ニッキー・ロメロ、DJ スネークなど名だたるトップアーティストが出演した『ULTRA JAPAN』の2日目。
その大トリを飾ったスクリレックスのパフォーマンスは、『ULTRA JAPAN』3日間のなかでも傑出したものだった。
ハウス~トランスとは異なるサウンドをメインにしながらも、凄まじい興奮と感動を生んだパフォーマンスを振り返る。

3日間にわたり、世界のトップアーティストが集結した『ULTRA JAPAN 2015』。
錚々たる面々による熱狂と興奮の連続のなかで、もっとも圧倒的でエンターテインメント性の高いパフォーマンスを見せつけたのが、2日目のヘッドライナーを務めたスクリレックスだ。

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ヘッドライナーが発表された当初、EDMシーンが根付いたとは言えまだ日が浅い日本に、スクリレックスは馴染むのか? という素朴な疑問があった。
スクリレックスは、これまでにグラミー賞を6度獲得。海外のビッグフェスではヘッドライナーを数多く務め、狂気的なパフォーマンスでその名を馳せてきた。
とは言え、日本にはEDMはエレクトロ・ハウスやトランスというパブリック・イメージがあるのではないか。

それとは異なる金属音にも似たハードコアなダブステップや、ぶっといベースラインが腹に響くラガなどがオーディエンスに受け入れられるのか。

結論から言えば、この疑問は日本のオーディエンスを見下したものとなり、世界最高のショウは国境や文化を越えるという事実を目の当たりにすることとなった。

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数万人ものオーディエンスがスクリレックスの一挙手一投足に対し、瞬時の反応を示した。
そこには楽曲やジャンルへの造詣の深さが的確に表れていたわけで、それゆえに想像以上の熱量を放つステージが実現できたと言えるだろう。

そして、スクリレックスの飛び抜けたエンターテインメント性。
つまりアーティストとオーディエンスの間で理想的なコミュケーションが行われていたのだ。
改めてスクリレックスのパフォーマンスを振り返ってみよう。

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ジャックUの大ヒットシングル“Take Ü There feat. Kiesza”のイントロとともに登場し、開口一番『ドウモアリガト!トーキョー!』と絶叫したスクリレックス。

この日、ニッキー・ロメロ、DJスネークというビッグネームのパフォーマンスで体が火照っているオーディエンスの心を掴むには、これだけで十分過ぎる効果を持っていた。

その後、すぐにアヴィーチーの“Levels”を不協和音で歪ませたような自身のリミックス、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした“Where Are Ü Now”、“Scary Monsters And Nice Sprites”と惜しげもなくビッグアンセムを連発するスタートに、数万人のオーディエンスが悲鳴にも似た絶叫をあげる。

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EDMの様式美とも言えるDJブースに上ってのダンスやマイクを使った煽りを要所々々で行いつつ、がっちりとオーディエンスのハートをわしづかみにすると、トラップ~ラガ中心のプレイに移行。

タフでバウンシーなビートに矢継ぎ早にマッシュアップをするハイブリッドなプレイスタイルは、混沌としているようで各楽曲のフックやメロディライン、イントロを効果的に構築しており、緻密に計算されていることがわかる。

そして、日本のオーディエンスを驚かせた(ややきょとんとさせたと言っていいかもしれない)のが、KOHHの“周り全部がいい”をかけた瞬間だろう。

「あれ、日本語の曲かかってない?」

そんな声が漏れてくる。KOHHはいまや邦ヒップホップ界でもっとも革新的なアーティストとして著名で、世界からも注目を集めている存在。
とは言え、まだまだ日本ではメジャーではない楽曲(しかも、今年6月にリリースされたミックステープ収録曲)をかけるスクリレックスの音楽造詣とサービス精神に頭が下がる。

終盤には宇多田ヒカル“PASSION”もプレイするなど “日本好き”という評判以上の、コアな通ぶりを発揮してくれた。

ただ単純に日本のヒット曲をかけるという安っぽいサービスではなく、90分の流れのなかでセレクトされたであろうこの2曲。
楽曲の知名度や唐突さもあり、オーディエンスの反応はやや「?」が浮かんでいたが、これがうれしくないわけがない。

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さらに特筆すべきシーンがふたつあった。
ひとつめは、オーディエンスに「Get Low」と呼びかけ、しゃがませた状態からブレイクの瞬間に全員が一斉にジャンプするという躍動感溢れる仕掛け。
そして、ふたつ目は、クライマックスでのスマホを使った幻想的な演出だ。
メインステージのライトが消されると、スクリレックスが「スマホのライトを点けてくれ!」とリクエスト。
これまでレーザーや炎が飛び交っていたド派手なステージは、一転してオーディエンスの携帯のライトのみとなる。

キャンドルナイトを彷彿とさせるロマンティックな“静”の瞬間。
そして、打ち上げ花火が夜空を彩り、再び“Where Are Ü Now”が流れ、迎えるラストは実に感動的だった。

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BABYMETALがサプライズで登場したが、この濃密な90分間、スクリレックスのアーティスト性を語るという主旨では、さほど重要なことでもなかったかもしれない(登場した瞬間は超はしゃいだけど)。

スクリレックスのパフォーマンスは、音楽的観点からも、エンターテインメントの観点から見ても、文字通り“世界最高峰”の内容だった。
そして、約3万人の日本人がこのサウンドに我を忘れて熱狂したという事実が、なにより喜ばしい。

最高の音楽エンターテインメントを体感できた幸運を噛みしめる。久々にそんなライヴを観せてくれた。

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