日本発の音楽として、海外でも支持を集めるゲームミュージック。
そんなゲームサウンドの作曲家たちに焦点をあてた連作ドキュメンタリー「Diggin’ in the Carts」(→外部リンク)が、今年10月から6週間かけて公開されてきた。
そのドキュメンタリーによれば、ひと昔前までのレトロゲーム機ではハードウェアに由来する制約が大きく、その縛りの中でサウンドをデザインするうち多彩な表現が生まれていったという。
そして本作を受ける形で、東京に初上陸した音楽学校『Red Bull Music Academy』の一環で、11月13日にはWOMB LIVEでイベント『1UP: Cart Diggers Live』が開催された。

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ここでは『MOTHER』『メトロイド』『ドンキーコング』といったゲームを担当したゲーム音楽界のレジェンドCHIP TANAKAをはじめ、3月の初来日も話題を呼んだエクスペリメンタル・ミュージックの注目株:ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーや今年レーベル10周年を迎えたHyperdubでも活躍するクウェート出身のアーティスト:ファティマ・アル・カディリ、エレクトロユニットDUB-Russellらが出演。
レトロなピコピコサウンドと最新のアーティストが激突した本イベントの見どころを振り返ろう。

ホログラムの初音ミクとDUB-Russellが競演
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DUB-Russellが即興で作り出す、時にノイジーで尖った音の洪水にとにかく圧倒されたが、VJも強烈な印象を与えてくれた。DJブース前に設置された白い棺のような立体プロジェクションシステムは、VOCALOID初音ミクを手がけるクリプトン・フューチャー・メディアの技術研究部:ラボプトンが開発したもの。投影されたミクが寸断されるような映像と激しいブレイクビーツ交じりのサウンドが融合し、開始直後から打ちのめされた。ゲーム音楽と初音ミクに何の関係があるんだ?という気もしないではないが、これが見れたのはラッキー、そう思わせてくれる鮮烈なパフォーマンスだった。

代表作を織り交ぜた確かなプレイで圧倒
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続いて登場したのはCHIP TANAKA。キックをガンガン利かせつつ、中~高音域ではピコピコな8ビットサウンドを乗せながら、ときにメロウに、ときにジャジーにと、熟練の手際でフロアをコントロール。ラストには『スーパーマリオランド』のBGMを披露し、オーディエンスを沸かせていた。また、チップチューンアーティスト:YMCKのNakamuraが担当したVJはプリミティブなドット絵で表現されており、黎明期のゲームへの多大なリスペクトが感じられた。

耽美で退廃的な音像を披露
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『悪魔城ドラキュラ』は史上最も美しいゲーム音楽のひとつ――前述のドキュメンタリーでそう語っていたファティマ・アル・カディリ。砂嵐を映したブラウン管に囲まれながら、自身の未発表音源やビデオゲームのBGMをプレイ。壮麗さの中にどこか寂しさのある教会音楽じみたサウンドで、Forgotten Worldと題した世界観を表現していた。

OPNは弾幕シューティングをフィーチャー
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トリを務めたのはエクスペリメンタル~アンビエントといったフィールドで注目を集めるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下、OPN)。過去のインタビューでは、ヴィジュアル的にもサウンド的にもマニック・シューターが一番好きなゲームだと語っていたOPN。
マニック・シューターとは90年代に日本で誕生したシューティングゲームのジャンルのひとつで、多すぎる敵弾を掻い潜りながらステージをクリアしていくストイックなゲームだ。日本では弾幕系シューティングと呼ばれている。

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今回OPNは、『怒首領蜂』シリーズや『ケツイ ~絆地獄たち~』などで知られるコンポーザー・並木学へのトリビュートを敢行。ステージには縦長のディスプレイが2つ設置され、実際のゲームのプレイ映像を流しながら、ゲームのサウンドトラックをOPNがミックス。メロディアスなトランスやテクノを基調としたサウンドにサンプリングした爆発系のSEをたたみ掛けるような高密度で重ねてオーディエンスを圧倒していた。
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これはまだ入り口に過ぎない
今回参加してみて感じたのは、客層の多様さだった。古参のゲーマーやクラブ音楽の愛好家、若手のボカロファン。中には掛け持ちしている者もいるだろうが、ゲームに登場するクラブサウンドを入り口にクラブに通いはじめる、あるいは音楽を入り口にしてゲーマーになっていく。どんなカルチャーもビギナーが流入しないことには衰退していくばかりなわけで、別のジャンルやカテゴリとクロスオーバーしながら、次の世代を担う新星がどんどん出てきてくれれば幸いだ。