トランプ政権からイスラム最前線、ギャングスタに腹上死、シャーマンからマリファナ問題まで、日々世界中で巻き起こっている様々な事象に深く切り込み、ときに真摯に、ときに笑いを交え、独自の視点で世間へと伝えるアンストッパブルなデジタルメディア「VICE」。その定額制動画サービス「VICE PLUS」の開始にあわせ、2月8日に渋谷のSOUND MUSEUM VISIONにてローンチパーティが開催された。

そこに参加した面々と言えば、さすが“VICE”とも言うべき、平日にも関わらずシャーウッド&ピンチにビズ・マーキー、そしてザ・グラインドマザーと個性が爆発したカッティングエッジなラインナップ。

さて、まずは新たにスタートしたこの「VICE PLUS」。世間では定額制の映像コンテンツが雨後の筍のように生まれているなかで、VICEの冠を掲げているだけにかなり充実したコンテンツが見れそうだ。
なんでも、これが生まれる原点となったのはビョークやファットボーイ・スリム、そしてビースティ・ボーイズのMVなどで知られる映像作家スパイク・ジョーンズだとか(VICE「素晴らしい映像作品を 楽しむための予備知識」参照)。

数多の衝撃的な映像作品を残してきたかの奇才の名が挙がるあたり大きな期待を感じさせるが、「VICE PLUS」では特に“作家性”を軸にネットにおける動画の可能性を追求していくようだ。日々アップされる膨大なネット動画、その中には確かに超良質な、生活の糧になるものもたくさんあるが、クソな作品はそれ以上に多い。そんな中で目利きの優れたVICEチームがいかなるオリジナル動画を生み出し、はたまた世に埋もれた良作をセレクトしていくのか注目だ。

しかも、そのコンテンツも音楽イベントに特化したものやユーザー参加型のもの、さらには次代の映像作家を発掘&育成するためのプロジェクトも計画しているというのだから興味深い。

170208_viceplus_0008

実際、この日会場で目にしたVJビジュアルも海外ニュースから昭和の任侠映画まであらゆるものを組み合わせた、センセーショナルかつ既視感たっぷりの“どこからこんなカットを引っ張り出してきたんだ(笑)”的なインパクト大な映像が実に面白く、これを見ただけでもそのセンスの良さは充分に伝わってきた。きっと、今後もシャーウッド&ピンチのようにエッジーで、ビズ・マーキーのように愉快で、ザ・グラインドマザーのようにパンチの効いたコンテンツで視聴者を楽しませてくれることだろう。

さてさて、肝心のローンチパーティ。
まずステージに登場したのはカナダ発のおばあちゃんボーカルバンド、ザ・グラインドマザー。メンバーの実母(67歳)がボーカルをつとめるという超破天荒バンドなだけにグラインドコア・シーンでも話題の3人組。実際、そのライヴもとにかくパワフルで、でもちょっと笑えるあたりは「VICE PLUS」との親和性を感じるところ。

170208_viceplus_0057170208_viceplus_0065

続くはビズ・マーキー。硬派なヒップホップ界に笑いを持ち込んだ、いわば革命児的存在ではあるが、見る者全てを笑顔にしてくれる、エンターテイナーっぷりはさすがだった。誰もが知っているクラシックをこれでもかと詰め込んだステージは、全員での大合唱の多きこと。
ヒップホップ、ソウル、ディスコ、ロック、ブレイクビーツなど幅広いジャンルを即興で紡ぎだし、会場を見事にロックしていた。

170208_viceplus_0108170208_viceplus_0123

そして、壇上にはいよいよシャーウッド&ピンチ。2月24日に待望の新作「Man Vs. Sofa」をリリースする彼らは、もはや狂気的なほどにドープなスタートから4つ打ちに移行したかと思えば、またもやブリンブリンでズブズブな濃密世界へ。前作「Late Night Endless」と新作を掛け合わせたその世界観は終始会場を圧倒。

170208_viceplus_0195

ある種呪術的な、どこのサバトだ? というようなフロアを尻目に、ステージ上では踊るシャーウッドに冷静なピンチという、そのコントラストも面白かった。

とにかくダビーなめくるめく世界の中で、途中日本語の音声が流れたかと思えば、新作にも収録の“Merry Christmas Mr Lawrence(戦場のメリークリスマス)”のカバーでオーディエンスを驚かせる。その確信犯的なセットはいかにもシャーウッドがやりそうなところだが、見事にドハマり。
そして、その後も踊らせ、くゆらせ、昂らせる、圧巻のパフォーマンスで会場を盛り上げていた。

170208_viceplus_0189170208_viceplus_0192

何度も言うが、1日でザ・グラインドマザー〜ビズ・マーキー〜シャーウッド&ピンチという強烈なラインナップなんてそうはない(というか、見たことない)。もはやジャンルが違うとかそんな些細な問題ではなく、“いいものはいい!”“見たいものは見たいんじゃ!”というわがままジュリエットも黙る唯我独尊感。

とはいえ、その目利きが確かなものだからこれまた黙る他なく、きっと「VICE PLUS」にも黙って加入してしまうんだろうな……と思いながら夜の渋谷を後にした。

Photo by Mariko Kurose