Hyperdubは2004年にコード9が設立したレーベルであり、UKにはいくつものダブステップを扱うレーベルが存在するが、歴史的に見ても、そのリリース・タイトルから見てもトップ・レーベルであることに異論を唱える者はいないだろう。
00年代初頭にダブステップやグライムが勃興し始めると、すぐにそのサウンドの虜となったコード9は、友人たちとともにウェブマガジン:Hyperdubをスタートする。これが後のレーベルへと繋がっていくが、Hyperdubの名が、世界的に知れ渡ったのは、ブリアルの登場とほぼ一致する。
ウェブマガジン時代にデモテープを送ったのがきっかけとなり、レーベルの看板アーティストとなるブリアルは、2005年にデビューを果たすと、2006年にHyperdubでも初となるアルバム「Burial」をリリース。同作は、様々なメディアや専門誌から高い評価を獲得し、続く2007年のセカンド・アルバム「Untrue」でシーンを飛び越えて注目されるトップ・アーティストとなった。
2010年にジェイムス・ブレイクが現れたときの感覚と似ており(サウンド傾向はまったく異なるが)、あのときは〝ポスト・ダブステップ〞とはなんぞや? という疑問を多くの人が抱いたが、ブリアルの登場は〝ダブステップ〞という音楽がUKにあることを世界中に飛躍的に波及させた。
つまり国内的なムーヴメントであったものを世界的に拡大したという点において、Hyperdubとブリアルの功績は計り知れないほど大きい。その後、コード9率いるHyperdubは実験的かつ革新的な作品を投下し続け、シーンで確固たる地位を築き上げてきた。
Hyperdubがダブステップの一大ムーヴメントを巻き起こしたのはよく知られている。
かと思えば、ダブステップが流行の兆しを見せた途端にレーベルの首領であるコード9はダブステップを「クソみたいな音楽に聴こえ始めた」とバッサリと一刀両断し、路線変更。
UKファンキーやハウス、そしてコード9自身が“ネオン・シンセサイザー・サウンド”と称した音楽性を提示し、後にポスト・ダブステップを模索することになるシーンよりも一歩早い先進的な動きを見せる。
そして、近年ではシカゴ発祥の最新ムーヴメントであるジューク~フットワークに着目。そのオリジネイターの1人であるDJラシャドのファーストアルバムをリリースし、世界中の音楽メディアから大絶賛されたのは記憶に新しいところ。
ざっと振り返るだけでも、音楽シーンに多大な影響を与え、それもマスに媚びず、独立独歩のインディレーベルがそれを成し遂げている。
この理由は、やはりコード9の音楽哲学、審美眼、先見性ゆえ。新しい音楽、刺激的な音楽を追い求める冒険心と、大学の教授を務めるほどの理論派というふたつの武器を備えた彼だからこそ成しえた10年なのだ。
そして、この10年が凝縮されたのが、今年1月に開催されたアニバーサリーパーティ『Hyperdub 10』だった。コード9、DJラシャド、ローレル・ヘイロー、アイコニカとレーベルの主要メンバーが集結し、各々がまったく異なるパフォーマンスを披露。まるでレーベルの歴史をなぞるように、幅広いクラスターを見せつけてくれた。
あれから約1年。Hyperdub10周年の締め括りと、未来を指し示すクロージングパーティが開催される。
パーティにはレーベルの首領・コード9はもちろん、ラシャドの盟友DJスピンや“UKファンキーの女帝”クーリー・G、キング・ブリットの別名義:フロストン・パラダイムが登場。
次回以降はそれら出演者にスポットを当てながら、イベントの魅力を紹介していきたい。
コード9 インタビュー|UKアンダーグラウンドの賢者が語る過去と現在、そしてこれから