そのハードな音楽性とスタイル、圧倒的存在感を持って世界を蹂躙したYOJI BIOMEHANIKAがシーンへと帰還。
テックダンスを提唱したYOJI時代を経て、彼が再びYOJI BIOMEHANIKAとなったその理由、その意義とは何か。
約14年ぶりとなる待望の新作「Chapter X」をリリースしたYOJI BIOMEHANIKAにインタビューを決行。

――今回、YOJI BIOMEHANIKAとして再起動することになったきっかけは?
もともとそれを封印したのが2007年だったと思うんですけど、そのときはハードダンスを世界に発信、確立して、自分の中でやりきった感があって。
さらには、僕の当時の特徴として、タフやハードな音楽の中にメロディアスなものが同居してるっていうスタイルだったんだけど、徐々に作りたいメロディがそのフォームにはまらなくなったんです。
そのときに、いわゆるトラックという部分と、音楽的なメロディを切り離したいと思って。

――両立できなくなった?
混ざらなくなったんです。それで、どうしようってなって、YOJIとBIOMEHANIKAを切り離した。

YOJIはあくまでダンスミュージックがメインのビルドなので、よりトラックという部分を追求。
BIOMEHANIKAはメロディだけを制作していこうと思ったんで。

――そこでYOJIが生まれたわけですね。
ただ、トラックを追求していたら、テクノに近いアプローチになっていって。
とはいえ、いわゆるピュア・テクノの人たちとはアプローチが違う。
だから、テクノとも言えないし、そこでYOJI=テックダンスという新しいキーワードが生まれたんです。

――そして、今再び戻ったわけですが……。
YOJIとして活動して、それはそれでまたやりきった感があったんですよ。
同時に、自分の欲求がメロディに返ってきた。となると、今度は逆にテックダンスのフォームにメロディがはまらない。
それで欲求不満になって戻ったって感じですね。
今はある意味、実験的なところも多いんですけど。

――それは、YOJIとBIOMEHANIKAの狭間で葛藤があるということ?
なおかつ、僕がテックダンスをやりながら歳を重ねる中でもハードダンスというジャンルは生き続けた。
今のハードスタイルも然りで、僕が作った土台の中で、若い世代がどんどん面白いものをデベロップし始めて、そこにすごく刺激を受けたんです。

それで、“俺がもう一度答えを出したろう”っていう気持ちが芽生えて。
YOJI BIOMEHANIKAとして、最初は何もないところから始めて、そこがやっぱり自分のアイデンティティやったんやなあと。
実際、やってみると気持ちよかったしね。

――ピュアな初期衝動みたいな感じ?
まさにそれ。
テックダンス後期は、窮屈なところもあって。だから今はものすごく自然体。
以前は自分でキーワード、ジャンルを発信していくべきだと思って、いろいろなものを提案してきたけど、そうすることで自分を縛り付けてたんですよね。

だから、今回は何も言わずにYOJI BIOMEHANIKA。
ただ、大きな括りとして“ビッグルーム”とは言ってますけど。

――今回、再起動にあたって周囲の反響も大きかったのでは?
これは、元に戻すっていう考え方でもないんですよ。音楽的にも過去に戻るわけではないし。
でも、名前を戻すと当時のサウンドを期待する人もたくさんいる。
今回は、残念ながらそういう人たちに向けてではなく、次のジェネレーションと一緒にやっていきたいんです。

古いものを期待している人たちにはどう響くかわからないけど、耳を傾けてもらえると嬉しいですね。
そこにはYOJI節というものも必ずあるので。

――時間がたてば音楽のトレンド、テクノロジーも進化しますからね。
特にダンスミュージックはテクノロジーの進化と同時進行なんでね。
あとは同じことをずっとやれるか!っていうのもあるよね。
いくら好きでも、毎日カレーを食ってられへんし(笑)。

――トレンドを意識したりは?
トレンドというより、かっこいいって思ったもんは自然に入ってくるっていうレベルですね。
商業的にこうしたら売れるとか、僕はできるわけじゃないんで。

――ただ、その中で“ビッグルーム”というのが絶えずあった?
基本、壮大なものが好きなんですよ。
テックのときはそうもいかなくて。ただ、そこで培ったスキルもあるし、僕の中では面白い期間だったと思います。

――たとえば、YOJI時代にいいメロディが浮かんできたらどうしていたんですか?
メモしてました。だから、今メロディは腐るほどありますよ。
アルバムがもう2枚作れるくらい(笑)。

――新生YOJI BIOMEHANIKAは、今作の冒頭“The Place For Freedom”に尽きる部分もあるのかなって思ったんですが。
そうであり、そうじゃない。
シングルとしてこの曲を出して、次に“Wake Up To Reality”。
全くスタイルが違う曲なんだけど、それが俺みたいな。
とにかく、今回はジャンルの定義もしたくなくて。

――確かに“Wake Up To Reality”はハードスタイルの今という感じで。
この2曲を出したときは面白い反響がありましたね。
“The Place For Freedom”は、YOJIがサブグラウンド(EDM)に向かうのは嫌だっていう人たちがいる一方で、新しいジェネレーションはすごく喜んでくれて。
次に“Wake Up To Reality”を出してみると、ハードなものに戻ってきたって喜んでるし。

個人的には微妙な感触ではあったけど、僕は自分の曲の中にはレトロな要素があると思ってるんです。
それは何かと言えばクラブミュージック。
僕はそのフェティッシュな部分を絶えず持っておきたいと思ってて。そこに気付いて欲しい。

今ってクラブミュージックっていうより、フェスティバル・ミュージックになってるし。

――規模感が大きくなった反面、失われたものもあると。
僕はロックを経てクラブミュージックにシフトして、そこはものすごく大事な部分なんですよね。

――今回はトランシーだったり、ハードスタイルだったり、EDM的だったり、様々な音楽が絡んでる。セクショナリズムとかまるで無視してますね。
それは今の僕がそうだから。多方向性というのかな……自然とそうなってしまったんです。
最終的にあがったら、いろいろなものが混ざってたっていう感じで。

――ちなみに、YOJIさんの中でEDMってどんな印象ですか?
日本ではうまく同居してないなって思います。
ヨーロッパは昔から、コマーシャルなものが好きな人、アンダーグラウンドなものが好きな人が不思議とうまく混ざってて、だからこそマーケットも大きくなったんですけど、日本はどこか偏ってる。

それぞれの曲にポリシーがあり、個性があるのに、それをただダメだって言ってしまうと良いものも見落としてしまう。
もう少しみんなポジティブに聴かないともったいないと思いますね。

――今作の中で興味深かったのが、“Look@The Heaven”のセルフリミックス。
僕はリミックスがあまり好きじゃなくて。やっぱり最初に作られたものがベストやと思うんです。
その中で、今回リワークをやったのは、今なおリクエストがあるこのアンセムを今のジェネレーションにそのまま聴かせたくなかったから。
それで、自然と触れることができたんです。

――一方で、ベースジャッカーズのリミックスも収録。その違いも面白いですね。
これは、彼らがこの曲をリミックスしたいって言ったんです。
僕がオランダでたくさんフェスに出てた時代に、彼らはお客さんとして遊びに来ていて、その中で印象に残ったこの曲をビッグスターになった今やりたいって言ってくれた。
それは嬉しいことやし、まさに時代の変化ですよね。

僕が残した遺伝子が育って、いま表舞台でやってる彼らと何か一緒にやりたいっていう気持ちはすごくある。
みんな息子みたいな年齢なんやけどね(笑)。

――あとは今回“Needs”のハウスミックスも気になりました。
この曲は、もとはテックダンスだったんですけど、作っていたときもハウスでやるべき曲だと思ってて。

――それが今回実現したわけですね。それにしても、ここだけ異質な感じが。
なんでやねん!みたいな(笑)。生まれて初めて(ハウスを)作りましたよ(笑)。
今までハウスを作ろうと思っても、最終的にそうなった試しがなくて。
ところが、今回はきっちりできた、自分でも驚きですね(笑)。

その曲のメロディというか、空気、匂いがどのフォーマットがしっくりくるか、それを頭で考えずにうまく進んだ結果です。
たとえば、トランシーな“Recovery”は、いろいろなパターンを作ったけど、やっぱりトランスが一番ハマったりして。

――“Recovery”は今作の中でも最も壮大な曲になってますね。
実は、この曲がアルバムの一番のテーマでもあったんです。
最初にこの曲を仕上げて、思いっきりメロディに戻すことができたので。

ただ、トランスかと言えばそうでもないし、ハードかと言えばそうでもない、僕はどこまでいっても混血。
かっこよく言うとハイブリッド。悪く言うとごった煮なんですよね(笑)。
でも、それが楽しいんです。

あとは、歳をとっても僕の目や耳は常に新しいジェネレーションに向いている。
そういった人たちのパワーに刺激を受けるし、本当に今の若い世代は面白いよね。

――そんな若い世代にアドバイスをするとしたら。
僕は小さいときから洋楽に親しんで、見よう見まねで音楽を始めたわけけど、男の子って“俺はもっとかっこいいことができるはずや”って、自分を誇示したくなるはずなんです。

僕はその延長線上で海外に行って、そこでは戦うしかない。それが結果的にええ方向にいきましたけど、今の若い子たちももっと“俺の方がかっこええのできるぞ”ってなんないかなと思ってて。

――男なら上を目指せと。
それが自然ですよね。サッカーやってたらプロを目指すように。
それが、ことダンスミュージックにはないような気がして。

――もっとエゴイストになっていい?
まさにそれ。
僕なんて、正直言えばDJで他人のヒット曲をかけるのも嫌。なんであいつの宣伝せなあかんねんみたいな(笑)。

DJってミュージシャンであるべきだと思うし、テクノロジーが進化してもっとイージーにライヴができるようになったら、僕は確実に全部ライヴにすると思う。

――最後に今後は?
もしかしたら、またある日YOJIになってるかもしれんね(笑)。

――BIOMEHANIKAになる可能性もある?
かもしれんね(笑)。そこは何の保証もないんですよ。
ただ、今回再起動してもう一度やっていく中で、僕は日本のダンスミュージックのマーケット、シーンを立て直したいと思ってて。

――確かに今がチャンスかもしれませんね。
チャンスと言えばチャンスですし、今やらないとって感じがする。
僕らは、現状に満足していてはダメなんですよ。

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YOJI BIOMEHANIKA
Chapter X
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