「今はダンスミュージックのモードじゃないんだ……」

12月の来日時、ジャパンツアー開催前に行なったインタビューでフルームはそう語っていた。
確かに、今年見事グラミー賞・最優秀ダンス/エレクトロニックアルバム部門を制した彼の最新アルバム「SKIN」は、既存のダンスミュージックの機能性を保持しながらも、そこにとらわれることない気宇壮大なものだった。そして、彼は続けてこうも言っていた。

「あまり最近のシーンに対しては印象がないんだよね。以前はダンスミュージックのカテゴリでリリースされるものはよく聴いていたんだけど……。
今はジャンルに固執することなく、何でも聴くようになったんだ。特に好んで聴いているのはヒップホップかな。あとはエクスペリメンタル」

とりわけ、東欧の雄トニー・キャッシュが最近のお気に入りだそうだが、今回の来日公演は彼がヒップホップへと傾倒し、さらなる進化の途中……そんな思いが続々とよぎるステージだった。

20171206-0Z6A7865

「SKIN」収録の“Tiny Cities”で幕を開けた東京公演。その後、エレクトリカルな“Drop The Game”ですぐさまアーバンの萌芽を見せ始める。

しかし、それは単純なヒップホップではなく、あくまでフルーム。グラミーで世界から認められた「SKIN」の収録曲を軸にしつつ、彼の出世作となったディスクロージャーの“You & Me”やラスティーの“Slasherr”のエディットなどを交えながら展開されるセットは、ダンスとアーバンの垣根を超えた、稀代の“エレクトロニック・マエストロ”だから成し得るハイブリッドなサウンド。

大きく拡張し過渡期を迎えたダンスミュージックをまた別の角度からえぐる、鮮烈かつ優美な音楽世界を見せてくれた。

20171206-0Z6A8158

そして、そんな世界をさらに豊かなものにしていたのが様々な演出。ステージ上には彼のライヴのシンボルとも言えるキューブが連なり、そこから放たれる光の波、そして迸るレーザー。かくも世界中を魅了してきた彼のステージには本当に圧倒された。

20171206-0Z6A8008

音の響き、波が光とシンクロしながらフロアへと向かい、さらにはキューブの背後にあるスクリーンでフルームのモチーフである美しき大華をはじめとする様々な映像のコラージュがめくるめく展開する。緻密にビジュアライズされたその濃密な空間は、フルームがフルームたるところであり、まさに独壇場。

20171206-0Z6A8098

えてして、ジャンルにカテゴライズされることない独創的なフルームのサウンドは難解に感じるところもあるかもしれない。しかし、その背後にあるのはいたってシンプルでフィジカルなもの。音楽だけでなく映像や演出とともに体で、五感で感じるべきもの。考えるよりも揺れる、それが正しいフルームの楽しみ方だろう。

今後さらに注目されるであろうフルームを、こんなにも身近で感じることができることは実に貴重であり、なんとも僥倖。

20171206-0Z6A7610

「僕は日本が好きなんだ。食べ物もカルチャーも好きだけど、何よりディティールにこだわっているところが素晴らしい。
そして、日本人は常に高みを目指している、そこは僕と共通しているところだね。日本にもいつかは住んでみてもいいかもね(笑)」

プライベートで日本に訪れることもあるそうで、フルームは大の親日家。それだけに、またぜひ近い将来日本でも素晴らしいライヴを見せてほしい。

20171206-0Z6A8149