時代をサバイブする若きアーティストたちにフィーチャーする特集「U25」。
これまで多くの海外アーティストたちの今、そしてこれまでを切り取ってきたが、今回紹介するのは日本のハウス&テクノシーンの次代を担うSEKITOVA。10代からその将来を嘱望された逸材は果たして今何を思う……。

「AIの発達や政局の変動もあって、今後は何か世界規模のイベントの後に自分とは何か、感情とは何か、個性とは何かがより深いところで問われるようになってくると思います……」

日本のダンスミュージック・シーンに弱冠17歳という若さで颯爽と現れた彼もいまや 22歳。デビュー当時からストイックに自らの音楽を掲げるその姿勢にはどこか達観したところがあったが、改めて彼に話を聞いてみるとそこからさらに成熟し、今や大人の男となった印象を受けた。

母親がテクノのパーティのオーガナイザーという何とも現代的な家庭に育ったSEKITOVAだけに、ダンスミュージックの洗礼を受けるのもやはり早かった。12歳でダフト・パンクと出会い、中学生のころには当時最新のサウンドとして盛り上がっていたエレクトロ周辺サウンドをはじめ、様々なダンスミュージックに心を惹かれていたという。なんとも早熟なSEKITOVAだが、インターネットの発達がそれをより加速させた。やはりネットがキーになるのか……と思いきやそれは少々違うようだ。

「僕らの世代はネットは“活用”するものではなく、もっと自然に生活に結びついた インフラだと思います」

ツールではなくインフラというところが非常に興味深いが、彼ら世代にとってもはやネットは生活の一部。あって当たり前という感覚のようだ。とはいえ、ここ数年音楽に限らずあらゆるものがネット経由で世に落とされ、あらゆるプロモーションの場としても重宝されているが、彼は自らをアピールするための手段についてはどう考えているのか。彼は冒頭の言葉に続いてこう話してくれた。

「大衆の大きさは縮小する一方で密度は濃くなっているように感じますし、そこにわ かりやすい答えを設定してあげるようなプロモーションが効果的なんじゃないかと。 ただ、ペテン的だから僕はやらないけど(笑)。答えがないことの楽しさやその状況で選択肢を照らすような活動をしていきたいので。
そもそも、そういうのはプロモーションとは対極の位置にあって、効果的ではないかもしれないけどそこに効果を持たせるのが僕が人前に出る意味だと思うんです。しいて言うなら、自分に自信を持って人前に出ることが一番効果的なのかも」

自らの存在意義を世間と照らし合わせた上で導いたなんとも真摯な意見だが、その立脚点を自分に置いているところは、“個”や“アイデンティティ”を標榜する同世代と考えを共にしているようだ。ただ、彼の場合はさらに“アーティスト”であることが大きなポイントとなっていて、現代社会においてその活動を行う上での方法論についてもこう語ってくれた。

「役職や肩書きの中でどうというよりは、自分が自分としていかに全うできるかだと思います。ブランディングやマーケティングが先行すると、儲けることは可能でも絶対にアートとビジネスの間に歪みが発生する。ビジネスや社会のために自分がいるのではなく、自分のために社会があること、自分自身から出てきたものをビジネスにすることが大事だと考えているので、その主従関係は絶対に覆さないようにしています。
同時に“自分”のキャパを拡大していくことも大事。そうすればパフォーマンスやブランディング、それに活動形態も、好きなことをやっていても全て勝手に達成できるサイクルに入れると思います」

音楽におけるビジネスと芸術性の関係。それは単純に比例するものではなく、多くのアーティストがジレンマとして抱えていることだと思うが、彼は自身を高めることでそれを両立できると考えているようだ。

確かにそれは正しい意見だと思うが、その道のりは険しい。しかし、彼ならばと思ったことがある。それは今回取材した中でも最も印象的だったことなのだが、それを最後に紹介しておきたい。途中、尊敬しているアーティストについて聞いたときのこと、彼はKOMPAKTなどで活躍するドイツのデイヴDKを挙げてくれたのだが、もうひとりいた。その人物は意外にもとある格闘家だった。

「格闘家だけどミノワマンこと美濃輪育久選手。勝ち方、闘い方にこだわりがありながらも、そのためにがむしゃらにやる姿勢に影響を受けました。こだわりが見える瞬 間はそれがどこであってもアートになると確信してます」

冷静に世の中を見つめ、自分の立ち位置、ふるまいを考える知的でクールな感が漂う中で、彼の奥深くには燃え滾るような熱い心が宿っている。それは今後のシーンにとってきっと大きなプラスになるだろう。今の若いアーティストは得てして最新のダンスミュージックとリンクし、様々なサウンドを混在させた、いわばシャッフル感が個性として発露していることが多いが彼は違う。現代まで連綿と紡がれてきたハウス、テクノの系譜を丁寧に紐解きながら自分らしく表現する希有な存在だ。

ダンスミュージックがメジャーへと向かう中で、 アンダーグラウンドの最後の希望として邁 進するSEKITOVA。彼の双肩にかかるものは大きい。

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SEKITOVA
セキトバ
1995年生まれの新世代アーティスト。胎教にテクノを聴き、幼いころからダンスミュージックに慣れ親しんだ彼は10代でデビューし、17歳で脚光を浴びる。2013年には国内屈指のビッグフェス『BIG BEACH FESTIVAL』のメインステージ、翌年には『ULTRA JAPAN』など大舞台でプレイ。プロデューサーとしても2012年にアルバム「premature moon and the shooting star」をリリース。ハウス&テクノシーンの次代を担う存在として注目を集めている。