルで淡々と進んでいたところに急にクラップが入ったら、それだけで超嬉しいみたいな。
――ストーリーというか、緊張と緩和!?
Licaxxx:そうそう。一度下がった後に上げるとか。だから(DJは)絶対に点では捉えられないものだと思う。やっぱり落差が見えた時が一番反応するし、あとはグルーヴがハマった時とかかな。
――DJをやっていて、どんな時が楽しい・嬉しいですか?
Licaxxx:時間の感覚がなくなってる時。それは他人のDJを聴いている時も同じで、時間の経過がめっちゃ早い時はやっぱり楽しい。
――いわゆる夢中になっている状態ですかね。
Licaxxx:そう。DJとフロアのグルーヴが一番ハマっている状態なんだと思う。ただ、(時間の経過が)遅い時もあるんですよ。世界がゆっくりに感じるというか、視界が開けていく時が。それもまた楽しい。
――そうなるためには何かしらの手順、ルートがあると思うんですけど、DJ中はどんなことを意識しているんですか?
Licaxxx:私は前の人の様子とかクラブの状況によってDJしていくスタイルなんで、セットリストもなんとなくだし、基本的には複雑なことは考えてないですね。完全にその場の雰囲気と気分でやってるかな。
――ハウスにしようか、テクノにしようかぐらいは決めていく?
Licaxxx:それもなんとなく。ハウスをかけててもテクノがかけられそうならかけるし、その場その場の感覚。
――フロアの空気を見ながらDJをする中で、ハマらない時もあるんですか?
Licaxxx:全然ある。意外と客が大勢いる時の方が難しかったりもするし。
――お客がたくさんいる方が難しい!? それはどういうこと?
Licaxxx:数が多くても、例えば普段クラブに来ない、遊び慣れてない人がたくさんいる時はやりづらい。だったら少なくても(クラブに)慣れてる人がいる方がやりやすいかな。
――例えばフェスは普段クラブに行かない人も多いと思いますが、やりやすいわけではない?
Licaxxx:フェスはやりやすいですね。みんな音楽を聴きに来てくれているから。あとは地方でやる時も私のDJを聴きに来てくれるお客さんが多いからやりやすい。逆に目的もなく遊びに来てる人が多いときはなかなか……。何をかけても盛り上がるんだけど、それはそれで結構イヤだったりするんですよ(苦笑)。
――盛り上がっていればいいわけじゃないと。そうした空気はやっていてわかるんですね。
Licaxxx:めちゃくちゃわかる。そういう時って派手な曲だったらなんでもよかったりするんで、私は全然地味な曲をかけたりする。「あなたの要求には応えませんよ」みたいな(笑)。
◆今、あえてレコードでDJをする理由
――Licaxxxさんは現場によってかける音楽が違いますよね。
Licaxxx:そうかもしれない。まずレコードで買う曲とデータで買う曲が違うんで。
――どう違うんですか?
Licaxxx:レコードで買うのはオブスキュアな感じ。ジャンルでいうとハウス、ディスコ、UK、シカゴハウスとか。(BPMが)130を超えるような曲はあまり買わないですね。
ここ8〜9年ぐらいはブリープテクノが好きって言っているけど、UKGでちょっと(BPMが)早くて現場でハマる曲とかも好き。でも、それはデータでいいなって思うんですよ。
あと、最近はダブステップが再燃してて、この前の「RAINBOW DISCO CLUB(RDC)」でもみんなかけてたんだけど、それがめちゃくちゃよくて。久々に(BPM)132〜133以降の曲が聴けるようになったっていうか、最近はUKの早い曲が自分の中で流行ってなかったんですよね。去年は(BPM)125ぐらいの粘りが見えるハウスを中心にレコードでDJすることが多かった。でも、その粘りがダブステップでも出せるようになって、お客さんもついてくるようになってきて。
――それは昔のダブステップも含めて再燃してる?
Licaxxx:含めてですね。ポストダブステップもそうだし、USっぽいものじゃなくUKっぽいダブステップが熱いです。
――Licaxxxさんは、ダンスミュージックを聴く際にどんなところに惹かれるんですか?ビート?リズム?音色?
Licaxxx:100%音色。試聴して音色がハマったものから展開をチェックしてる。個人的にはハイファイな感じはあまり好きじゃなくて、90’sみたいなものが好きかな。
――普段、昔の曲も結構かけますよね。
Licaxxx:その時代にしかないダイナミクスがあるし、単純に昔の曲が好きっていうのもある。それに、自分が好きな曲を掘っていくと自然と昔の曲に辿り着くんですよ。ただ、現行で昔の曲みたいなのを作ってる人もいて、それはそれで面白いと思うし、結局もう時代とかあんま関係ないですよね。
――DJを始めて15年以上経ちますが、何か変化した部分はありますか?
Licaxxx:大きいのは現場でレコードを使うようになったことかな。
――レコードでDJをするのは大変じゃないですか? それこそ持ち運びとか。
Licaxxx:大変だけど、「この現場は絶対にレコードでやりたい!」とかあるんですよ。あとはやっぱりレコードにしかない曲もあるし。
――レコードからデータにしたりしない?
Licaxxx:したのもある。でも、同じ音源でもデジタルデータとレコードだとかけ方が変わる。データはちゃんとアゲていきたい時で、レコードは聴かせつつもミックスのヨレとか粘りを楽しんでいく時。だからロングセットの時は絶対にレコードの時間を挟みたい。データとレコードでは機能が違うんで両方持ってるパターンもあるし、どっちの媒体でかけるかは、その場次第だったりもしますね。
◆ロンドンのFOLDで感じたDJの原点
――今のクラブの印象は?
Licaxxx:“コミュニティの場”って感じ。いい意味でも悪い意味でもクラブは“飲みの場”として存在していて、そこに楽しい音楽、かっこいい音楽が揃った身近な場所だと思うんだけど、今は大きなクラブが少ない。だから、音楽に没頭して踊る時間がちょっと足りないかなって思う。
――大きいクラブの方が踊れる? 小箱の方が音楽に没頭できたりしません?
Licaxxx:これは私の場合なんだけど、(フロアが)バーカン(バーカウンター)に近いとお酒を飲んじゃうんですよ(笑)。踊るにも集中力が大事だったりするから、バーカンが近いと音楽に集中できないというか、音楽に熱狂する時間を作るのが難しくなっちゃう。なので、個人的には飲むところと踊るところは別々の空間が理想。
去年ロンドンのFOLDっていうクラブに行ったんだけど、そこはダンスフロアとバーがしっかり別れててめちゃくちゃ良かったですね。あと、そこでは日曜日に「UNFOLD」っていうパーティがやってて、それは出演者が明かされてないの。当日行くまで誰がDJするかわからないんだけど、行ってみたらめちゃくちゃかっこよくて。久しぶりに夢中になって踊って、「こういう体験が足りてなかったんだ!」って思った。
――DJを明かさないってすごいですね。自信と信頼がないとできない。
Licaxxx:FOLDはみんなから信頼されてて、「FOLDがやってるから間違いない!」みたいな空気があるんですよ。そういう場所づくりはマジですごいと思うし、このパーティのあり方は理想的でDJの原点だと思う。私たちも見習うべきところ。
――日本でもかつては“ハウス箱”、“テクノ箱”というようなジャンルに特化したクラブが多くあって、そこである種の信頼感を担保していましたが、今の日本のクラブはジャンルではなくパーティ単位。そこは難しい部分がありそうですね。
Licaxxx:今は多くのクラブが“人(DJ)の力”に乗っかってる状態で、それも楽しいんだけど、たまに物足りなくなるというか、良くも悪くもパーティが“最高の飲み会”みたいになっちゃってるんですよね。
――その他に何か変化を感じることはないですか?
Licaxxx:音楽に没頭する時間が少なくなったことを除けば全然楽しめてるかな。良いDJもたくさんいて、下からもどんどん面白いDJが出てきてるし。あと、最近の若いDJは、みんな普通に働きながら上手にDJやってて本当にすごいなって思う。
――昔と違って生活基盤を保ちながらDJをして、なおかつDJを楽しんでますよね。以前はもっと大変というか、みんな苦労してた感がある。
Licaxxx:そうなんですよ、私もマジ大変だった(笑)。
――お笑い芸人とかと一緒で売れるまで耐え忍ぶみたいな。
Licaxxx:そうそう。多分、私はその最後の世代であり、他の仕事をしながらDJをする最初の世代。(今は)みんなお金のためにDJをするというより、やりたくないことをやってまで音楽をやりたくないみたいなところがあると思う。私の場合、DJを始めた頃はEDM全盛で、「EDMのDJじゃないと(DJだけで)生活できる見込みはない」みたいな感じだったのに。
――それでもEDMには興味なかった?
Licaxxx:全く(笑)。
ーーLicaxxxさんの少し下の世代になるとSkrillexに影響を受けた人が大勢いますけどね。
Licaxxx:ちょっと下の世代は(Skrillexを)洋楽として聴いている気がする。私が「Arctic Monkeys好き!」って言ってるのと同じ感覚。あと、私はそもそもあまりUSの音楽を聴いてなかったっていうのもあるかも。
――でも、ヒップホップは好きですよね?
Licaxxx:ヒップホップも好きになったのは遅いんですよ。昔から好きだったわけじゃないし、(ヒップホップの中でも)好きなのはグライムとかだったりするんで完全にUK寄り。ただ、Commonはよく聴いてましたね。櫻井翔くんの影響で(笑)。
◆DJで困った時は…秘技“Ben降ろし”
――櫻井くんといえば、先ほど「エレグラ」の話が出ましたが(#1参照)、Licaxxxさんはエレグラには行ってた?
Licaxxx:ちょうど行けなかった世代なんですよ、終わっちゃって。ただ、「メタモ(METAMORPHOSE)」はギリ一回だけ行きました。エレグラはまたやってほしい……。
――そのエレグラを主催していたBEATINKが新しいフェスを立ち上げましたよね。「Future Frequencies Festival 2026」。
Licaxxx:確実行きます、Joy Orbisonが来るんで(笑)。3月にパリで見たんですけど、マジでめちゃくちゃかっこよかったし、日本でJoy Orbisonが見られるのは超楽しみ。
ーー最近楽しかったパーティは?
Licaxxx:WOMBでのRDCのアフターパーティかな。Ben UFOが出てて、めっちゃ楽しかった。もう本当にずっと神展開でずっとゾーン。全曲Shazamした(笑)。
――それはBen UFOが好きすぎてではなく?
Licaxxx:それもあると思うけど、それにしても(フロアに)入って2秒でゾーンってヤバくないですか? その日、私は別のクラブでDJしてて、終わり次第行ったんだけど、もうずっとゾーン。2秒でゾーン。
――具体的に何がスゴかったんですか?
Licaxxx:塩梅というか、単純にかかってる曲がかっこいいのはもちろん、次に来る曲が全部自分が欲しい曲なんですよ。
――それはもはやBen UFOとシンパシー、共感覚みたいな?
Licaxxx:そうかもしれない。好きなジャンルがかぶってるのもあると思うけど、とにかく常に「わかる〜」って感じ。
――わかるってことは、自分でも同じようなセットができるってことじゃないんですか?
Licaxxx:理論的にはそうかもしれないけど、それができないんですよ。だからこそスゴいなって思う。でも、実は私、DJしてて困った時はBenの気持ちになるっていうか、“Benを降ろしてる”。
ーー降ろす!? イタコ的な?
Licaxxx:そうそう。(DJをしていて)決め手がない時とか、この後フロアをどうしよう、超迷うみたいな時にBenを降ろしてる。「Benはあの時こんな感じだったな……」っていうストックがいっぱいあるので。
――アスリートみたいですね。憧れの選手のスーパープレイを再現するみたいな。
Licaxxx:確かに。これみんなやらないのかな(笑)。

Licaxxx(リカックス)
東京を拠点にDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティなどマルチに活躍。2010年にDJをスタートし、マシーンテクノ・ハウスを主軸にあらゆるサウンドを駆使してフロアを魅了する。2016年、Boiler Room Tokyoに出演。その後、Fuji Rockをはじめとする様々なフェスや大型クラブイベント、パーティでプレイ。2022年には6カ国を巡るアジア&ヨーロッパツアー完遂。グローバルな活躍を見せる一方でビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」を主宰し、情報発信、次世代の育成にも注力している。
