DJ界のレジェンド、DJハーヴィーが海を渡り、我が国にやってきて四半世紀。初来日から25周年を祝して開催される、記念すべきツアーに向けて、伝説といわれる男の半生を改めて振り返る。 21世紀以降、音楽、とりわけダンスミュージックは、かつてないほどのスピード感でめまぐるしく変化している。様々なサウンド(ジャンル)が生まれては消えていく、そんな時代だけに、特異な才能を発揮し、後世に残る偉業を成し遂げた突出した存在、つまり“レジェンド”はなかなか生まれない。それは、たとえ生まれたとしても、いまのあまりに早い時代の流れに埋没してしまう、あるいは過去の輝かしき伝説の前に存在感が薄れてしまうからなのかもしれない。 先日、惜しくも逝去したフランキー・ナックルズ。ハウス・ミュージックの父たる彼は、まさしく“伝説”と言える存在だろう。フランキー然り、いまなお語り継がれる伝説的クラブ:Paradise Garageの英雄ラリー・レヴァン然り、シーンに確かな足跡を残した偉大なる先人たち。様々なジャンルにおいて、そうした偉人は数多くいるが、ことDJとして、さらにはあらゆるジャンルに分け隔てなく多大な影響を与えたという強者は、前途の二人以外では、おそらく彼、DJ ハーヴィーしかいないだろう。 DJ ハーヴィー、彼は“ディスコ・ダブのパイオニア”、“リエディットの帝王”、“DJとして最も神の領域に近い男”など、様々な異名が常につきまとう。しかし、それだけでは、いかにスゴいのかいまいちわからないと思うので、ここで彼の半生を一度振り返ってみたい。 ハーヴィーは、イギリス・ロンドン出身。1963年誕生(現在50歳)。彼は80年代半ばに地元ロンドンでDJとしてのキャリアをスタートする。1980年代と言えば、アメリカでは前述のフランキー・ナックルズが台頭し、ハウスが時代を謳歌する一方で、デトロイトのホアン・アトキンス、デリック・メイ、ケヴィン・サンダーソンによりテクノも勃興。それらはイギリスへも伝播し、ヨーロッパのシーンも大きく変化していく。そして、80年代後半には世界を揺るがす一大ムーブメント、セカンド・サマー・オブ・ラブが勃発し、ダンスミュージックが一世を風靡する。その時期にハーヴィーは、DIYクルー:トンカ・サウンド・システムに属し、様々な場所でレイヴやウェアハウス・パーティを仕掛けていき、シーン黎明期と言えるこの時代に才能を開花させていくのだ。 そして91年にスタートした自身のレジデント・パーティ『Moist』がUKのアンダーグラウンド・シーンで爆発的な人気を博し、当時のパーティラヴァーたちを熱狂させた。その『Moist』には、Paradise Garageのレジデントである伝説のDJラリー・レヴァンも出演。ハーヴィーは、ラリーさえも魅了したのだ。 そして、ラリー・レヴァンが音響設計を担当したMinistry of Soundの立ち上げに関わり、オープン後はそこでレジデントをつとめ、数年かけて世界最高峰のクラブへと押し上げた。そうしてヨーロッパで長年活躍したのち、彼はその舞台をアメリカへと移すことになる。 2000年代初頭にはロスに移住し、そこで新たなチャレンジをスタートさせるのだ。彼のDJは、国境や人種を超え、よりボーダレスな活躍を見せるとともに、コズミック、ニューディスコの復権に大きく貢献した。 さらには、サーフィン、スケートボード、バイクなど、様々なカルチャーとリンクし、かねてからフリーレンジだった活動にさらなる拍車をかける。彼のDJとしての一連の活動、音楽性、何事においても新たなものにチャレンジするその開拓精神もまた、彼がレジェンドたる所以の1つだろう。 また、DJ活動の一方で、いまでは主流となっているディスコ・リエディットの源流を作り上げたといえるレーベル:Black Cockを主宰するなど、プロデューサーとしての活動も目覚ましい。それも生粋のDJだけに、アンダーグラウンド・シーンでの信頼は大きく、現在のダンスミュージック・シーンに決定的な影響を与えてきたのだ。しかしこの頃、アメリカでの活動中にビザ・トラブルで海外遠征ができなくなってしまったのだ……。しかも途方もなく長い期間である。 2010年、念願のワールドツアーを再開できるようになり、世界中の巨大フェスや名門クラブ、アート・プロジェクトなどにも参加。ここ日本へも8年ぶりの来日を実現して、狂熱に満ちたハーヴィー旋風が全国に吹き荒れた。それから4回のジャパンツアーを行い、述べ2万5千人以上を動員。そんな彼が、今年2014年で、初来日から25年というマイルストーンを迎え、この度アニバーサリーツアーの開催が決定した。 25年という長い歳月の中で、ここ日本でも僕たちに最高の音楽体験をさせてくれたハーヴィー。なかでも、日本への愛を感じさせたのが2011年のジャパンツアー。この年、日本では今なお傷跡残る「東日本大震災」があった。当時、多くのDJ・アーティストが次々と来日をキャンセルするなか、彼は自ら日本に来ることを望み、ツアーを敢行し、被災地にも向かった。そんな彼の心意気は、震災で傷ついたオーディエンスたちの光明となったことだろう。彼自身、生きていられることの素晴らしさを自らのプレイとともに伝えるべく、何としても来日したかったと語っている。 そんな彼の記念すべき25周年アニバーサリー。これまで、音楽、DJプレイで絶えず元気付けられてきたその御を返すべく、いまこそみなで盛り上がりたい。 メモリアルツアーの前に、5月にはアメリカ・ミシガンにて『Resident Advisor Official Movement Opening Party』、6月中旬にはバルセロナの『Sonar』にも出演。そして今週末、日本で行われる新たなフェスティバル『Resident Advisor @ ageHa』をはじめ、全国7都市/7会場へ出演する。“レジェンド”と世界中から讃えられながらも、常に進化を続けるハーヴィー。時代やジャンルに関係なく、あらゆる楽曲が次々と紡がれ、しかもそこには唯一無比のストーリー、スピリチュアルな世界観も内包。常に自然体、オープンでいながら、自身の感性にストリクトなマインドが生み出す奇跡の瞬間……。 初来日から25年、世界を揺るがし続ける“レジェンドの今”を体感してほしい。