Mura Masa
選択肢はひとつしかなかった
孤立ゆえに生まれたハイブリッドな音楽性

muramasa
イギリス海峡のフランス領寄り、チャンネル諸島に位置するガーンジーは、英国王室属領ではあるが自治権を有した人口6万人程度の小さな島である。そこで幼い頃から様々な楽器に親しんだアレックス・クロッサン。
しかし、その地理的環境により“外”の音楽を実体験する機会は限られていた。彼がインターネットを経由して外の世界を知り、自らを外に発信していくのはごく自然なことだったと言える。

彼は“ムラマサ”の名で知られる弱冠20歳のアーティストだ。2016年の『フジロック』にも出演するなど、その名が世界に知れ渡ると同時に日本で一躍注目を集めたのは、その音楽性はもちろんだがアーティスト名によるところも大きい。
名前の由来は徳川家に仇をなす“妖刀”として知られる“千子村正(せんごむらまさ)”。本人がBBCのインタビューで語るには「ナイフでカットするような音楽」を求めているからだそうだ。村正は“妖刀”の代表格としてたびたび扱われてきたため、この名は日本にも親しみが、というより当初は日本人なのではないかと思われがちであった。

例えば、彼の楽曲“Love for That”では女性アーティスト“Shura=修羅”を起用し、“What If I Go?”では冒頭に日本のニュース報道の音声が使われている。節々からジャポニズムを感じ取れるのが大きな要因だ。
その音楽性はUK直系のダブステップやグライムの影響を色濃く感じさせながらも、心地よく歪んだトラップサウンドや尺八といった東洋の音色も取り入れられたキャッチーなもの。

彼は地理的に孤立した環境下にあったため、インターネットを通して知識を吸収するしか手段がなかった。その分、自らと向き合う時間は多かっただろう。そして、インターネットで発信をする。電脳上で始まったスタートがいまでは肉感を帯びたリアルな世界での活動がメインになっている。
この経験が今後彼の作品にどのような影響を与えるか注目したい。

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