『アーカイヴという言葉は未来を示唆している
今だけの音楽ではなく、オープンフォーカスな視点で聴ける作品』
——カールステン・ニコライ

11月2〜4日にかけて開催されたモントリオール発祥のメディアアートと電子音楽の祭典『MUTEK.JP』。
前回のレポートに続き今回は、レッドブル・スタジオ東京で行われた、レーベルRaster-Notonの20周年を振り返るパネルディスカッションの模様をお届けする。

世界最高峰とも言われる実験音響レーベルの中心人物カールステン・ニコライとオラフ・ベンダーの2人が、これまでストイックに追求してきたクリエイティビティにおける美学を語ってくれたのだが、まずはレーベルの正式名称「raster-noton | archivefür ton und nichtton」(ドイツ語で音や音でない物のアーカイブという意味)について。
「アーカイヴという言葉は未来を示唆している。その時だけ聴かれるような音楽ではなく、15年後でももっと広いオープンフォーカスな視点で聴ける音楽という意味だよ。
20年前この名前をつけたのは小さなマニフェストだ」
(カールステン・ニコライ)

g_20161103_0170

そしてカールステンはさらにこう続ける。
「クラブとアートシーン、ギャラリーとの間にいるような活動をしたいと考えてきた。例えばインスタレーションがあり、本があり、クラブでのショウケースがあってそれらのコンビネーションでパノラマに表現している」

彼らのアウトプットはいつも形を変え、受け手に斬新な印象を与える。だからこそエッジーに映り、強い憧憬を抱かれ続けてきたのだがその背景にはこんな理念も。

「重要な点はフィジカルオブジェクト。最近のデジタルミュージックは触覚という情報がない。僕らはデジタルで作品も作っているが、物の触覚を大事にしたいんだ」(オラフ・ベンダー)

h_20161103_0155

彼らが20周年に節目に発表したインスタレーションの中に “ホワイトサークル”というアートフォームがある。
100本のネオン管が円を描くように設置されており、それらが音にリアクトする。オーディエンスはその連なったネオンの柱の中を歩きまわりながら、シンクロする音と光の動きを体感するものだ。

「初めは観客たちが参加できるような環境を作ろうというのがきっかけだよ。それをライヴパフォーマンスとは違う形でやろうと思ったのが着想の始まりさ」(カールステン・ニコライ)

「新しいテクノロジーを使って色々やってきたけど、今回はあえてネオン管を使った。それは、新しい未来的なテクノロジーを使ってしまうと観客たちはそこに集中してしまうから。
そうじゃなくて、音楽と光というものに集中してほしくてオールドスクールな手法を選んだ」
(オラフ・ベンダー)

Raster-Notonというレーベルは、今の時代には珍しくストイックに美学を追求している。そこに商業的な戦略を感じることは一切ない。プロダクトにこだわり続ける彼らの理念をこう語った。

「私たちにとって一番重要なエネルギーはゼロバジェット(予算なし)。バジェットがないところから始まり、デザイナーやミュージシャンとか、プロデューサーなどのアーティストの個人的な繋がりから共作やコラボレーションが生まれていく。
それはコマーシャルな繋がりとは違って、クリエイティブな思想から始まっている。そのマインドがRaster-Notonのクオリティをとても高いものにしているし、強いては私たち自身がやりたいことをやっているというのが重要なんだ。Raster-Notonはファミリー・ビジネス(家族経営)のようなものなのさ」
(カールステン・ニコライ)

Photo By : STROROBO / Ryu Kasai

EVENT INFORMATION

MUTEK.JP

2016.11.2-4(WED-FRI)

WWW / WWW X / レッドブル・スタジオ東京

ALVA NOTO, ANNE-JAMES CHATON, BYETONE, DASHA RUSH, ENA, HERMAN KOLGEN. INTERCITY-EXPRESS, MAOTIK & METAMETRIC, MARTIN MESSIER, MAX COOPER, MIDNIGHT OPERATOR, PHEEK, ROBERT LIPPOK, ROBIN FOX, SHINGO SHIBAMOTO × MMM, UENO MASAAKI

インフォメーション