毎年4月にドイツはマンハイムで開催されているテクノ・フェス『Time Warp Festival』。1994年のスタート以来、年々その規模は拡大し、いまやその人気は欧州でも屈指。テクノ・フェスの代名詞たる存在となったが、今年も4月1日から開催され、そこにはカール・コックスにジェイミー・ジョーンズ、ディクソン、ダブファイア、ローラン・ガルニエにルチアーノ、マセオ・プレックスやマルコ・カローラ。そしてリカルド・ヴィラロボスにリッチー・ホウティン、セス・トロクスラー、さらにはマルチネス・ブラザーズやソロモン、テイル・オブ・アスなど錚々たるラインナップを擁し、大きな話題となった。

しかし、本祭はそんな音楽面だけでなく、テクノロジーの分野においても他フェスの追随を許さないことでも有名だ。もはやフェスティバル自体が世界でも最高峰の技術を駆使し、演出面においても恐ろしいほどの進化を続けているが、『Time Warp』はその最先端と言っても過言ではないだろう。最新の映像技術の粋を尽くした視覚的な演出効果はもちろんのこと、会場内に設置された様々なLEDパネルはオーディエンスを圧倒し、さらにはテクノビートにあわせて会場を覆う無数の光のシャワーは別世界に誘う、まさにタイトルさながらの時空を越えた感覚を生み出している。

そんな『Time Warp』に参加している日本人ライティングアーティスト・AIBA。90年代より国内のクラブで経験と実績を重ね、2000年に誕生したWOMBで専属照明オペレーターとして活躍。そこでの技術が多くのアーティストたちから絶賛され、『Time Warp』だけでなくシンガポールで開催される『ZOUKOUT』など、数多くの海外フェスに招聘される、まさに照明界屈指のアーティストだ。

なぜ彼は本祭に参加することになったのか。今回は日本で唯一『Time Warp』でライティングアーティストとして活躍する彼に、そのきっかけとともに本祭の魅力、さらには知られざる演出面におけるそのプロセスについて聞いてみた。フェスやイベントにおける音楽体験をさらなるステージへと導く光の演出。普段はあまり知ることのできないその裏側にあるものとは……。

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――『Time Warp Festival』はこれまで何度出演されました?

過去5回ですね。

――そもそも最初に出演することになったきっかけは?

ダブファイアに誘われました。最初はマイアミで行われている『Winter Music Conference(WMC)』の、当時ディープディッシュのレーベルパーティに誘われたんですが、そのクラブが外部からの照明アーティストを受け入れていなくて。彼が店舗と掛け合ってくれたんですが実現できなかったんです。それでダブファイアが『Time Warp』でやらないかと提案してくれて。それがきっかけです。

――照明アーティストの存在が認められたのも最近なんですね。

今でこそDJが照明やVJを海外のクラブやフェスに連れていくことは当たり前になりつつありますが、20年前などは皆無でしたね。たとえDJが主催者側に頼んでも無理なことがありました。

――『Time Warp』は豪華なラインナップもさることながら、照明や演出のクオリティも他に比べ一線を画しています。出演前はどんなやりとりされているんですか?

これは普段のクラブパーティと変わりません。会場の図面と照明図面、照明に関する基本データを送ってもらい、そこから照明演出を行うためのデータを打ち込みます。『TimeWarp』は初めて参加する前年に現地に下見もかねて行ってみたのですが、会場の大きさ、照明の台数、映像、演出、全てが衝撃的でしたね。それもあって、翌年最初に図面をもらったときは“こんなに照明が仕込めていいな〜”と思いました(笑)

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――具体的に『Time Warp』の演出はどんな部分がスゴいのでしょうか?

演出面では最新の照明機材を使っていることはもちろん、6つある全てのフロアでデザイン性の高い照明プランが施され、しかも毎年演出と照明のプランを変えているところがスゴいと思いますね。また、普通のフェスではステージ上にのみ照明や映像があることが多いですが、『Time Warp』は会場が屋内である利点を最大に活かし、フロアの最後尾まで照明や映像機材が設置されているんです。しかも、その機材も日本ではあまり見ることのないものばかりで。というのも、ドイツには特殊照明や映像機材に関するメーカーがたくさんあるんですよ。

――多くのメーカーがあるということは、フェスにおいても大きいんですか?

日本はメーカーの数が少ないだけに機材に関してもバラエティがあまりないんですよね。だから、照明のプランがどこも似てきてしまうことがあるんです。でも、ドイツは機材のバリエーションが豊富なため、演出の幅も格段に広がります。やっぱり海外のフェスやクラブでは日本で見たことのない機材や演出を見ることができる機会が本当に多いですね。

――ちなみに『Time Warp』ではどんな機材が使われているのでしょうか?

ムービングライトはClay Paky社の Alpha Profile1500、Sharpy、Robe社のMMX、Pointe、BMFL。あとはMartin社のAtomic3000やSGM社のLED Strobe、GLP社のimpressioとか……本当にいろいろな照明会社の最新鋭機が各フロアに仕込まれています。そして、照明卓はGrandMA2。演出面でも去年は光ファイバーをネット状に張り巡らせたものが天井に仕込まれ、それがラインで光っていたり、別のフロアではLEDの球体がワイヤーに吊られ、それが上下に動くたびに天井の形が変型するといった演出があったり。もはや映像やトラスが上から降りてくるとかは当たり前。過去にはそのトラスの形状が変わることもありましたし、日本では考えられないものも多いですね。

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――『Time Warp』はその名の通り“時空を越えるフェス”と称されていますが、演出面でもそのテーマが踏襲されているんでしょうか?

演出のテーマは毎回違っていますね。ちなみに、『Time Warp』の由来は冬時間から夏時間の変わるときに1時間ずれる、それが由来だと聞いたことがあります

――AIBAさんは『Time Warp』ではどんなことを意識してプレイしていますか?

僕は基本会場の大小に関わらず、DJのプレイに合わせています。そして、踊りやすい環境を作ることを一番心掛けています。ただ、『Time Warp』に関して言うならば、やはりダブファイアの存在が大きいですね。彼のDJに変わる瞬間の演出方法は、毎回しっかりと打ち合わせをして決めています。僕はなぜダブファイアが自分をブッキングしてくれるのか考えたとき、それは日本人の感覚で照明をしているからなのかなと思っています。『Time Warp』にテクニカルなスタッフとして参加している日本人は3人だけ。なので、ドイツをはじめ他の国のオペレーターとは違う演出が自分にはできていると思っています。

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――AIBAさんから見た『Time Warp』の魅力、他のフェスとの違いとは?

最も大きいのは天候、暑さや寒さに左右されない、全天候型のフェスということですかね。屋内なのでとにかく過ごしやすい。それだけに大小6つあるフロアはどこもオーディエンスでいっぱいです。一番小さいフロアで500〜600人、そして3000〜5000人収容できるフロアが3つあり、最も大きい2つフロアのキャパシティは1万7千人もあります。既存の野外フェスはステージセットが上に向けて高く作られますが、『Time Warp』は屋内なのでそうではない。たとえて言うなら大小6軒のクラブがあるような感じですね。

Photo:©Photo-company.nl / ©Chris Flako / ©togis

AIBA
アイバ
1991年にNYで伝説のクラブTHE SAINTのオーガナイズによるパーティを体験し開眼。ライティングエンジニアを目指す。その後、国内のクラブで経験を積み、とりわけWOMBでの活躍が世界中のアーティストから高い評価を受け、その名を轟かすことに。現在はクラブやフェスの他、『TGC』などのファッションショーでも活躍し、さらには店舗の照明プランの施策など光に関する活動は多岐にわたる。