スクラッチバトルの世界最高峰:UK DMCチャンピオンを経て、名門レーベル:Warpからデビュー。
DJ、プロデューサーとして、誰もが羨む華々しき経歴を持つハドソン・モホーク。
そんな彼が、世界中から賛辞を浴びた処女作「Butter」から6年、待望の新作「Lantern」をリリースした。

前作での評価のもとカニエ・ウエストのレーベル:GOOD Musicと契約し、さらには様々なコラボ、プロジェクトに参加。さらにはMacBook AirのCM曲で一般層へもリーチ。数多くの新たな経験を経て自らのサウンドに磨きをかけつつも、初期初動を思わせるピュアならしさを存分に残す本作。
既存のセクショナリズムを解体する彼ならではのサウンドは、確実にダンスミュージックのさらなる高みへと到着している。

「2011年にEP『Satin Panthers』を発表した後、当初は1年ぐらいでアルバムを出そうと思っていたんだ。
だけど、その後様々な変化が起きてね。カニエ(ウエスト)のレーベル(GOOD Music)と契約したり、それまで以上に多くの人たちとコラボするようになったり。とにかく自分のスタジオで過ごすことすらままならないって感じでさ。仕事の電話があって、その翌日にはハワイにいた……なんてこともあったよ」

――かなりクレイジーな生活を送っていたんですね……。

「以前とは全く違う経験、それまでやったことがないことばかりだったね。それが、前作『Butter』から6年もたってしまった理由のひとつさ。あの年は本当に状況の変化が激しかった」

――生活の変化に対応するのも大変だったと。

「そういった活動をするのはメインストリームの人たちで、彼らにしてみれば日常的な行為だけど、僕にしてみたらね……。
でも、そういった状況の変化がありつつ、トゥナイト(彼とルナイスによるプロジェクト)もあって。それが予想していた以上にビッグなプロジェクトになり、僕らはさらに時間を奪われてしまったんだ」

――前作から今まで、この6年間でシーンも大きく変わったと思います。それこそEDMが台頭してきたり。

「実は僕、EDMが好きなんだよね。僕に“EDMは嫌いだ”って言ってほしい人はたくさんいると思うけど、僕自身はそんなことないんだ。
なぜなら、僕がグラスゴーで子供のときに聴いていたのは、そのテの音楽だったからね。ヒップホップ系の音楽を作りながら、クラブに行くと今のEDMのような音楽に耳を傾けていたんだ。
つまり、僕にとっては大きな影響を受けたサウンドなんだよね。そもそも、僕が最初に好きになった音楽はハードコア・レイヴだったし、あれもいわばその一部だよね。

当時、僕は10、11歳ぐらいだったけど、ミックステープを作って友だちに売りつけてたよ(笑)。といっても、キッズの中にハードコア・レイヴが好きなヤツなんてあまりいなかったけどね(笑)」

――このたび待望の新作「Lantern」が完成したわけですが、制作においてコンセプトやモチーフなどはあったんですか?

「まず、アルバムの1曲目は”Lantern”、それは最初から決めていたんだ。
他にも候補があったけど、これが一番マッチすると思ってね。なぜなら、このアルバムは一種のファンタジーの世界における24時間を描いたもので、その時間の推移をガイドしてくれるものとしてランタン=提灯、角燈がふさわしいと思ってさ。

つまり、1日=24時間を通してランタンの動きを追っていくみたいな感じだね。それこそアルバム自体、夜明けを思わせるトラックから始まり、日中を思わせるサニーなポップ・ソングへ。そして、日暮れとともにちょっとダークなトーンになり、最後は夜、クラブ・モードになっていくっていうようにね。

時間の流れが感じられるよう全体をアレンジしているんだ。クラブ・ライクな曲を終盤までとっておいたのもそのためさ」

――収録曲で気になったのが、昨年リリースしMacBook AirのCM曲にもなった”Chimes”がなかったことなんですが。

「さっきのコンセプトによる部分と、あとはアルバムの尺が長過ぎるものにしたくなかったからだね。
個人的な話になってしまうけど、僕の集中力はかなり短い方なんだ……だから僕の作る曲の多くは短いんだよね。

さらに言ってしまえば、”Chimes”はすでにシングルとしてリリースしているし、必ずしもアルバムにフィットするものじゃないと思ってね。あの曲は確かに僕の音楽のひとつの側面を代弁したものではあるけれど、必ずしもアルバムに入れたいとは思わなかったんだ。

僕がアルバムに収録したいのは、1、2年しか聴かれないクラブ・ソングじゃなくて、10年たっても自分が聴きたいと思える曲なんだ」

――今作ではエレクトロやソウルにR&B、そして独特のレイヴ感。ハドソン・モホークらしさを感じながらも、今回は以前よりも格式高くなったというか、ある意味神々しささえ感じたんですが……。

「それは……ここ数年で一緒に仕事をした人たちから学んだってことだね。
前作を作った時は、本当に1人だけでレコードを作っていたんだ。もちろんあの作品はとても好きだけど、今の僕にとってそれはあくまでターンテーブリストのメンタリティで作ったレコードみたいな感じなんだよね。

当時、僕はそのシーンから出てきて“より複雑に響かせれば響かせるほど、その音楽はさらによくなる”って考えていた。でも、この2、3年で様々な経験をすることで、複雑=いいとは限らない、そればかりじゃないって気付かされたんだ。

複雑さを追求すべく音楽をただ複雑化するのは必ずしもベストなアプローチじゃないってことだね。つまり、その期間は僕にとって学習のプロセスというか、ひたすら加え続けていくプラス思考だけでなく、逆にパーツを取り除いていくことを覚える学習過程だったんだ」

――音楽に対する考え方が変わったんですね。

「数少ない要素を最大限に活かすにはどうすればいいのか。僕はそのやり方が学びたかったんだ。
最終的に数多くのエレメントが残ったとしても、僕はそれらの要素全てを再度吟味し直すようになった。厳しく、細かくチェックしていってカットするものを決断していく……リスナーに大きく響くようなハードさは可能な限り楽曲に持たせたいんだけど、同時にできる限りシンプルなものにもしたくてさ」

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――そんな中で”Ryderz”では、ソウルの名曲をサンプリング。今作の中でも一際新鮮であり、なおかつ懐かしささえ覚えました。

「”Ryderz”のようなサンプル・ベースの曲は、僕が大好きなジャンルなんだ。だけど、残念なことに今ではこういう曲はなかなか生まれない状況だよね。
それはなぜかと言えば、こう話すのは非常に悲しいことだけど、思うにお金の問題なんだと思う。サンプリングの際に生じる許可料、クリアランスにかかる膨大な費用にみんな辟易してしまったんだよね。

でも、僕としてはこの歌で00年代初期から00年代末頃にかけてのひとつの時代に対して、自分なりに一種のトリビュートを捧げている感じなんだ。当時、たとえばDJプレミアやピート・ロック、J・ディラ、マッド・リブといった人たちがみんな素晴らしいサンプル・ベースのビーツを生み出していた。僕はそういった音楽に強く影響を受けたし、それこそ昔のカニエ(ウエスト)がやっていたビーツにも衝撃を受けた。

この曲でそういうプロダクション・スタイルに対し、自分なりに賛辞を捧げたかったんだ。
プロダクションそのものは非常にシンプルなもので、それこそサンプルに2、3のドラム、いくつかのパートでできる複雑なものじゃない。
でも、素晴らしいサンプル音源を見つけた時は、とにかく“これだ!”って感じるというか、即座にわかるものだし、すごく嬉しいよね」

――実際、サンプリングするときにはどんなことを意識しているんですか?

「多くの場合、コードを求めているね。もしくはあるメロディのパートかな。
というのも、サンプリングするのは一部だけで、その曲を全部使う必要はないからね。そこから3、4秒ピックアップすればいい話だから。
言葉にしてしまうと簡単に思えるかもしれないけど、実際は結構時間や手間がかかる作業だけどね。
それもまたサンプル・ベースという“ひとつのアート”が滅びつつある理由のひとつじゃないかな」

――今作では冒頭の”Very First Breath(feat. Irfane)”〜”Ryderz”〜”warriors(feat.Ruckazoid)”からして、その雑多感、懐深さに脱帽しました。
もはやジャンルやカテゴリなんてあってないようなものだと思いますが、制作の際にはどういったことを意識して曲を作ってるんですか? あくまで自分が作りたいもの? それともこれまでにないものを作ろうとか?

「多くは、純粋に自分の好きな何かを作ろうって感じだね。
たとえば“ビッグなヒットを作ろう”とか、何か狙って作ると大概うまくいかないものだと僕は思ってる。だから、僕の場合は願わくは自分も好きだと思えるものがやりたい。

最初から何かを決め込んで作ることはないし、前もって考え抜いて作り始めることもない。曲を作っているある時点で自分が感じたことを表現するまでだ。そして、一通り作ってみたところで、1枚のアルバムとしてうまく繋がり合うようにアレンジしていく。
今回、収録曲の他にも同時期に完成した曲、それは好きだけどアルバムにはそぐわなかったものもある。それは、おそらくいずれどこかの時点で発表することになると思うね。
もしかしたら、僕の次のレコードで陽の目を浴びるかもしれないけど、それもまた次作のヴァイブ次第だね」

――あなたは若くして大きな成功を収めましたが、今後に関してはどう考えてます?

「5、6年前の自分からすれば、今のこの状況は想像もつかなかったものだと思うんだ。
もちろん、その時から僕は今のポジションを求めていたわけだけど、当時はそれを実現するにはどうすればいいのか皆目検討もつかなかったからね。でも、どういうわけかね……」

――こんな結果になったと。

「そう。実際にそれが起きたんだ。だから、これから先、未来についてはね……。
ただ、これまで何度か関わったことがあるんだけど、もっと本格的にゲームの分野に関わってみたい。あとは映画のサントラもやってみたいね」

――それはハマりそうですね。

「もちろん僕はこれからもいろいろな人とコラボし続けていくことになると思う。でも、同時にそのコアとなる〝ハドソン・モホークのサウンド〞を維持していきたい。
だから、僕は作り続けたいと思ってる。ソロ・アーティストとしてレコードを出すことをストップしたりはしないよ。
ただ、次のアルバムが今回のように6年もかからないように僕も祈ってる(笑)」

――今年は「フジロック」への出演も決まっています。最後にそこに向けての意気込みをお願いします。

「日本には2、3回行ったことがあるけど、ここしばらく行けてなかったからね。だから、今回はDJじゃなく、ライヴで、しかもフルバンドのパフォーマンスをやろうと思ってる。
これはおそらく初めてのことになる。つまり、これまでのハドソン・モホークのショウとはまったく違う経験が味わえるはずさ」

シーンの未来を担うハドソン・モホーク
その輝かしきキャリアをプレイバック!

弱冠14歳でターンテーブリスト英国王者に!

8歳のころから自宅にあったHi-Fiのターンテーブルとデッキで半ば強引にDJをはじめ、11~12歳でプロ仕様のターンテーブルを手に入れると本格始動。
するとすぐさまその才能が開花し、14歳という若さでターンテーブリストの祭典「UK DMC CHAMPIONSHIP」と「ITF」でチャンピオンを獲得。シーンを大きく賑わせた。

世界屈指の天才集団Warpの未来

DJと並行し12歳で楽曲制作を開始。17歳でDJバトルに飽き、音楽制作がメインになると、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーなどを擁する名門レーベル:Warpに加入。
彼のサウンドは当時からWarpだけでなく、フライング・ロータスやプレフューズ73からも高く評価されており、デビューアルバム「Butter」でその名は世界に。

フェスにも多数出演、アクトとしても随一

プロデューサーとしてだけでなく、そもそもターンテーブリストだったこともあり、彼はアクトとしても世界レベル。毎週末のようにヨーロッパ~アメリカでギグを行うと同時に、数多くのフェスにも出演。
ここ日本でも『SUMMER SONIC』や『electraglide』といった国内最大級のイベントに参戦しており、今年も『フジロック』への出演が決まっている。

カニエも夢中、その類い稀なるポテンシャル

かつてないポップネスを携えた新たなビート・ミュージックを世に放った「Butter」は、世界屈指のアーティスト:カニエ・ウエストをも虜に。
彼のレーベル:GOOD Musicと契約することとなり、その後ドレイクやジョン・レジェンド、Rケリーなど、錚々たるビッグネームたちをプロデュース。いまやカニエの右腕的存在に。

MacBook AirのCMで世界を虜に

近年の彼の代表作と言えば、2014年に発表された“Chimes”。これはMacBook AirのCM曲となり、世界中でオンエア。その存在をお茶の間レベルまで響かせた。
さらには、ルナイスとのユニット:トゥナイト他、彼の活動の幅は膨らむばかり。今後もポップ~クラブをまたにかけ、さらなる活躍が見込まれる。

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Hudson Mohawke
『Lantern』
Warp Records / Beat Records