奇才の名を欲しいままにするマシュー・ハーバート。
彼はこれまで度々奇想天外な試みで世界を驚かせてきたが、新作「A Nude (The Perfect Body)」ではまたまた規格外の試みでリスナーの度肝を抜いている。

なんと、今作は全て身体が生み出す音……それは食べる音や寝る音、洗う音、さらには排泄音や自慰行為の音までだけで構成している、これまでにない試み。

果たして、ここにはどんな意味があるのか……それを探るべく本人に問う。
するとその答えは……“音楽を使って世界を変える”ことにあった!

sub1

悪しき世界を変えるべく
彼が求めたサウンドとは……

――まず、このアルバムの原点となったことはなんでしょう?

僕がまず考えていたのは……“音楽を使って世界を変えたい”ということだったんだ。
今、世の中は確実に間違った方向に進んでいるからね。

僕はそれを変える、もしくはそこに衝撃を与えたかった。そして、人生における画一的なパターンを混乱させたかったんだ。

世界はすごい勢いでおかしなことになっている。ドナルド・トランプ、ファシズムの台頭、気候の変化、核兵器、その他にもいろいろね。

僕らは自分のあり方を急いで変える必要があり、だからこそ予定調和を壊す発想を求めたんだ。
今の世界に歯止めをかけ、大切なもののために戦い始めるためにね。

そこで探したのが逸脱したサウンド……例えばショッキングだったり、不快だったり、あるいは奇妙だったり……そういった感覚を催す音。
つまり、誰もができれば聴きたくない音がそれだろうと思ったんだ。

それは例えば他人のトイレの音とかね……そういえば日本にはそれを他人が聴かなくてすむようなシステムがあるよね(笑)

——ありますね。トイレの音を消す装置が。

大便は人間誰しもせざるを得ないことなのに、その音はみんな嫌がるよね。それってすごく不思議なことだと思うんだ。

今回はそういったことがひとつの出発点になった。
そして、僕がまず理解すべきことは他人の身体に感じる違和感なのかもしれないと思ったんだ。

そのためには誰かの身体の音を録音する必要があり、そこから僕は“ヌード”ということに思い至った。

それはつまり裸に、むき出しになるということさ。
そんな感じで発展していったんだ。ある日突然閃いたわけじゃない。

ある植物に水をやり続けていたら“これはサボテンだったのか!”、“メロンができたぞ!”と気付くような感覚。
ここに至るまでのプロセスはまさに進化の過程だったんだ。

——“他人の肉体の音を録音する必要がある”ということは、今回この音を生み出していたのはあなたではないのですね。それは女性でしょうか、男性でしょうか?

女性だよ。それはすごく迷ったんだけどね。
ただ、僕ではない他人であることが重要で、男性にするとみんな僕が演奏者だと思ってしまうだろうし、それではあまり面白くない。

第一、自分の身体が発するノイズを自分で録音して発表するなんて、あまりにも内向的すぎる気がしてつまらないだろ。

他人の音を録音する方が僕ははるかに興味深かったし、他人という意味では異性である必要があると思った。

でも、今回お願いした彼女には男性の音も録音し、作品の中に一部取り入れる話も予めした。
だから、結果的には作品上のジェンダーは聴こえる音以上に交錯していると思う。
女性の音かと思えば、実は男性の音もあるんだ。

——その2人は今作にとって本当に重要な役割を担っていたわけですね。

特に女性はね。彼女は本当に大いなるコラボレーターだったよ。
だって、自分が排便する音を録音してくれる女性なんてそうそういないだろ。

それに極めて個人的なこと……オルガズムの音まで提供してくれるなんてね。

その他にも洗い物や食事、そして眠るという、ものすごく無防備な状態も録音させてくれた。本当に彼女はこの作品の重要な一部だ。

——すごい女性ですね。

まったくだ(笑)

sub02

<次ページ> “ヌード”はアートの世界では古くからあるモチーフですが…

1 2 3