マシュー・ハーバートの新作「A Nude (The Perfect Body)」。
それは、全て身体が生み出す音……食べる音や寝る音、洗う音、さらには排泄音や自慰行為の音だけで構成されたかつてない作品。まさしく彼が奇才と呼ばれる由縁を感じさせる逸品だ。

インタビュー前編ではそこに至る経緯と今作に秘めた思いについて聞いたが、今回紹介する後編ではその奇異なる作品を作り上げたプロセス、そしてその未来について聞く。

彼が“音楽を使って世界を変える”ために作ったと豪語した本作、その行く末とは……。

インタビュー前半はこちらから

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身体が生み出す音を音楽へと昇華させる
そのキーワードは“ジャズ”

——「A Nude (The Perfect Body)」における楽曲はどういったプロセスで作られたんですか?

まずはテーマの設定から入ったんだ。アイディアが生まれたのはいいものの、どう収拾をつけるべきかわからなくてね。

最初は12時間の記録というテーマで1時間目は“目覚め”、2時間目は“朝食”という感じにまとめようと思ったんだけど、それがなかなかうまくいかなくてさ。

最終的には“行動別”のまとめになった。ただそれもまた難しくて、今回はある意味でジャズのレコードみたいに考えればいいのかなと思ったんだ。

——ジャズですか?

モデルがマイルス・デイヴィスで僕がバンドだと想像した。
彼女の出す音が主役で、僕は彼女のすることを受け入れ、支えていけばいいんだってね。

僕がするべきことはとにかく彼女の音を支え、伴奏すること、それだけさ。

——アルバムのディスク1、睡眠に関する楽曲“is sleeping”は驚きというか、唖然とするしかありませんでした。そして、2時間に及ぶ作品時間の半分がまさかこの曲で占められているとはと。

それはね……録音したものがその長さだったからだよ。
彼女が僕のために録音してくれたものをどこで切ればいいって言うのさ。切る理由がないよね。

実は今回の作品で一番気に入っているのがこの曲なんだ。それは、そこに独自のリズムがあるからだと思うな。

——その他の曲ではたくさんの音を録音し、素材があったと思うんですが、どうテーマ付けし、サンプルをチョイスしていったんでしょうか?

まずは因習的な伝統……そういったものを網羅しておきたかった。
そして、例えば“is eating”ではかなりいろいろなものを食べてもらったけど、今回繰り返し登場するのはリンゴで、それはアダムとイヴに繋がるからなんだ。

リンゴはこの作品において非常に象徴的なもの。そして、この曲はリンゴを食べ終わるまでの時間がそのまま収められているんだ。

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