今年は6日間に渡り、計40万人もの人が熱狂した『Tomorrowland』。並みいる世界的スターがラインナップされるなか、今年はそこに日本が誇るテクノゴッドKEN ISHIIも出演。

今回本誌では帰国後すぐの彼にインタビューを実施。世界最高峰の祭典の様子をたっぷりと伺いつつ、最後には世界を知る賢人から若きアーティストへのメッセージも。必読!

圧倒的なスケール感の一方で細部にまでこだわる世界一の神髄

——『Tomorrowland』どうでした?

僕自身初めてだったんだけど、あの規模感は本当にスゴいよね。会場内を全てまわるだけでも結構な時間がかかるし、それぞれのステージを見ていても、とにかく作りがスゴイ。細部までこだわっていて。

——たとえばどんなところが?

スケールの大きさもさることながら、よく見るとひとつひとつのパーツが細かく動いてるんだよね。裏から見ると全て独立したプログラムで稼働していて。正直、遠目からはわからないような所までこだわってる。しかも、それはステージだけじゃなく、通路までオーガナイズされ、全て世界観が統一されている。なかでも驚いたのは大きな池にかかっている橋なんだけど……。

——そこには何が?

みんな下を向いて歩いているから何かと思ったら、その橋を形成する1枚1枚の板に子どもを中心に寄せられたメッセージが掘られていたんだ。予めメッセージを送るとそこに刻んでくれるらしくて。その橋も100mとか200mもあるのにさ。そこまでやる感覚、最高のフェスって言われている所以がわかるよね。

——造作以外で感じたことは?

お客さんを快適に楽しませようとする意識も高かったね。トイレも女性が気兼ねなくメイクできるように大きな鏡が立てられ、フリーのデオドラントなんかも用意されていて。しかもそれも全部『Tomorrowland』仕様。全てがブランディングされていたね。

違った意味で『Burning Man』のような独特な世界観のフェスもあるけど、普段はまじめなベルギーが行政も後押しして最高のものを作り上げようとしてる。その一歩先を走っている感はスゴいと思った。

楽しむべきは出演者よりも観客経験者が語る知られざる裏舞台

——ステージはどんな感じでした?

EDM中心のメインステージが屋外にあって、セカンドが室内でトランス。三、四番目は大差なく、僕はそのテクノ・ハウスのステージでプレイしたんだ。

そこから徐々に規模は小さくなり、最小はそれこそキャパ20人ぐらい。“THE RAVE CAVE”という倉庫みたいな場所なんだけど、そこもちゃんとプログラムの中に入っていて地元中心のラインナップだったけど踊っている人もいて。それもまた面白いところだよね。

——みんなビッグスターだけを求めているわけじゃないんですね。

コマーシャルなメインストリームがありつつ、アンダーグラウンドなものもしっかりとカバーし、受け入れている。そして、メイン以外のステージやアーティストを決して軽視せず、リスペクトしているのを感じたね。だから、不満が一切出ていないんだ。それはアーティストもお客さんもね。

——マイナスな要素が一切ない?

唯一気になるのは天気かな。ベルギーは快晴の日ってほとんどないんだ。僕が出演した日も夕立があって、ときには嵐のように激しいときもあった。僕のプレイ中も夕立があったし、それだけはしょうがない。

——ちなみ……出演者へサービス、おもてなしとかもスゴいんですか?

実のところ、それはそこまでだったと思う。アーティスト用のテントやバー、ケータリングとかはあるんだけど、なにしろ出演者が多いから。それに、みんなアーティストエリアに必ずしもいるわけじゃないみたいでさ。プレイ以外はホテルにいる人も多いようだったね。

アーティストエリアのバーもバックステージも普通だったけど、かといって不満があるわけじゃない。どちらかと言えば、より楽しんでいるのはアーティストよりもお客さんなんだろうね。

——そのお客さんの雰囲気は?

ステージが16カ所あって、それ以外にもバーやフードも充実しているし、みんなそれぞれ好きに楽しんでるようだったな。

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世界中の人間がひとつになるダンスミュージックの偉大さを体感

——参加する前と後では『Tomorrowland』に対するイメージも変わりました?

ずいぶん昔にメガ・ダンスフェスティバルの走りでもあるUKの『Creamelds』に出たことがあるんだけど、当時1日6万人ぐらい入ってたかな。規模感も大きくどのステージも盛り上がっていたけど、それはどうしてもロックフェスみたいな感じで雑多感があったんだ。
でも、『Tomorrowland』は違う、全て世界観で統一されていて、あらゆる面において進化してるなって感じたね。

——やはり一度は行くべきなんですね。

会場には日本人もいた。ベルギーの友だちはチケットがとれなくて困ってるって言ってたけどね。彼は5年間パソコン10台使って申し込んでも一度もチケットを手に入れたことがないらしい。それぐらい貴重なものだから、興味があるなら行けるうちに行った方がいいと思う。

世界中から多くの人が同じ目的のために集まり、本当に開かれた感じが素晴らしい。ベタだけど、ダンスミュージックがあれば世界中の人間がひとつになれるのかなって思ったよね。

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ネームバリューに関係なく純粋に音で勝負できる絶好の大舞台

——そんな『Tomorrowland』でプレイしてみていかがでした?

今回僕がプレイしたステージは大きかったから、リアルな話をすればみんなガンガン踊ってるんだけど、ブースから見ると大きな塊にしか見えなくて(笑)。予め関係者から、ステージが多いから厳しい話つまらなかったらみんなすぐに移動するぞって言われ、かといってもうどうしようもなかったんだけど、プレイ自体は思ったことができたし、リアクションもよかったと思う。

——やっぱりジャッジは厳しいんですね。

みんなそう言ってたね。しかも、会場内はひとつひとつのステージが近くて移動がしやすいんだよね。それなのに音が混じらないようになってるのもスゴいんだけど。

——セットはいつもよりもアッパーに?

それは当然。(テンションの)高いところから始め、さらにアゲて。フェスってそういうものだから、いわゆるクラブで全員の意識が自分に向いてるときとは違うよね。

——ヨーロッパはハウスやテクノの人気も高いですよね。お客さんの反応も違う?

僕の前がCharlotte de Witteっていうベルギーの女の子DJで、現地のアイドル的存在だったんだけど、プレイは結構渋くてさ。フロアもすごくいい感じで、お客さんもそれぞれのDJを楽しもうっていう姿勢をすごく感じた。インターナショナルなビッグネームが世界中から集まる中で、あえて20人ぐらいのステージで踊っていたり、ベルギーのアンダーグラウンドのテントも常に数百人は入っていたし、普段から見ているアーティストを楽しむ人も多い。ある意味みんなフラットなんだよね。いいものはいい、好きなものは好きって感じで。

——それはアーティスト冥利に尽きますね。

フェスもビジネスだし、エンターテインメントだからネームバリューは重要だけど、アーティストにとっては音そのもので評価されるのは嬉しいよね。お客さんも最初は興味がなかったとしても、よければ体で表現してくれるし。

あと、今回ステージを見ていて思ったんだけど、観光客向けのディスコやモールとかでかかっているようなヒット曲を作っている人間がメインのステージでやっているんだよね。それぐらいみんなが知っているからこそヘッドライナーなんだなって。いわば、ヒットメイカーでもあるんだ。もちろんアンダーグラウンドのスターもいるけど、メインで活躍するのはラジオやテレビの延長なのかもしれないね。

——印象に残っている出演者は?

いい意味でというか……あるDJがセカンドのステージでプレイしていたんだけど、ステージ上でフリ付きで踊り、フロアにいる観客も真似してて。それも1万人ぐらいの人がね。パラパラ的なものって世界にもあるんだって知って、かなり新鮮だった(笑)。

ヨーロッパのお客さんってクラブではDJの方を見ず、好きな方を向いて踊っているんだけど、そこは全然違ってさ。でも、そうやって多様性があるところも魅力だと思ったし、アーティストも誰でもスターになれる可能性がある、そんなことを改めて思ったね。

ベルギーだからこそ生まれる魅力、日本での開催は……

——会場内はいたってピースな感じ?

お客さん同士が仲良くなっていたよね。平和っていう部分で言えば、実はベルギーはテロが多発していたから、ちょっとセンシティブだったんだ。フェスなんて格好の標的でもあるわけで。でも、その分セキュリティはかなり厳しくやっていたから何の問題もなかった。

出演者でさえ金属探知機のチェックは入念で、何段階もチェックがあった。ただ、そこでも高圧的な部分はなくすごくにこやか。『Tomorrowland』の世界観や楽園で楽しむイメージを壊さないような気配りがされていたんだよね。

——日本ではできないですかね……。

正直、無理だと思うよ。個人的には日本でできないからこそ面白いっていう部分もあると思う。何でもいたずらに持ち込めばいいってものでもないしね。世界は広いんだから、みんなもっと海外に行くべきなんだ。世界を行き来して、いろいろな経験をした方が人生楽しいし。『Tomorrowland』もベルギーでやるからこそ楽しいんだよね。

——ベルギーって行きづらくないんですか?

全然。直行便もある。ベルギー自体、非常にいい国だよ。僕がデビューしたのもベルギーで縁が深いこともあるけど、ひいきめに見ても日本人は打ち解けやすいと思う。それは国民性や国の落ち着き具合、生活水準も文化レベルも高いし。控えめ感というか日本の奥ゆかしさに通ずるものがベルギー人にもあると思うね。ただ、それはフェスやクラブになると全然ないけど(笑)。あとはなんと言ってもビールがウマい!。

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若きアーティストに贈る金言大成したいなら世界を目指せ!

——ここ最近はEPを3枚出したり、活動が活発ですね。

制作に関しては、正直に言えば単純に活動していることをアピールしたい。僕は今も変わらずプロデューサーだと思ってるしね。基本的にリリースがなくても作品は作り続けているんだ。

DJはDJでエンターテインメントとしてやりつつ、アーティスティックな部分やクリエイティブな側面もキープしたい。今後も細かいリリースの予定があるし、リリースのタイミング待ちの作品も結構ある。アーティスト性を示す意味ではアルバムが重要だと思うけど、それも来年には出せればなって思ってるよ。

——2018年はデビュー25周年ですしね。

そうだっけ(笑)。来年は来年でいろいろと企画していているよ。

——世界を体感しているISHIIさんから見て、今の日本のシーンはどう映っています?

テクノに関して言えば、正直あまりよくない、個人的には耐え忍ぶ時期なのかなと思う。そんななかで、僕らアーティストは継続して活動し続けることが必要な時期なんだろうね。ヨーロッパやアメリカも少し前は低迷していた時期があったわけで、そこから盛り返し、今はフェスだけじゃなくクラブも活気づいているんだ。ビジネス的にキツイ時期も、アーティストがクオリティを持続していればお客さんは戻ってくることが証明されているんだよね。

そういう意味では、日本にも期待してる。いずれにせよ、一度行ききると下がるのは仕方ない。かといってクラブで遊ぶことがつまらないのかと言えば違う、絶対面白いことだから。そこはいずれみんなわかってくれると思う。

——では、若いアーティストはどうするべきだと思います?

ヨーロッパでもそうなんだけど、どの国もみんなにチャンスがあるかと言えばそうじゃない。自国で努力して世界に羽ばたく人もいれば、実は他国でチャンスを掴む人も多いんだ。

ベルリンにしても名前を上げに世界中からアーティストが集まってる。彼らは自国のシーンが小さいから、チャンスがある国で挑戦してるんだ。日本人はそういったことが苦手かもしれないけど、自分に才能があると確信しているのにチャンスがない、場所がないと思うなら、そこにいるべきじゃないと思う。

そういった環境にあえて身を置き、そこから這い上がっていくことももちろん美しいし、素晴らしいことだけど、本気でアーティストとして大成したいなら、海外に行って試すべきだね。

——実際ISHIIさんもそうですよね。

当時の日本のシーンは小さかったからね。テクノのパーティなんかほとんどなかったし。今は特にそういった飛び級的なことがしやすくなったと思うよ。

——ネットが普及し、海外とダイレクトでコンタクトできるようになったり。

そういったことは実際に多いと思うけど、そこから次に繋げることが重要だよね。ヨーロッパは遠いかもしれないけど、その距離感さえカバーすれば、シーンが活況な国はたくさんあるし。行ったら行ったで別に日本に戻らなくてもいいとも思う。稼げない国にいるより、稼げる国で上にあがっていけばいいわけで。

特にアンダーグラウンドなジャンルのアーティストは、世界的にはそれがスタンダード。以前聞いた話では、スウェーデンからアーティストはたくさん出ているけど、誰ひとり自国でプレイしないらしい。なぜなら稼げないし、生活できないから。みんな海外で稼いで、自国ではただ住んでいるだけらしいよ。

アダム・ベイヤーともそういった話をしたことがあるけど、みんな才能さえあれば外に向かってるんだよね。ヨーロッパの人たちだってそうして頑張っているわけだから、日本人も頑張るしかない。その頑張りはいつか報われる、活きてくる局面が必ずあると思うし。

——今こそ世界に出るべきだと。

若い日本人の中にも才能がある人は多いと思う。自分が人とは違うアイディアを持っているなら、パイの小さい国内で競い合っていても難しいだろうね。

自分のアイディアを活かすために視野を広げ挑戦する、そういうメンタリティを持っていれば一抜けできる可能性は高いはず。そこに気付くか気付かないかは大きいと思うな。
本当に好きな音楽だけやりたいなら、別の仕事をして生活を安定させ、音楽を続けるのもいい。ただ、アーティストのダイナミックな醍醐味を味わいたいなら、世界に一歩踏み出す勇気があると違うかなって気がするよ。