ダンスとロックの架け橋はいまやその両岸を大きく飛び越え、新たな領域へと向かっている。新作「FROM DEEWEE」はまさにその端緒。自由でありながらある意味ストリクトな今作で、彼らは再び未知なる世界へと駆け出した。

その本質はさておき、マッシュアップなる手法で現在のエンターテインメント性豊かなDJスタイルの礎を築いたトゥー・メニー・ディージェイズ。彼らディワーラ兄弟が中心となり、それに先行する形で結成されたのがソウルワックスだ。

当初インディロックが主体であった彼らはトゥー・メニーの活躍もあり、いまやダンスミュージックとロック、双方の魅力を携えた希有なバンドとなったが、その進化はとどまることを知らない。
トゥー・メニーさながらの自由奔放なアティチュードはバンドという形態でさらなる発展を遂げ、新作「FROM DEEWEE」へと辿り着く。まだまだ底知れないポテンシャルを秘めた彼らの今を探るべく、今回は幸運にもステファン・ディワーラに話を聞くことができた。

ときに笑いを振りまきながらも、その言葉の節々には現行のシーンに対する様々な思いが……。

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ソウルワックスにおける
トゥー・メニー・ディージェイズの意義

——昨年リリースされた映画「Belgica」のサウンドトラックを除くと、オリジナルアルバムは約12年ぶり。この期間は何を?

アルバム以外のことを含め毎日違ったことに取り組んでいたから、それは決してモラトリアムというわけではなかったね。フリーダウンロードできるミックスを時間をかけて作ったり、ジェームス・マーフィーとサウンドシステム(デスパシオ)を手掛けたり。
あとはDJもしていたしね。ただ、リリースがなかっただけさ。この12年間、決して何もせずにYMOを聴きながら世界を旅していたわけじゃないよ。確かにそういうときもあったけど(笑)

——DJ活動というと、トゥー・メニー・ディージェイズの動きも活発でしたが、それはソウルワックスにとってはどんな存在?

関連はしているけど、全く別々のものかな。トゥー・メニー・ディージェイズは僕たちの好きな曲とみんなが踊れる曲をDJして、会場に来ないと観ることができないもの。そして、そこでは僕が手掛けたリミックスをかけることはあっても、オリジナルの曲はかけないんだ。つまり、ソウルワックスの曲をプレイすることもない。
一方で、今僕らは3人で音楽を作り、それを楽器で生演奏する。だからそのふたつは全然違うよね。でも、互いに影響しあっているとは思う。それがどれぐらいかと言われても困るけど(笑)。
DJから得られるもの、ライヴから得られるものはそれぞれあって、それは両方に影響しているよ。

一度限りの緊張感がもたらす
純粋無垢なフィーリング、瞬間の美学

——今作はワンテイクで録ったそうですが、それは最初から決めていたんですか?

アイディア自体は『Coachella』で浮かんだんだ。それから構想を練って、メンバーに相談して、それを実現させるべくセットとメンバーを考えた。その後でツアーに出て、同じセットとメンバーでレコーディングに挑んだんだけど……今回はとにかくライヴ感のあるアルバムにしたかったんだ。
最近はなんでもデジタルになって、どれもキレイに修正された作品ばかり。“これは生ドラムなんだ”って言っている音も何かしら手が加えられていたりしてね。

そんななか、今回はみんながひとつの部屋の中で一斉に音を鳴らすことでどんな感覚になるのか……そうツアー中に思ったんだ。ステージ上でドラマー3人の息が合っていたりすると、それが他のプレイヤーにも影響していたからね。

今回のレコーディングは2日間で13〜14テイクを収録して、その中からワンテイク選んだんだけど、その選定の作業が一番難しかったかな。一曲は驚くほどよくできたのに、他がダメだったりしてね。でも、ありのままのフィーリングを届けたかったから、あえてワンテイクっていう制限を設けたんだ。

——もしもそこで何かミスがあった場合、どうするつもりでした?

う〜ん……とにかく弾き続けたかな(笑)。僕らはレコーディングの一週間前に死ぬ気でリハーサルをして挑んだんだ。正直なところ間違いがあったり、マイクの音とか雑音も入っちゃっているんだけど、僕はそれも今回のアルバムの感情のひとつだと捉えている。幸いにもそんなに大きなミスはなかったしね。
もし何か問題が起きるとしたら、それはきっと機材トラブルかなって思ってた。なぜなら、今回はものすごく古い機材を使っていたからね。

——それもあなたたちの希望だったんですよね。昨年の夏に行ったライヴと同じ機材、同じセットでやることが。

実はツアー中からいつクラッシュするかわからなくて、内心ヒヤヒヤしていたんだ。今考えれば問題なくて本当によかったよ。僕らの音楽には古い機材が重要で、だからこそレコーディングも同じセットアップでやりたかったんだ。

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——メンバーもライヴと同じ顔ぶれを揃えていましたが、そこにはいろいろなジャンルのミュージシャンが参加していましたよね。それは様々な音楽性を取り入れたかったから? それとも能力的なことや相性のよさで選んだんですか?

その全てかな(笑)。みんな素晴らしいアーティストでありながら、それぞれ違う魅力を持っているからね。
そして、もうひとつの大きな理由は今までソウルワックスは男臭いバンドだったから、女性らしい要素を取り入れたかった。今回は女性のドラマーも参加しているんだ。ただ、ドラムに関しては僕らがすごくこだわっていたから、参加した3人のドラマーはソウルワックスのことが嫌いになってしまった時期があったかもしれないね(笑)。
今となってはツアーでまわった数ヶ月間が準備期間としてあって本当によかったよ。

——ズバリ、今作のコンセプトは?

ひとつの部屋に3台のドラムと3つのミキシングボードがあり、メンバー全員でワンテイクで録る。それが今回僕らが設けたルールであり、コンセプトでもあるんだ。僕はそれがオリジナリティを生んだと思ってる。そうしなかったら、曲を作り終えた後も半年くらいはいろいろと手を加えていただろうしね。

実は今回のアルバムはまだしっかり聴いてないんだけど(笑)、ちょっと聴いた感じでは“あそこはもう少し違う感じにすればよかった……”って思ったこともあった。でも、僕はそれがいいところでもあると思ってる。レコーディングしたものをそのまま収めることで、そこには瞬間的な美しさが存在しているからね。

これまでのあらゆる経験を活かし
まるでひとつのミックスのような1枚に

——ワンテイクのライヴ感に加え、今作はどの曲も展開が大きく、それでいてスムーズ。聴くものを飽きさせない魅力がたっぷりでした。

たぶん、それはDJやプロデューサー、それにリミックスやサントラとか、いろいろとやってきたことが全て反映されているからだと思う。音楽はクリエイティヴでないといけないし、僕にとって全ての活動はひとつのルールに沿っているんだ。

僕ら自身、毎回最初はどんな作品ができあがるのか想像できないんだけど、たまに自分たちが作った曲に対してビックリすることがある。“本当にこれを作ったの!”ってね(笑)。そして、そのプロセスの中で起こる驚きがすごく楽しいんだ。それがあるから今も作品を作り続けているんだと思う。

——今作のめくるめく世界観にはまるで別次元に飛ばされたような感覚を覚えました。

ホントに! 僕自身、誰かを別次元に飛ばすことができるなんて思ってなかったからその言葉はすごく嬉しいよ。

——なかでも印象的だったのは“Is It Always Binary”。冒頭からしばらく続くドラムに心揺さぶられました。

僕もこのトライバルなドラムパターンが大好きさ。実はね……これにはインスパイアされたものがあるんだ。それは以前ボアダムズのEYEがやった70台以上ものドラムキットを使ったライヴなんだけど、彼がそんなにもたくさんのドラムの指揮をとったことにすごく興味が沸いてね。でも、僕らはステージでそんな実験をすることはできないから、今回は3つのドラムの指揮をとれるか試してみたかったんだ。さらには、そのアプローチを僕らの曲と合致できるのか、そこにチャレンジしたくてね。

——7曲目の“My Tired Eyes”ではそれまでとはテンポが変わり、また違った世界観を醸し出していましたけど、今回のアルバムの流れで意識したことは?

特定のテンポからスタートして、そこから徐々に上げていこうと思ってた。そして、最初から最後まで聴いてほしかったから、テンポ感は常に意識していたね。

今回は新幹線や電車とか、移動中に変化する世界を感じながら聴けるものだと僕は思ってる。ちなみに、曲の順番を考えるときは楽器同士の相性やテンポ、いろいろなことを考えながら流れを作っていったよ。

——今作はアルバム全体がひとつの曲のようでした。冒頭の“Masterplanned”〜“Missing Wires”の繋ぎはまるでミックスしているようで、アウトロとイントロは特に気を遣っていたのかなと。

あたり! すごく気を遣っていたよ。それは意識的にやったことなんだ。曲を書いてミックステープにして、それを生で演奏する、そんな感覚だったからイントロとアウトロには力を入れたね。

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自由を謳歌する彼らから見た
ダンスミュージック・シーンの現状

——今作の中で唯一の4つ打ち曲“Trespassers”。これも他の曲とは違った緊張感があって印象的でした。

この曲はアルバムの中で最も90年代っぽい曲だと思ってる。すごくエモーショナルな曲で、僕ら自身この曲ができたことには本当に驚いたよ。4つ打ちなんだけどビートを刻んでいるように感じないのは、ドラマーのヴィクトリアがとてもソフトに、そしてフェミニンに叩いてくれたからさ。この曲はみんなを踊らせようというより、言うなれば悲しいダンスソングだね。

——ちなみに、最近のダンスミュージック・シーンにはどんな印象を持っていますか?

正直ワクワクしているよ。決して否定的には見ていない。でも、思い起こせば、音楽を始めたころの僕らはインディロック・キッズだったんだ。その後DJを始めて、いろいろな活動をする中でも僕らはやっぱりインディロックをかけ続け、それをエレクトロニックミュージックとミックスしているんだよね。
そこでクールだなって思うのは、自分たちがミックスした曲のリアクションをすぐその場で見れたこと。きっと、レゲエとかもそういう風に作られていたと思うけど、観客のリアクションを見て曲の良し悪しを計れていたんだ。
僕らも15年前ぐらいまではそうしていたんだけど……そのころからすれば、ダンスミュージックは大きく変化した感じがするね。

——それはどんなふうに?

すごくコマーシャルになった面もあれば、一方でエクスペリメンタルにもなったよね。それに、たくさんのサブジャンルができた。それはそれでエキサイティングなことだと思うけど、僕は今リスナーがジャンルを選りすぐっている時代になってきている気がする。たとえば、テクノだけが流れているクラブに行くとかね。そうやって何か特定のものを選んでいる人たちが増えている感じだね。

僕らが遊んでいた時代は、そんなルールがなかったから楽しかった。そもそもトゥー・メニー・ディージェイズもソウルワックスも、そういうルールを壊したかったんだよね。ザ・ストゥージズも聴くし、エイフェックス・ツインも聴く、それの何が悪いんだってね(笑)。
とにかく、今のダンスミュージックは細かいサブジャンルに分かれていて、逆にまた垣根のようなものができてしまったよね。

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今作に必要不可欠だった
新たなヘッドクォーター、DEEWEE

——アルバムの話に戻りますが、今回の歌詞は全体的にメッセージ性というよりも、その世界観を強化するような感覚的なワードのように思いました。作詞に関してはどんなことを意識していたんですか?

実はほとんどの曲には意味がある。たとえば最後の曲“Goodnight Transmission”は口からでまかせみたいな曲だけど、それが真実というか……。そこに歌詞として出てくるワードもランダムだったりするんだけど、僕らにとっては大きな意味があるんだ。
ただ、それが他人には伝わりづらいだけ。それを説明するのは難しいし、一曲一曲その内容について解説することもできないけど、どれもすごくパーソナルなメッセージが詰まっているのは確かさ。

さっき話にあがった“My Tired Eyes”もすごくシンプルで、そのときは本当に目が疲れていたんだ(笑)。長時間仕事をして疲れて帰ったときに、その疲れがだれにも理解してもらえなくてね。そういった瞬間のこと、さらには自分の日常生活や人間関係の中で感じたこと……他人には他人の、人それぞれの時間が流れているんだな〜って突然気が付いてね。そういったメッセージが歌詞の言葉の中に隠れているのさ(笑)

——あとは気になったのがジャケット。ソウルワックスにしろトゥー・メニー・ディージェイズにしろ、毎回興味深いアートワークが施されていますが、今回のデザイン、この頭らしきものが意味するのは?

これは“バイノーラルヘッド”というマイク。音を実際にその場で聴いているように立体的に録れるというものなんだけど、僕らはこれが本当に大好きでさ。今回のレコーディングでも使っていたんだ。

——では、タイトル「FROM DEEWEE」の意味は? これはあなたが主宰するレーベルDEEWEEと関係がある?

関連はしているね。というのも、僕らが建てた建物が“DEEWEE”って名前なんだ。この12年の間にベルギーにDEEWEEを建てて、スタジオもその中にある。いわば、僕らのヘッドクォーターとなる場所だね。

ちなみに、これは日本の建築からインスピレーションを得て建てたんだよ。このアルバムをレコーディングしたのもそこ。だから、このタイトル以外は考えられなかったんだ。
正直、DEEWEEがあったからこそ完成させることができたと思う。もしもなかったら、完成するのは不可能だったかもね。

——アルバムのリリース後にはすぐにツアーが始まりますね。

アルバムが出た後は少なくとも1年間はツアーに出たいと思ってる。それで、1年後にもう一度今回の楽曲を演奏してみて、どう変わっているのか試してみたいんだ。
たぶん、そのときも今回とは違った形で録音をして、そこからまた違う作品を作るかもしれないね。

——そのツアーでは日本にも来てくれるのでしょうか?

僕らは日本が大好きで、日本の大ファンでもあるんだ。すごくたくさんのことに興味があるし、最近では日本の地理も少しわかってきた。だから、何か理由さえあればすぐにでも日本に行くつもりさ。
その理由もなんでもいいんだ。たとえば“ギグにブッキングしたいんだけどギャラが払えない……その代わりに僕の家に泊まっていいよ!”なんてオファーでもね(笑)。

とにかくきっかけさえあればすぐに日本に飛んでいく。そして、いつか日本でアルバムをレコーディングしてみたいね。

Photo: ROB Walbers

CD
Soulwax 
「FROM DEEWEE」

Play It Again Sam / Hostess
4月5日発売